アルコール依存症は、飲酒をコントロールできなくなる病気です。本人は自分の問題を隠す「否認」の傾向があり、自分から治療をしようと、病院に行くことはほとんどありません。治療開始のカギとなる、家族の正しい対応についてお伝えします。
アルコール依存症治療のカギは家族の対応
アルコール依存症の治療は、家族が病気のことを正しく理解し、患者さんに適切に対応することが重要です。
アルコール依存症は専門の医療機関で治療が行われます。しかし、アルコール依存症の患者さんは、本人が自ら病院に行くのはまれです。
受診につなげるためには、家族が説得したり、第三者に相談して助言を受けたりすることが必要になります。
そのためには、家族がアルコール依存症がどのような病気かを正しく知り、適切に対応することが治療の第一歩に繋がります。
- 定年後に連続飲酒の症状が見られるSさん
- 夫の両親との同居で飲酒量が増えたYさん
の例から、アルコール依存症治療について理解を深めてください。
定年後に飲酒が習慣化
- 定年後これまでの生活と比べて時間が自由になった
- もともとお酒が好きだった
- 昼間からの飲酒が習慣化
家族は、Sさんの飲酒量が増えることに不安を抱いていますが、お酒がなくなるとSさんのために買ってきてしまいます。
Sさんは飲んでいるうちに寝てしまい、起きるとまた飲み始める、という飲みかた「連続飲酒」をしています。
これはアルコール依存症に特徴的な症状で、Sさんはすでにアルコール依存症に陥っていると考えられます。
世話焼き行動が回復を阻む
Sさんの家族は、【お酒を買ってくる】ということをしています。
これは世話焼き行動「イネイプリング」にあたり、アルコール依存症から回復するきっかけを遠ざけてしまいます。家族は頼まれても、きっぱりと断らなければいけません。
世話焼き行動は、続けていると本人が自分の起こした問題に直面することが無いため、いつまでたっても治療に結びつきません。世話焼き行動にはこの他
- 会社に欠勤の連絡をする
- アルコールが原因でトラブルを起こした時、本人に変わって謝罪する
- アルコール絡みの借金を肩代わりして、本人に言わずに返済する
などがあります。家族は飲酒を助長する行動を摂らないことが重要です。心当たりがないか自分の行動を見なおしてみてください。
夫の両親との同居で飲酒量が増えた
Yさんは、夫の晩酌の付き合い程度にお酒を飲んでいましたが、夫の両親と同居後、姑との関係がうまくいかず、ストレスからお酒の量が増え始めました。
姑はお酒を辞めるように言いますが、Yさんは辞めません。最近ではお酒を飲まないと手が震えるようになってきてしまいました。
姑とのストレスが引き金で離脱症状
Yさんは、アルコールが体から抜けた時に、手の震えが起きています。
これもアルコール依存症に典型的な「離脱症状」の一つなので、アルコール依存症の可能性が高い。
同居がきっかけで姑との関係がうまくいかず、そのストレスが飲酒量を増やす原因となっています。
Yさんの夫が役割を果たし、家庭内の問題を解決していくことが大切です。
また、姑がYさんがお酒を飲んでいる時に、お酒を辞めるように言うのは改善する必要があります。
よっている時に話しても効果が無いばかりか、かえって悪化する場合もあります。シラフの時を見つけて、離すようにします。
※Sさん、Yさんの例は、特定の事例を取り上げたものではありません。様々な実例を参考にした例です。
専門機関への相談と治療
家族の説得で本人が医療機関を受診する場合は、それで良いのですが、そうでない場合は家族が果たす役割が大きくなります。
専門機関に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。相談先としては
- 精神保健福祉センター(都道府県と政令指定都市に設置されている)
- 保健所
があり、その他に
- アルコール依存症治療の専門医療機関
- 自助グループ(断酒して回復しようとしている人が、お互いに励まし合って活動)
などがあります。
【かかりつけ医への相談】
また、アルコール依存症の患者さんの多くは、肝機能障害など様々な病気を持っているので、かかりつけの医療機関があるはずです。
かかりつけ医から適切な医療機関を紹介してもらい、受診を勧めてもらうのも良い方法です。
まず、家族がかかりつけ医に相談することもできるし、企業に務めている場合は産業医の説得で、専門医療機関の受診に繋がるケースも少なくありません。
断酒の継続が治療の基本
治療は、一定期間入院して、退院したあともしばらく通院するのが一般的です。アルコール依存症は、飲酒のコントロールできない病気なので、飲酒量を減らすのは無理です。
また、長く断酒していても、飲み始めればすぐに元の状態に戻ってしまう、という特性があります。そのため断酒を継続するしか治療の方法はありません。
治療の基本であると同時に目標とするのは、断酒の継続となります。
治療の流れ
【解毒期】
入院して1~3週間ほどは、肝臓の病気など、飲酒によって沖が身体面の治療をします。
その段階で、手の震えや嘔吐などの離脱症状が現れた場合は、「抗不安薬」が処方されることがあり、離脱症状を抑えることが治療の中心となります。このような時期を「解毒期」といいます。
【リハビリ期】
離脱症状が治まり、体の状態が回復してくる時期には、本人が断酒を決意して継続することを助けるために、次項のような「心理社会的治療」を行います。
心理社会的治療(リハビリ期)
離脱症状がおさまり、心身の状態が安定したら、心理社会的治療を中心にしたリハビリテーションに入っていきます。必要に応じ、断酒補助薬を使用します。
- 教育
- 認知行動療法
- カウンセリング
- 自助グループへの参加
- 家族への対応
- 断酒補助薬の使用
心理社会的治療の概要
【教育】
アルコール依存症や、アルコールの心身に対する外について、正しい知識をみにつける
【認知行動療法】
アルコール依存症や治療に対して、本人の間違ったしこうを修正していく
【カウンセリング】
個人あるいは小グループによるカウンセリングを実施
【自助グループへの参加】
入院中から自助グループに参加し、他のメンバーと語り合い、悩みを分かち合って、断酒の決意を固めていく
※断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)などがあり、断酒の継続を目的とした、アルコール依存症患者さんの市民団体。メンバーが集まって、自分の経験を語ることを基本にしています。
【家族への対応】
アルコール依存症は早期発見、早期治療が重要です。しかし、自らが治療を求めない病気なので、家族など周囲の説得で治療へと繋げなければいけません。
早期は本人が病気を認めないことも多く、家族が症状などを知っていることも重要。
前回お伝えしたスクリーニングテストなどで判断の目安にし、早期発見を目指します。
家族がアルコール依存症について十分に理解していない場合や、対応の仕方がよくわからない場合に、家族に対するプログラムも行う
断酒補助薬
断酒の継続のため、必要に応じて補助的に薬を使い始めます。「抗酒薬」と「アカンプロサート」の2つがあります。
抗酒薬:体質的に飲酒できない、いわゆる下戸の人と同じような体質を薬で作り出します。
水薬と粉薬の2種類(ジスルフィラムとシアナミド)があり、服用すると、一時的に身体がアルコールを受け付けなくなります。
抗酒薬を使っていて飲酒すると、非常にはげしいフラッシング反応を引き起こすので、これを良く説明し、飲酒をしないための一つの支えとして用います。
副作用に肝障害があるので、肝機能をチェックしながら使います。
アカンプロサート:2013年から使えるようになった薬です。急性期の解毒薬ではありません。
抗酒薬とは違い、中枢神経に作用して飲みたいという欲求そのものを抑えます。重い副作用はありませんが、下痢が比較的起きやすい副作用です。
これらの薬物が果たす役割は、あくまでも補助的なもの。最も大切なのは、本人の断酒の決意です。
退院後の治療
退院後も断酒を継続しなければいけません。その時に大切なのが外来治療の三本柱です。
外来治療の三本柱
- 定期的な通院
- 薬の服用
- 自助グループへの参加
この3つを継続できれば、断酒を継続できる確立が高くなります。治療は患者さんの症状に応じて、様々な組み合わせで実施されます。回復には数年という長い時間がかかります。
まとめ~アルコール依存症は本人の強い意志と家族の支えで治す
本人の健康、家族や社会にも悪影響を及ぼすアルコール依存症。
治療の第一歩は家族が病気に対して正しい知識をもち、患者さんに適切に対応することです。専門医療機関の受診と治療を継続すること。
そのためには、本人の強い決意と家族の支えが重要です。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ