看護師は病む人と関わり、絶望することが多い仕事です。どんなに手を尽くしても死にたくない人が死んでいく。その無力感は深まるばかり。そんな時看護師の辞めたい思いを打ち消す力とは。
辞めたい思いを打ち消す力</2>
人間は病気という状況で、負い切れないほどの困難や悲哀を前にした時、思いがけない行動をとるもの。
そこに生まれる泣き笑いは人生のはかなさや悲しさ、複雑な思いを込めた究極の笑いです。
無力感を感じながらも、それでも看護師を続けていく人たちは、自分の気持ちの収め方を、患者さんとの関わりから学んでいきます。
看護師は見た
看護師という仕事は、言わば患者さんの人間ドラマを、日々目の当たりにしているとも言えます。一歩間違えば、のぞき趣味的になる危険性を、十分認識しなければなりません。
おむつの上にセクシーなパンティ
余命わずかの50代の女性は、おむつに抵抗があるのか、昼夜構わずナースコールでおむつ交換を催促する方でした。
初めてその方の担当になり、ナースコールに応えようと準備をしていると、同僚のナースの口元が、なんだか緩んでいます。
不思議に思いましたが、「早く行かなきゃ」と病室に向かい、彼女のピンクの花柄の寝間着を開いた時、目に飛び込んできたのは…
真紅のレースのセクシーなパンティ!白いおむつとのコントラストが強烈でした。
その時はびっくりして、黙っておむつを交換し、真紅のパンティーをもう一度履かせて帰ってきたのです。
患者さんの思いと看護師の思い
おしゃれな方で、おむつをしなければいけない、ということが苦痛だったようです。
ご家族も少しでも気持ちが楽になるなら、と彼女が好きなセクシーなパンティを履かせてあげようと、お見舞いに来るたびに取り替えてあげていたのだそうです。
ナースたちは、それが広まると彼女が苦痛に感じるかもしれない、とあまり口にしなかったとのことでした。
患者さんは下着を汚したくない、と少しでも尿意や便意を感じた時に、ナースコールをされる、それをナースたちはごく自然に受け入れている。
それからひと月ほどして患者さんは亡くなられました。キレイにお化粧をして、大好きな真紅のパンティーとドレスに身を包んで、退院されて行かれたのです。
あけましておめでとうございます
お正月のことです。年末から入院されていた奥様が急変し、付き添っていらしたご主人がナースコール。急ぎ向かった病室でご主人にお会いした時です。
ご主人はたちあがり、私たちに「あめましておめでとうございます」とご挨拶をされました。普段からとても律儀な方で、彼にしてみれば年始の挨拶をせずには居られなかったのでしょう。
言われたこちらも、思わず深々とお辞儀をしていたのです。挨拶されたその瞬間は救命処置に必至です。おかしいと思う余裕はありません。
その後患者さんを集中治療室に移して一段落つきました。生死に関わる処置をする時に、新年の挨拶を交わしていた。後でしみじみ笑ったものです。
泣き笑いは感性を守るシェルター
思いがけない行動とは、何の変哲もない日常的なことだったり、思いもよらない突飛な行動であったり。生に必至で有ればある程、その行動には滑稽さが増します。
それは人間の持っている計り知れない深さや哀れさ、愛おしさが凝縮されたものといえるものです。
仕事中の緊張から解かれた時に、そんな場面がふっとよみがえり、しみじみ笑う。看護師辞めたい、と言う気持ちがどこかに飛んで行く瞬間でもある。
泣き笑いは、繊細な感性を守るためのシェルターとも言えるのです。
泣き笑いは現場で引き継がれている
「泣き笑い」と言う考え方は、実は長年働いている看護師の多くが、現場で引き継いでいるものです。
以前読んだ何かの本で、哲学の入門書が紹介されていました。そこで強烈に印象に残った言葉があります。
「この世界は、考えるものには喜劇、感じるものには悲劇である」
まさに「泣き笑い」を表す言葉だと思います。
感じることは患者さんのお世話をするためには、無くてはならない要素です。しかし、看護師という仕事は、感じているだけではつらすぎて、辞めたいと思ってしまう。
感じているだけでは、続けることは非常に難しいとも言えるのです。その観点で看護師を見ると、長く看護師を続けている人は、考えることが好きな人のようです。
まとめ~辞めたい思いは泣き笑いで
看護師不足で毎日のルーチンワークに追われ、自分の望んだ看護ができない、と悩み辞めていく看護師も多い。
一方で様々な思いを例えば「泣き笑い」で昇華し、看護師の仕事を続けるパワーと変えている看護師も多いのです。
「看護師辞めたい、ってこんなに辛いと思っているのに、あなたはなぜ辞めないの?」
「もしかしたら慢性疲労で病気になってしまうかもしれない、と思うこともあります。でも、やっぱり看護を通して人間として成長できるから、と思っているんです。だから看護師を辞めたいと思うことはあるけれど、私は辞めません」
看護師の仕事は、若い時は若いなりに、経験を積めば積むほどに、看護を通して人間的に成長できる、誇れる仕事です。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ