認知症は、長い時間で慢性的に進行し、初期の段階から日常生活や社会生活に支障をきたしやすく、介護者にとって大きな負担となります。家庭での介護でもできることが多い、看護師が行っている認知症ケアをご紹介。
認知症ケアの5つのポイント
「認知症だから、仕方ない」と諦める前に、まず認知症についての知識を学びましょう。
認知症についての知識を得ることで、進行をおくらせたり、より良いケアが可能になります。看護師は認知症の症状をじっくりと考える必要があります。
認知症の症状を「なぜそうするのか」考えると同時に、患者さんその人を受け止めることが大切です。
- 認知症の症状を理解する行動の理由を考える
- 行動の理由を考える
- 身体的な症状との関連を考える
- 「目立つ行動」「できないこと」ばかりに注目しない
- コミュニケーションを諦めない
これは、家庭での看護でも言えることです。
1. 認知症の症状を理解する
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」に分けられます。
中核症状
すべての認知症患者に共通して見られます。脳の病変部位と、その程度により現れる症状で、記憶障害、見当識障害、実行機能障害などが有ります。
周辺症状
必ずしも出るとは限りませんが、高い確率で現れます。中核症状に伴って引き起こされる症状です。行動障害(徘徊、収拾癖、不潔行為など)、精神障害(抑うつ、妄想など)
認知症の人を取り巻く環境や、生きてきた過程、生活の背景、性格、周囲の人の理解、身体的な症状などが大きく関連します。
2. 行動の理由を考える
認知症の人は突飛な行動を取る人、というイメージがありますが、その行動のウラには、その人なりの理由があります。その理由を考えると、対応の方法が見つかることも多い。
きちんと食事をしているのに、「まだ食べていない」と訴え、食べたことを説明しても忘れて、何度も同じ訴えを繰り返すことがあります。
中には同居の家族が自分を虐待してご飯を食べさせてくれない、と周囲に言いまわることも。
これは記憶障害や見当識障害などが原因で、状況を理解できないのです。
このようなときに、「食べたでしょう」と一方的に言うのではなく、なぜそのような行動を取るのかを考えることが重要です。
情報発信を見逃さない
認知症の人は、自分の思いを適切に表現できない、と言われますが、表情や行動でせいいっぱいの意思表示をしていることもあります。
突飛に見える行動の前後の様子、認知症の人の生活史、置かれている環境などを総合的に判断することで、対応の方法が見つかることが多いです。
この時、「情報の共有」は基本的な姿勢です。
3. 身体的な症状との関連を考える
認知症の人は、自分の身体に異変がおきても、それが何を意味するのかがわからず、異変を訴えることができない場合が多いものです。
「何もしたがらない」「ケアをしようとすると怒る」と言った行動や表情を見逃さないことが大切。
いつもと違うことを捉えたら、「意欲が無くなった」「何をされるのか分かっていないし、説明しても忘れてしまうから仕方ない」と決めつける前に、身体的な症状がないか、データが異常値を示していないかなどの確認が必要です。
4. 「目立つ行動」「できないこと」ばかりに注目しない
認知症だからといって、何もわからず、何もできないわけではありません。
できないことや問題行動ばかりに気を取られてしまうと、行動を制限したり、能力を奪うことにもなりかねません。
アルツハイマー型認知症の典型的な症状の進行例
初期症状 | 中等度 | 重度 |
---|---|---|
最も早く出現する | 周辺症状が最も多く出現する | 病変が大脳全体に 及ぶ障害が増大する |
近時記憶障害 | 見当識障害 | 日常生活全般に介助が必要 |
同じことを繰り返し尋ねる 大切な物を置き忘れて思い出せない |
外出先で方向がわからなくなる 迷子になる |
|
まだ多くの能力が残されている | 残された能力を発揮できるよう援助する | 僅かに残された能力を引き出す |
それぞれの段階で、残されている能力を発揮できるような援助が必要です。
そのためには看護師(介護者)に細かい観察をし、認知症の人が何を求めているのかを分析する能力が求められます。
5. コミュニケーションを諦めない
認知症の進行に伴い、コミュニケーションは徐々に困難になっていきますが、一気にすべてが失われるわけではありません。
表情や口調なども観察しながら思いを汲み取ることが大切です。進行度に応じたコミュニケーションの特徴を理解し、その人に合った方法を見つけ出すことはできるのです。
まとめ~認知症ケアは一人ひとりに密着
認知症は進行性です。以前成功した方法でも、次も成功するとは限りません。一人ひとり症状の程度や現れ方は違います。日常の様々な要因にも影響されます。
ケアの方法は、一人ひとりに密着したものでなければいけません。認知症の看護は、看護師(介護者)自身のコミュニケーション能力の振り返りとなります。
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