がんを予防したいけれど…ある種のがんの発がん物質が、別のがんの予防要因になることもあります。医学が進歩しても未だにがん(悪性腫瘍)の治療はなぜ難しいのでしょうか。がんと免疫の関係、リスクと利益のバランスを考えます。
発がん物質にはリスクと利益の両面がある
発がん物質だからアレはダメ、コレもだめとなると生活が窮屈になって憂鬱に。そんな経験をしたことがある人は少なくないのでは。
しかし、発がんリスクのある物質や行為が、別のがんでは予防的に働くことがあります。発がんやがん予防に関わる物質や行為には、リスクと利益の両面を併せ持つことが多いのです。
ちなみに誰にでも当てはまるがんのリスクは、ずばり「喫煙」です。
がん予防
発がん物質としてよくあげられるのが、肉や魚の焼け焦げやハム、ソーセージなどの加工肉、古いピーナッツのカビなど様々な物が言われています。
逆にがん予防には緑茶が良いなどこれもまた健康情報が溢れています。
あまりにも情報が多すぎてそれらを取り入れていた日には、がんを恐れるあまり生活が窮屈になりかねません。
リスクや予防法なども様々な研究がなされていますが、発がん物質を特定する研究方法には、発がん性が疑われる物質を動物に与え、がんが起こるかどうかを見る動物実験から、数十万の人を対象にして行われる疫学研究まで幅広くあります。
証拠の確実性に注目
メディアにあふれるがん予防情報を、自分の生活に取り入れようとする場合は、まずその予防法や発がん性が、人を対象にして調べられたものかどうかを確認してください。証拠の確実性にも注目することが大切です。
がん予防の評価
様々ながん予防法の中で取り入れるメリットが大きい場合があります。
- そのがん予防効果が確実、またはほぼ確実と評価されている
- リスクが生活と関わっている。身近にあり、自裁にある程度摂取していたり、さらされている
- 予防法を生活に取り入れても、失うものは何もない
証拠が後述する「確実」なものは必ず、「ほぼ確実」なものはなるべく、多少我慢しても生活に取り入れることをお勧めします・
がん予防やリスクの評価には
- 確実
- ほぼ確実
- 可能性あり
- データ不十分
の4段階があります。国際的な評価基準では、確実と評価されるためには
多くの疫学研究が一致して同じリスクや予防効果を示し作用メカニズムについても説明できること。
としています。
発がん物質のリスク
最近ではトーストの焼きすぎも注意という話も出ていますが、魚や肉の焼け焦げに含まれるヘテロサイクリックアミンと言う物質は、動物実験では確かにがんを起こします。しかし人間における発がんの確かな証拠はまだありません。
ピーナッツのカビが出すアフラトキシンと言う毒素には発がん性がありますが、アフラトキシンが作られる最適環境は30度、湿度90%以上とされ、日本はそのような環境にはありませんし、食品衛生法でも規制されていますので、心配はないのです。
発がん物質でも、生活の中でさらされる機会や量が少ないものはリスク(危険要因)にはならないといえます。
がんによって変わる発がん物質と予防
あるがんの発がん物質が、ほかの種類のがんに予防的に働くこともあります。例えば、紫外線、カルシウムの摂取、βカロテンなど。
紫外線
皮膚がんのリスクである紫外線は、「大腸がんの予防要因になる」可能性が最近多数報告されています。
日照時間の短さは紫外線不足による体内のビタミンD欠乏を招き、大腸がんのリスクを高めると考えられています。
東北地方の日本海側で、冬の日照時間が短い地域には大腸がんが多いことが知られています。
カルシウムの摂取
前立腺がんにはリスクになりますが、大腸がんには予防要因になるとみられています。
βカロテン
もともと欠乏している人が摂取すると、肺がんの予防効果が期待できますが、充足している人がサプリメントなどで過剰に摂取すると、逆に肺がんを増やしてしまうといいます。1994年にフィンランドでこのことが報告されると、世界中が衝撃を受けました。
これらの例のように、発がんや予防にかかわる物質や行為には、リスクと利益の両面を併せ持つことが多いのです。
喫煙は確実に誰にでも当てはまるリスク
がんによって、リスクとなるものは異なりますが、確実に誰にでも当てはまるのは喫煙です。たばこは肺がんだけでなく、胃がん、肝臓がん、食道がんなどほとんどすべてのがんのリスクになります。
更に問題となっている受動喫煙で、たばこを吸わない人でも、他人のたばこの煙が肺がんのリスクを高めるのは確実」であるという証拠もそろってきています。
日本人のがん死亡の約3割(男性で30~40%、女性で3~5%)は喫煙によるものと言う推計もあります。
IARC(国際がん研究機関)は過去25年間に発表された50以上の科学論文をもとに、一日にたばこを1箱以上吸う人の配偶者は、そうでない人より肺がんのリスクが20~30%高いと発表し、受動喫煙への注意を喚起しています。
症例・対照研究とコホート研究
発がん物質の特定などで行われる疫学研究の1つ、「症例・対照研究」は調べたい疾患の患者さんに、過去にどのような生活をしていたのかを思い出してもらい、健康な集団との違いから発がんの要因を探る方法です。
過去を克明に思い出す必要性や適切は対象設定が難しく、正確性に限界があるとされます。
コホート研究
症例・対照研究の限界を克服しようとした研究です。
- 最初に食生活などの生活習慣を聞き、その違いからいくつかのグルーブに分ける
- 集団を長期間にわたって追跡し、どのような生活習慣の集団にどのようながんが、どの程度発生するのか調べる
10万人規模の集団を10年以上にわたって調べます。きわめて長い時間と多くの人手を必要とする大規模なプロジェクトとなります。
そのため、症例・対照研究によって導きだされた研究よりも、信頼性が高いとされています。
1つの研究で出された結果は、発がんの証拠の1つに過ぎません。動物実験やがん化のメカニズム、免疫システムなどの科学的証拠を積み重ねることで、はじめて意義のあるがん予防につながります。
大腸がんの予防
大腸がんのリスクはアルコール、肥満(特に男性)、喫煙です。アルコールの量は、日本酒なら1合、ビールであれば大瓶1本、ウイスキーならダブル1杯相当です。
国際的にはハムやソーセージなどの加工肉、赤肉のとりすぎが大腸がんのリスクを確実に上げるとされており、一週間に500g以内に抑えることが勧められています。しかし、人によってリスクは異なります。
人によって違うリスク
欧米などでは、100g 以上のステーキなど肉を毎日食べる週間のあるような場合は、要注意です。しかし1日平均40g程度しか肉を食べない平均的な日本人では、さほど神経質になることはないかと思います。
肥満も大腸がんのリスク要因とされていますが、日本には極端な肥満者は少なく、逆に痩せすぎると免疫力の低下が心配されます。
大腸がんを予防するためのダイエット、体重のコントロールが必要かどうかは、肥満度次第です。
予防には運動
運動は国際的に確実視されている大腸がんの予防法です。身体活動・運動があります。仕事などで体を動かす機会の少ない人は、毎日60分程度の歩行などの身体活動を行い、週に1回は早歩きやランニングなどの運動をすることが勧められています。
予防の可能性あり、とされる飲み物としてコーヒーが浮上しています。(日本の研究)コーヒーとがんの関係については、これまでにコホート研究、症例・対照研究が数件ずつ報告されています。
その限りではコーヒーを飲む人のグループに、大腸がんの発生が少ないことを示す研究が多くあります。
胃がんの予防
胃がんの確実なリスクは「ピロリ菌感染」と「喫煙」です。国立がん研究センターのコホート研究では、胃がん患者の99%にピロリ菌抗体陽性などの感染の証拠が見られました。
一方、胃がんではない対照群でも90%が抗体陽性でした。このことは胃がん患者の殆どはピロリ菌に感染していますが、必ずしも感染者が胃がんになるわけではないことを示しています。
ピロリ菌に塩分や塩蔵食品が加わると胃がんになるのが、ほぼ確実な要因とされています。
胃の中が高塩分状態になると胃粘膜を保護している粘液の性質が変化し、ピロリ菌の持続感染やそれによる慢性胃炎を引き起こし、細胞のがん化が促されると考えられています。
塩辛いものが大好きという人は注意が必要です。
胃がんを予防する果物・野菜・緑茶
胃がんを確実に防ぐものはまだ見つかっていません。しかし、新鮮な果物や野菜(芋を除く)、特にネギやにんにくなどのアリウム野菜が、ほぼ確実な予防要因とされています。
また、緑茶ですが、1980年代に「胃がん患者には緑茶をあまり飲まない人が多い」という症例・対照研究から緑茶の胃がん予防研究が始まりました。
最近30万人を対象に、複数のコホート研究の再解析を行った結果、「緑茶は女性においてはほぼ確実に胃がんのリスクを下げる」と日本では結論付けられています。
しかし、どの研究も一致して「男性ではリスクは下がらない」としています。男性は喫煙など他のリスク要因の影響を受けやすく、女性は緑茶の予防効果が得られやすいためと考えられています。
がんと免疫
がん細胞は馬鹿になって異常増殖している自分の細胞です。がんの治療が未だに難しいのは、「がん細胞と自分の正常細胞を区別するのが難しい」からです。
がん細胞だけにダメージを与え、正常な細胞にはダメージを与えない薬を作るのはとても困難で、抗がん剤には副作用も多い。濃度を控えめにするので、有効率が低くなってしまいます。
実は健康な人の体の中にも、がん細胞は存在しています。それががんとして大きくならず病気にならないのは、免疫細胞ががん細胞をすぐに発見して攻撃しているためと考えられています。
免疫監視機構と免疫回避機構
何やら難しい言葉ですが、ばかになった自分の細胞が、免疫により認識され、がんになる前に排除されることを「免疫監視機構」といい、免疫監視機構をすり抜けてがんとなって増殖することを「免疫回避機構」と言います。
バカになった細胞がいないかパトロールして、見つけたら排除するのが免疫監視機構、監視の目をすり抜けたり、ごまかしたりして生き延び増殖するのが免疫回避機構、と考えるとわかりやすいかも。
がん細胞は特殊な能力を持っていて、免疫に自分ががん細胞だとさとられないようにごまかしたり、免疫細胞の働きを抑制するサイトカインを放出して、攻撃をかわすこともあります。
免疫力が低下するからがんになる、というのは正確ではありません。免疫力が正常であっても、がん細胞はその監視の目をすり抜けて増殖してくるのです。(免疫力の低下で発症しやすくなるがんもあります)
主ながんの発生率は、免疫不全の人と正常免疫の人とで優位な差は認められていません。
まとめ
発がん物質が予防の要因になることも。がんと免疫の働きなどがんについてはわからないことがいまだに多く、これと言った治療法、予防法は見つかっていません。
もっとも適切ながん予防と言えるのは、科学的に裏付けられたがんの予防法見極め、一人一人に合った方法で生活に取り入れて実行することではないでしょうか。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ
参考:
国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス
免疫でがん細胞を排除できるの 川上裕 PDF 日本免疫学会