脳梗塞は生命が助かっても重い後遺症が残ることが多かったのですが、t-PA(アルテプラーゼ)という薬が登場、また、血栓を取り除く治療法も加わりました。脳梗塞の新しい治療薬と治療法についてお伝えします。
t-PA(アルテプラーゼ)による治療で後遺症を軽減
脳梗塞の治療は、t-PA(アルテプラーゼ)と言う薬の登場で、脳梗塞を発症して間もない時期からスピードある対応ができれば、血栓を取り除いて後遺症を軽減することができるようになってきました。
脳梗塞が起こった場合、脳の細胞が壊死してしまう前にt-PAを静脈から注射すると、脳の血管を詰まらせていた血栓が溶け、途絶えていた血流が再開します。脳梗塞発症後早い時期にt-PAによる治療が開始されれば、後遺症をできるだけ残さないことも可能となってきています。
しかし、t-PAにより治療を受けるのには、いくつかの条件があります。
t-PAによる治療に必要な条件
t-PAによる治療はスピードある対応が必要です。そのため
- 発症後4.5時間以内が対象となります。
また、
- 後述する脳出血などのリスクにあてはまるものがないことも必要です。
重症の場合は心源性脳塞栓症では効果が出にくいため、この治療が行われないこともあります。
脳梗塞発症後3時間を過ぎると、血栓より先の血管がもろくなります。そのため血流が再開したときに脳出血を起こしやすく、出血した血液によって脳が圧迫されるため、命にかかわることもあります。
そのため発症から4.5時間以内、と言う条件があるのです。
発症後3時間以内であること
4.5時間以内と言っても、医療機関での検査と診断には1時間ほどかかります。それを考慮すると治療を受けるためには、は発症後3.5時間以内に専門の医療機関に到着していなければなりません。
実際にこの条件をクリアできているのは、患者さんの20%~30%ほどの人です。本人も周囲も症状に気づかなかったり、様子を見たために受診が遅れることもあります。
また、自家用車で近所の医療機関に行ったため、そこから専門の医療機関に搬送され、時間がかかってしまうことも少なくありません。下記のような症状が1つでも当てはまれば、迷わず救急車を呼びましょう。
- 顔の片側がゆがんでいないか.。「いー」と発音してもらい、口角の高さに左右差がある
- 左右の手のひらを上に向け、両腕を同じ高さにそろえて前に伸ばしたとき、どちらかの手が下がってくる
- ろれつが回らず、しゃべれなくなっている
t-PAによる治療が受けられるのは
- 「脳卒中(脳梗塞・脳内出血・クモ膜下出血の総称)」の専門医がいる
- 24時間患者さんを管理できる体制が整っている
などの条件を満たしている医療機関に限られています。
脳出血などのリスクに当てはまらない
t-PAは血液を固まりにくくするので、以下の脳出血などを起こすリスクの高い人は、発症後3.5時間以内に専門医療機関に到着しても、治療を受けることはできません。
- 脳出血・脳梗塞を経験したことが有る
- 梗塞の範囲が広い
梗塞に陥った脳の範囲が広いと、血流が再開したときに脳の血管が破れて出血する可能性が高い - 最近脳以外で大きな手術を受けた
脳でなくても、大きな手術を受けた人はt-PAで手術部位から出血する危険性がある - 出血しやすい体質や病気がある
血小板数が10万/μℓ以下の場合や思い肝臓病などがある場合は、t-PAによる治療で出血するリスクが高い - 血圧管理ができていない
高血圧があり薬物療法でもコントロールできないような場合には、脳出血のリスクが高くなる
適用時間の拡大と新しいt-PA
従来日本ではt-PAによる治療は発症後3時間以内でした。世界的には4.5時間まで有効とされて治療が行われています。日本でも、2008年10月から4.5時間以内まで適用時間が拡大され、2012年8月からは保険適応となりました。
新しいタイプのt-PA(デスモテプラーゼ)と言う薬の開発も進められています。発症後9時間以内まで治療が可能で、現在有効性を確認するための臨床試験が行われています。
新しい治療法
t-PA治療が受けられない時に、血栓を抜き取る新しい治療が受けられることが有ります。マイクロカテーテルを用いて血栓を抜き取る「血栓除去療法」です。この治療法は
- 発症後8時間以内
- t-PAが効かなかったり、受けられない
患者さんが主な対象です。脳梗塞発症後3時間以内の場合は、t-PAによる治療が優先されます。
血栓除去療法
マイクロカテーテルの先端からきわめて細いワイヤーを伸ばし、血栓を抜き取ります。複雑な装置を使用するため、治療中に出血を起こすリスクがあります。1回で血栓を除去できない場合は、2回目を試みることもあります。
高度な技術を必要とするので、トレーニングを受けた専門医が治療を行い、今のところ血栓除去療法の治療を受けられるのは、一部の医療機関に限られます。
カテーテルを用いた血管内治療は
- ワイヤで血栓を絡め取る「メルシー・リトリーバー」
- ポンプで血栓を吸い取る「ペナンブラ」
- 網の目上のステントで血栓を捕まえる「ソリティア」「トレボ・プロビュー」
などが行われています。
発症後8時間以内であれば治療を受けることが可能です。
まとめ
血栓を取り除くには、素早い対応が重要です。脳梗塞の症状に早く気付くことが大切ですから、脳梗塞についての知識を持っておくことも大切です。顔、腕、言葉の症状が突然起こった場合、約70%が脳卒中に寄るものと言われています。
これらの症状の1つでも起こったらすぐに救急車を呼んでください。素早い対応がt-PA治療を受けられ、後遺症の軽減が期待できます。
また、症状がすぐに収まっても脳梗塞の前触れ、TIA(一過性脳虚血発作)の可能性が高いので、すぐに専門の医療機関を受診してください。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ
参考:[63] 脳梗塞の新しい治療法 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
/www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph63.html#anchor-13