最近急増中の肺MAC症。聞きなれない病気ですが、結核に似た症状が続き、重症化すると肺に空洞ができたり、呼吸困難になり危険な状態になることもあります。早期に治療するため、その特徴や症状についてお伝えします。
肺MAC症とは
肺MAC症は、結核菌の親戚のようなMAC菌と言う最近の感染が原因で起こる肺の病気です。
結核菌と同じ抗酸菌属と言う細菌のグループに属し、形もよく似ています。しかし、結核菌のように人から人にうつることはありません。
抗酸菌属は、感染力の強い結核菌と、それ以外の非結核性抗酸菌に分類され、MAC菌は非結核性抗酸菌です。
感染経路は不明ですが、水や土の中に生息している菌なので、水、土と関係があると考えられています。
特徴と症状
一般にはほとんど知られていない病気ですが、結核が年々減少しているのに対し、肺MAC症を含む非結核性抗酸菌症は、急増しています。
非結核性抗酸菌は150種類以上ありますが、日本ではMAC菌による発病が9割を占めています。
理由はよくわかっていませんが、特に中高年の女性に多いのが特徴です。2014年には、人工10万人に対し14.7人と、7年前の2.6倍にも増えています。
肺MAC症の主な症状はせきやたんです。1か月以上続いたり血痰が出る場合は肺MAC症が疑われます。結核に似た症状が続き、肺に空洞ができていきます。
結核に似た症状が続く
肺MAC症に気づかずひどくなると、発熱、全身倦怠感、体重減少と言った症状が現れます。さらに重症化すると、肺の組織の一部が壊れて肺に空洞ができたり、呼吸困難に陥り危険な状態になることもあります。
結核の症状とよく似ているのですが、結核は発病すると次第に熱が出てくるのに対し、肺MAC症はかなり進行するまで発熱しません。
病気の進む速さも異なります。肺MAC症は結核に比べ進行ははるかに遅く、発病してから10~20年かけてゆっくり悪くなっていくことが多いです。
診断のための検査
検査方法には
- 喀痰検査(かくたんけんさ)
- 胸部エックス線検査
- 胸部CT検査
があります。特に重要なのがたんに含まれる細菌などを培養し、原因を調べる喀痰検査です。胸部エックス線検査やCT検査では、肺の画像を撮影して印影などを調べます。ただし、エックス線検査の場合は、慢性気管支炎との区別がつきにくいということもあります。
CT検査は、肺MAC症特有の印影を確認できるので、診断の際に役立ちます。
治療
肺MAC症はMAC菌の感染による感染症です。抗生物質が治療の基本となります。感染症の治療に用いられるクラリスロマイシン、結核の治療に使われるエタンプトールとリファンピシンの3種類の抗生物質を使用します。
たいていの場合、薬を飲み始めて1か月ほどで症状が治まっていき、1年後には、肺に空洞ができていても小さくなっています。
薬を3種類使うわけ
3つの抗生物質を使うのには、2つの理由があります。
- MAC菌を完全に排除できる抗生物質がまだないため、併用により治療効果を高める
- 耐性菌ができるのを防ぐ
ことからです。
抗生物質は1種類だけを服用し続けていると、その薬に抵抗力を持つ耐性菌が現れ、薬が効かなくなってしまいます。3種類の違う抗生物質を併用すれば、耐性菌をできにくくすることが可能です。
処方された薬は、用法と容量を守って正しく使うことが大切です。自己判断で飲んだり飲まなかったりすると、耐性菌ができやすくなってしまいます。
治療は根気よく
一般に抗生物質を飲み始めてから1か月ほどで、せきやたんなどの症状は落ち着いてきます。3か月ほどたつと多くの患者さんからMAC菌は検出されなくなります。
しかし、治ったと思って抗生物質の服用をやめると、数か月後に再発し、悪化してしまうケースもあります。MAC菌が検出されなくなっても、2~4年くらいは継続して服用する必要があるとされています。
4年たって、薬を辞められる患者さんもいますが、現状では特効薬はありませんので、肺MAC症を完治させるのは困難です。しかし、定期的にチェックし、抗生物質を使っていけば、再発や悪化を防ぎ、うまく付き合っていくことができます。
薬の副作用と対処
抗生物質の副作用には、治療初期に現れるものと治療を開始してからかなりたってから出てくるものがあります。
- 治療初期に現れる副作用 かゆみや発疹などのアレルギー症状、肝障害など
- かなりたってから現れる副作用 視力低下
服用の仕方で対処
初期の副作用の多くは、薬をごくわずかな量から飲み始め、少しずつ増やしていくことで対処できます。
視力低下を早く見つけて適切に対処するためには、肺MAC症の治療が始まったら、まず薬を飲み始める前に眼科で視力の状態を確認し、その後定期的に検査を受けることが大切です。
薬の副作用による視力低下が見つかった場合は、原因となる抗生物質の服用をやめれば、視力は回復します。
副作用ではありませんが、高齢者の場合、すでにいろいろな種類の薬を飲んで入ることが多いです。
そのため肺MAC症がそれほど重くない場合は、無理に抗生物質を使わず、せきを和らげる薬や、たんの切れを良くする薬だけが処方されることもあります。
手術の検討
比較的若い患者さんで、肺の病巣が1か所に集中している場合は、病巣を摘出する手術が検討されることもあります。
病巣があちこちに散らばっている場合は、薬で小さな病巣をなくしてから手術となることもあります。
手術してもMAC菌がなくなるわけではないので、手術後も抗生物質の服用は続けなければいけません。
肺MAC症急増の理由に、生活環境の変化、地球の温暖化とも関係している可能性もあります。
MAC菌は暖かい環境を好むため、温水をいつでも使えるようになったことも背景にあるのでしょう。
また、肺MAC症と言う病気の存在が知られるようになったこと、CT検査の普及により早くから発見されるのも理由のひとつです。
まとめ~咳やたんが長引くときは検査を
肺MAC症は、人から人へと移る心配はなく、早く気付いて適切な治療を行えば完治は難しくても、長く付き合っていける病気です。
せきやたんが1か月以上続いている場合は、呼吸器内科を受診し、詳しい検査を受けましょう。
特に発症頻度の高い中高年の女性で、異常に気づいたときは早めの受診をお勧めします。
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