肥満は重篤な生活習慣病の要因でもあり、見た目だけでなく健康上の理由からもダイエットは重要です。食事で摂りすぎの栄養素や不足が深刻な栄養素について知り、食事での摂取量や食べ方の工夫をお伝えします。
ダイエットにおける食事の摂取量と必要な栄養素
ダイエットの食事に関しては
身体に必要な栄養素をすべてバランス良く、かつ全体の食事の摂取量を減らす
ことで、本来あるべき身体に近づくと思います。
健康に意識高い系の方が多いのか健康番組も花盛り。肥満の解消、つまりダイエットでは「1日に必要な栄養素は~」「1日あたりの食事の摂取量は~」などが紹介されていて、どの情報を参考にすれば良いか迷ってしまうほどですね。
では、「必要な栄養素」「摂取量の基準」とは?
食事摂取量摂り過ぎも不足も注意
健康的な食生活で体重管理~食べ過ぎによる肥満や痩せすぎを防ぐ方法でもご紹介した「日本人の食事摂取基準」では、肥満が大きな要因となる生活習慣病の発症・重症化の予防に、23の栄養素について摂取量の基準が提示されています。しかし、
毎日すべての栄養素をバランス良く、基準の摂取量を摂るような食事をするのは、現実問題として無理があります。逆にこれにこだわりすぎると本末転倒にもなりかねません。
常識的な範囲で食事をしているのなら、あまり細部にこだわらず、食事を楽しむ工夫をすることも大切でしょう。
とはいえ、知識を持っていることも必要ですので、摂りすぎが問題となっているネルギー量や食塩、深刻な摂取不足に陥っている食物繊維とカリウムについて、その働きや推奨される摂取量、食べ方の工夫などをお伝えします。
摂取量の不足が深刻な食物繊維とカリウム
エネルギーや栄養素の摂取量に多少の過不足があったとしても、すぐに病気になるわけではありません。
しかし、その状態が長く続くと生活習慣病の発症・重症化を招きます。食事の摂取基準を正しく知ることが大切です。
日本人に多く発症し、悪化すると命に関わる高血圧、肥満症、糖尿病、心筋梗塞などの病気を招く要因の一つが、食物繊維とカリウムの不足。
病気の予防や重症化を防ぎ健康に暮らすためにも、きちんと摂取したい栄養素です。
食物繊維は消化・吸収されず、正しくは栄養素ではないのですが、生活習慣病の予防に欠かせない成分です。
また、カリウムは血圧を下げる効果があり、高血圧予防には欠かせません。
不足する食物繊維~摂取量
食物繊維の役割は多岐にわたります。詳細は後述していますが、現在の日本人の1日あたりの食物繊維の摂取量は約14g。
理想としては1日あたり24g以上摂取が望ましいのですが、10g以上不足しているので、「日本人の食事摂取基準」では、下記の表を現実的な目標量と設定しています。
食物繊維の摂取量(1日あたりの目標量)
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18~69歳 | 20g以上 | 18g以上 |
70歳以上 | 19g以上 | 17g以上 |
野菜は食物繊維の他にもビタミンやミネラルも豊富で、健康的な食生活を送おくる上で、重要なものです。
厚生労働省が推奨する「健康日本21」で目標とするのが「野菜1日350g」。
生ですとおおよそ両手の平に乗るくらいの量。毎日これだけの食事量を確保するには、かなりの工夫が必要でしょう。
簡単にわかる野菜摂取量の目安
1日野菜350gとは、
- 緑黄色野菜120g
- その他の野菜(淡色野菜)230g
合計で350gです。
1日に必要な野菜の量を大まかに、かつ簡単に知る方法として、食事バランスガイドでは、皿の大きさと皿数で計る方法を用いています。1つ(SV)=70gとして計算。
- 大皿に盛られた野菜料理=2つ(SV)
- 小鉢の野菜料理=1つ(SV)
と数え、1日に5つ(SV)で350gとわかりやすく換算しています。
参考:
食事バランスガイド
野菜の1日の摂取目標「350g」農林水産省pdf
食物繊維を摂るコツ
食物繊維が豊富な野菜をたくさん摂るための様々なレシピは、ネット上に公開されていますし、アプリも豊富です。そういった物を利用するのも良いでしょう。
食物繊維は、野菜、果物、納豆、きのこ、海藻、こんにゃくなどに多く含まれています。
また玄米や胚芽米など精製度の低い穀物にも多く含まれているので、主食として食べると無理なく食物繊維の摂取量を増やすことができます。
玄米だけではボソボソして食べにくい場合は、白米に少し混ぜると食べやすくなります。
ダイエットで主食の食事制限をする場合は、穀物からの食物繊維の食事摂取量が減りますので、他の食品から十分な量を確保するよう注意してください。
スムージー、酵素ドリンク、青汁、サプリメントなどを補助的に利用するのも一つの選択肢でしょう。
ただし、それらを摂れば痩せる、栄養素の不足はない、というわけではありません。
食物繊維の働き
食物繊維は消化酵素の作用を受けないので、消化・吸収されず、小腸を通って大腸まで届く成分です。
水に溶けないセルロースやリグニン、水に溶けるペクチンやアルギン酸などの成分があります。
また、更に消化されにくい性質を持ったでん粉・デキストリン・オリゴ糖などの成分も含まれ、便のかさを増やす材料です。
大腸内の腸内細菌により便秘の予防や腸の働きを整えるだけでなく、様々な生理機能を持っています。
「お腹の調子を整える食品」とした特定保健用食品(トクホ)として認められている成分の多くが食物繊維です。
食物繊維の主な働き
- 便秘の予防、整腸効果
- 肥満予防: 噛む回数が増える
- 血中コレステロール濃度の低下
- 糖尿病予防: 糖の吸収を穏やかにし、食後の血糖値の急上昇を抑える
- 心筋梗塞の予防: 肥満、糖尿病予防のほかビタミンやミネラルの補給もできる
特に男性に多いカリウム不足
カリウムには体内の余分なナトリウムの排出を促し、血圧を下げる働きがあるので、高血圧予防に意識して摂りたい栄養素です。
高血圧になると心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まり、肥満とともに高血圧を予防することは健康長寿のカギとも言えるでしょう。
カリウムの1日の摂取量は、現状ではおよそ2200㎎ですが、目標量は男性が3000㎎、女性が2600㎎以上で不足しています。意識して摂るようにしたい栄養素です。
ただし、カリウムは腎臓病のある人は摂取を制限する必要があります。必ず主治医に相談してください。
カリウムは調理法や食べ方に工夫を
カリウムは食物繊維同様、野菜、果物、穀類に多く含まれていますが、水溶性で調理により損失量の多い栄養素です。
おひたしのように茹でて水に晒し絞る、と言った和食の丁寧な調理法では、その多くを失ってしまいます。
カリウムを無駄なく摂るためには
- 野菜:生食やスープにする
- 穀物:五分づき米や玄米など
などの工夫をします。
穀物は胚芽にカリウムが多く含まれています。また、生で食べることが多い果物は、カリウムの摂取におすすめです。
食塩のとりすぎは命にかかわるかも
生活習慣病の予防のために問題となっているのが、近年少しずつ減ってきてはいますが、食塩のとりすぎ。
食塩のとりすぎは血圧をあげるだけでなく動脈硬化を招き、やがて動脈硬化が進行、脳卒中や心筋梗塞を引き起こしたり、胃がんの原因に。
食塩摂取量の1日あたりの目標値は、WHOでは5g未満とされていますが、日本人の食事は昔からの食文化もあり食塩摂取量が多い。
現実的な目標値として男性8g未満、女性7g未満と設定しています。
食塩摂取量の目標値と現在の摂取量(1日あたり)
性別 | 現在の平均摂取量* | 目標値 |
---|---|---|
男性 | およそ11.1g | 8g未満 |
女性 | およそ 9.4g | 7g未満 |
*厚生労働省「平成25年国民健康・栄養調査結果の概要」より
減塩で大事なこと
減塩で大事なことは食塩をどのように摂っているのかを知ること。日本人は食塩の約7割を加工食品から摂っています。知らずにたくさん食べていると食塩のとりすぎに。
漬物、塩鮭、ラーメンなどいかにも食塩が多い食品だけでなく、パンや焼きちくわ、ノンオイルドレッシング、スポーツドリンクなどしょっぱいと感じにくい食品にも注意が必要です。
栄養成分表示の食塩量を意識する
食品のパッケージの栄養成分表示を見る習慣をつけましょう。食塩相当量として含まれる量が記載されているはずです。ナトリウムと表示されている場合食塩量は、
ナトリウム(g)× 2.54 =食塩量
で計算します。
塩少々とひとつまみって?
料理の本などに書いてある「塩少々」「塩ひとつまみ」は実際どのくらいなのか調べてみました。
- 塩少々(0.2g程度)親指と人差し指の2本でつまんだ量
- 塩1つまみ(0.5g程度)親指と人差し指、中指の3本でつまんだ量
と言われています。
つまむ塩の量は指の大きさや個人のクセによっても違いますが、それ以上に塩の種類による差が大きいことがわかりました。
粒が大きい岩塩、水分量が多い並塩(あらじおなど)はつまみやすいので、他の塩よりも量が多くなっています。
塩の種類や人によってつまむ量に差はありますが、指2本より指3本はほぼ2倍の量となるようです。
自分のひとつまみ、少々がどのくらいの量なのかを計っておくと良いですね。塩の種類によっても量が変わることを忘れないでおきましょう。
減塩のコツ
今まで濃い味付けになれていると、減塩に取り組んでも食事が味気ないと感じ、続かないことも少なくありません。
「一生で食べても良い塩の量は決まっているのだから、節約して少しずつ食べ無駄にしないようにしよう」と考えて取り組んでください。
また、塩分の排出を促す栄養素も摂るようにすると良いですね。
1ヶ月もすれば薄味になれ、素材そのものの味を楽しめるようになってくるはずです。
ダシを濃い目にとる、塩分を含まない調味料を活用するなどで工夫しましょう。減塩のコツはこちらで詳しく解説しています。
30年後を変える食塩の摂取量
人間が一生のうちに食べても良い塩の量は概ね決まっている、と言うことが疫学調査の結果からわかりました。もちろん個人差もあります。
しかしほぼ決まっているのであれば、若いうちから多く食べてしまって、早くから高血圧や病気になるよりも、少しずつ食べることで塩を節約し、元気に長生きしたほうが良いですよね。
中高年で高血圧になってから減塩するのではなく、若いうちから食塩のとりすぎに注意することが大切です。
例えばこんな報告もあります。
血圧(収縮期)120mmHg(正常値)の35歳男性が、1日14gの食塩を散り続けた場合と8gに押さえて取り続けた場合の30年後の血圧と総食塩量の比較。
1日の食塩摂取量 | 30年後 | |
---|---|---|
血圧(収縮期) | 総食塩摂取量 | |
14g | 144mmHg | 153kg |
8g | 134mmHg | 88kg |
10mmHgの差ですが、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。約100万人を調査した結果では、60歳代では上の血圧がおよそ20mmHg高くなると、脳卒中や心筋梗塞による死亡率がほぼ2倍になると報告されています。
具体的には、至適血圧(収縮期血圧値が120mmHg未満かつ拡張期血圧値が80mmHg未満)の人に比べて、軽症の高血圧(収縮期血圧が160mmHg未満、拡張期血圧が100mmHg未満)の人は3.3倍、重症の高血圧(収縮期血圧が180mmHgまたは拡張期血圧が110mmHg以上)では8.5倍脳卒中にかかりやすいことが報告されています。さらに、高血圧は腎臓病や眼底出血等の原因にもなります。(画像朱書き部分加筆改変)
出典:血圧が高くなるほど脳卒中をおこす確率が上昇しますpdf 大阪がん循環器病予防センター
食塩のとりすぎは血圧だけでなく血管の老化も
塩分のとりすぎは血圧をあげるだけでなく、血管の老化にもつながります。食事のとりすぎで肥満があり、塩分のとりすぎで血圧が高くなると、動脈硬化のリスクも高まり、メタボリックドミノを引き起こしやすくなります。
肥満、高血圧がある場合のダイエットと減塩は、生活習慣病の発症、重症化のリスクを低減するためにも重要。
塩分を減らすには、減塩と身体から塩分を排出しやすくする栄養素を積極的に摂ることも大切です。メタボと減塩についてはこちらの記事も是非読んで下さい。
まとめ~食事の摂取量と栄養素はバランスが大切
不足がちな食物繊維とカリウムは、冷凍しても電子レンジにかけても量や質は変わりません。まとめて冷凍保存しておけば手軽に野菜を摂取できます。
摂り過ぎが問題となっている食塩は、若いうちから注意することも重要。自分がどれくらい食塩を取っているのかを意識し、塩を節約する気持ちで減塩に取り組みましょう。
栄養素は互いに作用して身体に働きかけます。
ダイエットに良いから、血圧に作用するからなどと特定の食品やレシピを食べ続けたり、摂り過ぎを恐れるあまり、極端に制限したりするのではなく、様々な食品をバランス良く組み合わせ、食事を楽しむことが一番大事なことです。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ