患者さんが良く示すサインとお決まりの対応について確認します。その上で、患者さんとのより良いコミュニケーションのための、受動的な聞き方、能動的な聞き方についてお伝えします。
受動的な聞き方と能動的な聞き方
看護師は目の前の問題を抱えた患者さんの気持ちを心で感じ、捕らえているのですが、意外と「こんな気持なのですね」とそのままを口にはしていません。
感じているのに、ここはこういった方が良いのではないか、今はこれが必要なのだろうか、と頭で考え、意見、判断として口にしてしまいがちです。
心に感じた相手の気持ちをそのまま口にするコミュニケーションが受動的な聞き方と考えると、誰にでも簡単にできるはずです。
しかし、受動的な聞き方には限界があり、限界のない効果的な聞き方が能動的な聞き方です。
- 受動的な聞き方 相手に話をするように誘うだけの受け身
- 能動的な聞き方 積極的に相手に働きかけ、話をしやすくする
まず、心の悩みを示すサインにはどんなものがあるのか、それに対してお決まりの対応をしていないか、を考えてみる。
そして受動的な聞き方とはどのようなものか、能動的な聞き方をするにはどんなコツがあるのかを見ていきましょう。
心の悩みを示す12のサイン
悩みや悲しみ、苦しみなどを心に持っている時、以下のような何らかのサインを出しているものです。
- 泣く、食欲がなくなる
- 無口になる、おしゃべりになる
- 視線を合わせない、看護師の顔色をうかがう
- 爪を噛む、呼んでも返事をしない
- 顔色が悪い、布団にもぐる
- ため息を付く、ものに当たる
- ものを投げる、看護師に当たる
- 死にたいと思う、みんな死んでしまえば良いと思う
- おもらしをする、言われたことをやらない
- 文句を言う 家に帰りたがる
サインの出し方は人によって様々で、悲しいときにわざと明るく振る舞う人もいるでしょう。年齢、性別、性格によっても、また看護師の患者さんへの接し方によっても違ってきます。
看護師自身がどのようなサインを出しているかについても考えることで、患者さんのサインを受け取れる力を身に着けていくことも、看護師にとって大切なことです。
患者さんのサインを見逃さず見つけられることで、問題を抱えた患者さんが、その悩みを解決したり、取り組むための適切な手助けをすることも可能となります。
お決まりの対応は沈黙を呼ぶ
患者さんのサインに対して、善意で、その人のためと思って口にしていることも多いです。
以下のような「お決まりの対応」は、患者さんが問題を抱えているときは「自分の苦しみや悩みを理解しえてくれて、見守ってくれていると考えましょう。
だから頑張らなければ」という気持ちを患者さんに引き起こさせることは出来ません。逆に患者さんはイライラして、話をしたく無くなり沈黙してしまうことが多いのです。
- 命令、指示、指揮
- 警告、注意、脅迫
- 説教、訓戒、義務付け、世話焼き
- 忠告、提案、解決策を与える
- 論理による説得、議論、教示、講義
- 審判、批判、反対、非難
- 賞賛、同意、肯定的評価、是認
- 悪口、侮辱、馬鹿にする
- 解釈、分析、診断
- 激励、道場、慰め、支持
- 探る、質問、尋問
- 逃避、ごまかす、笑いに紛らす
日常的に多い対応
えぇ~!そんなこと言ってないわよ
と反論したくなると思います。しかし、日常的にこうした対応をしていることが多いのも事実です。例えば食事に関してのやり取りをとっても
- 食べないと病気が治りませんよ
- 減塩食は誰でもマズいんです
- 男の子なんだから我慢できるでしょ
- マズいのは食べたくないですよね
- 楽しいことを考えて食べましょう
- 体のためを考えた食事です。まずくても食べないとダメですよ
などなど。つい言っていませんか。
受動的な聞き方は悩みや不安を軽くする
ついつい言ってしまう、お決まりの対応をせずに、患者さんの悩みや不安、苦しみを少しでも軽くする手助けをするには、受動的な聞き方による対応をします。
これは、患者さんが問題を抱えているサインを送っている時、看護師が患者を受け入れ、関心を持っていることを示し、患者さんに自分の気持ちを話しやすくするのに効果的な方法です。
受動的な聞き方による対応
そばにいる
相手が問題を持っているのがわかった時、同じ部屋にいて(他の仕事はせずに)患者さんと向き合っていることで、看護師が患者さんのサインを大切に機構としていると感じさせることが可能です。
黙って聞く
患者さんが問題を話し始めたときや、悲しみ、不安、絶望などの深い感情を味わっているときに有効です。
相槌をうつ
あなたが患者さんの言葉に注意を払っていることを示す、「そう」「まあ」「なるほど」「本当に」などの短い表現。ある程度看護師の受容と共感を伝えます。
うながす
患者さんにもっと話、考えや思い、感情を伝えるように呼びかける言葉、「よかったら話してみませんか」「何かできることはありますか」「どういうことでしょう」等、看護師の受容を表し、患者さんを助けたいと思っていることを伝えます。
受動的な聞き方の限界
受動的な聞き方は、押し付けるところがないので、患者さんが自分の気持ちをハアしやすくなり、看護師に受け入れられたと感じてもらえるので、コミュニケーションを継続させる効果があります。しかし、以下のような限界もあります。
- 聞く側(看護師)の言葉が少ないので、患者さんは物足りなさを感じる
- 本当に理解してくれたかどうか相手にわかりにくい
- 患者さんの言ったことを、看護師がどのように受け取っているのかよくわからない
- 看護師と患者さんが親密に十分わかり合える力はない
これらの限界が無い効果的な聞き方が能動的な聞き方です。
能動的な聞き方~心のキャッチボール
- 患者さんの言うことを繰り返す
- 患者さんの言うことを自分の言葉で置き換える
- なぜその言葉を言ったか、患者さんの気持ちを受け止める
これを意識することで能動的な聞き方をすることが出来、お決まりの対応ではなく、患者さんの本当の気持ちに共感的理解を示すことが可能になります。
患者さんが看護師に何かを伝えようと思う場合、患者さんの内部には何かが起こっています。
- ○○が欲しい
- 不快な気分
- 心配・不安
- 怒り
等、何らかの不均衡状態にあり、それを均衡状態に戻すために患者さんは話をしようと思います。
患者さんの心のサインを受け止める
眠れないんです
(早く眠りたいのね)
睡眠剤をだしてもらいましょうか
(そういうわけじゃないんだけど)
あ、はい。ありがとうございます
実は患者さんはご主人と連絡が取れないことで不安になり、眠れなかったのですが、この対応では、それを言い出せず、不安は解消されません。看護師が以下のように対応することで、患者さんは安心して眠ることが出来ます。
眠れなくて困っているのですね
ええ、眠れなくて落ち着かないんです
眠れないので落ち着かないのですね
ええ。電話はもうかけられないですよね。携帯の充電が切れて夫に連絡がとれないんです
ご主人と話をされたいのですね
はい、急ぎの用があるんですが、さっきかけたときはでなくて
1階のエレベーターホルのわきに公衆電話がありますよ
あら、かけに行ってもいいかしら
はい、どうぞ
ありがとう
看護師の役割と自己評価
本当に言いたい人に言えない怒り、自分自身への自虐的な思いは、身近の言いやすい人、優しく接してくれる人の向かうことも少なくありません。
患者さんから向けられたイライラや怒りを、看護師自身へ向けられた攻撃と受け取るか、患者さんのぶつけ用のない気持ちの矛先として、「受け止めてくれる人」と認め、信頼しての行動と受け取るのか。
そこを区別する力と、看護師自身を自己評価できる力を育むことも大切です。
沈黙はコミュニケーション
コミュニケーションを取るように生まれつき、人と接して生きている私たちは、孤立することに恐怖感を持つのは普通のことです。患者さんの沈黙をコミュニケーションの断絶と恐れず、また、沈黙の気まずさや不安に耐えられなくて話すのではなく、
- 沈黙はコミュニケーションの一つの手段として捉える
- ゆとりを持って患者さんの沈黙に対応する
- 自らも沈黙する事を選ぶ
ことができるようにしていきます。
患者さんの沈黙、話してくれない行動を
- 嫌だ、困ったと捉える
- 問題を抱えた患者さんがサインとして沈黙していると捉える
- お互いに気にならない沈黙である
と、一人ひとり捉え方が違うでしょうし、看護師自身の状態によっても、患者さんの状況によっても感じ方は異なってきます。
看護師の心の余裕
看護師は、言葉によるコミュニケーションの促進や、情報の円滑な伝達、交流に対してばかりを考えるのではなく、むしろ沈黙に対してどう対処するか、そして自分自身が沈黙することをどう選び、実践すべきであるかを考える必要があるでしょう。
患者さんの沈黙を自分の問題にせず、相手の問題として捉えられた時、その沈黙は患者さんのコミュニケーションの一手段(サイン)として、看護師が対処可能な行動となります。患者さんのサインに対し、看護師が沈黙で対応することも出来ます。
患者さんの深い思いに心を至らせ、黙ってそばにいることも、悲しみや苦しみに打ちひしがれている患者さんにとって、何よりの救いになることも少なくありません。
沈黙を何もできなかったとマイナスに捉えるのではなく、言葉にならない思いの深さや重みに寄り添う、適切な看護のコミュニケーションの一手段としてプラスに捉えられます。
患者さんのサインに対応して、自ら沈黙を選んでいる、と積極的に考えられた時、看護師の心に余裕が生まれるのでは無いでしょうか。
白衣の天使のお腹の中
患者さんは医師や看護師の態度に、驚くほど敏感です。実は、患者さん以上に「言葉によらないメッセージ」を医師や看護師は伝えているのです。人はイライラしたり怠りすると、無意識にどうしてもそれが外にでてしまいます。
人によって違いはもちろんありますが、顔をしかめたり、眉がつり上がったり、声の調子が変わったり、と感情のヒントはすぐ伝わってしまします。
患者さんはそれをみて、「この看護師さんは、口では優しいことを言っているけれど、本当は面倒だと思っているんだ」と言った感じを持ちます。
例えば、夜勤で忙しい時間対に、患者さんが自分でできることなのに、ナースコールで頻繁に呼ばれると、看護師は「ただでさえ看護師がたりないのに」とだんだんイライラしてきます。
二重のメッセージは混乱、不安を呼ぶ
看護師は本当は患者さんの行動(頻繁なナースコール)を受容できないと思っているのに、言葉では「いつでも呼んでくださいね」と受容を示すとどうなるでしょう。
患者さんは「いつでもナースコールをしても良い」という言葉と、「本当は呼んでほしくない」という看護師の言葉によらないヒントの両方を受取り、混乱してしまいます。
その結果、自分が受け入れられているのかいつも「試そう」としたり、大きな不安を持ったり、感情が不安定になったりしてかえって看護師を煩わせることになってしまいかねません。
看護師自身が自己評価をすることも大切
看護師が本当の自分の感情や態度を隠したつもりでも、患者さんは敏感です。24時間体制で患者さんと長く関わる看護師は、本当の感情を隠すことは無理です。患者さんを受け入れているふりをすることは、かえって危険です。
看護師は、自分の感情を見ないようにしているクセがついてしまうと、患者さんの本当の感情も見えなくなってしまう危険があります。
看護は人を対象に行われる仕事です。心からの看護を行うためには、看護師自身が人間らしさを捨てる必要はありません。むしろ自分が様々な感情を持った一人の人間であることを認め、自分を許す必要もあると思います。
看護の現場では、言葉によらないサインや、口にされた言葉のサインの後ろにある、患者さんの本当の思いを読み取り、適切に対処することが必要です。能動的な聞き方は患者さんの気持ちを共感的に理解し、言葉や行動でフィードバックします。
言葉にならない患者さんの思いにも対応できることで、患者さんから更に言葉が引き出され、より正確な理解を促せるでしょう。そして効果的な治療や看護につながっていくのです。
まとめ~患者さんは敏感です
患者さんのサインにお決まりの対応をするのではなく、より良い看護につなげるためには能動的な聞き方が効果的です。
また、患者さんは看護師の言葉にならないサインに、とても敏感なことも忘れてはいけません。白衣の天使のお腹の中はお見通しです。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ