震えは誰にでも起こる生理現象の一つです。しかし、日常生活に支障をきたすほどの震えが起こる場合は、病気が原因の場合もあります。特に原因がないのに手の震えや声の震えが起こる本態性振戦について症状や治療についてお伝えします。
振戦(しんせん)とは
寒いときや細かい仕事をする時、緊張したり、恐怖に晒されたりしたときに震えが起こるのは、生理現象の一つで、生理的振戦と呼ばれます。振戦とは震えをさす医学用語です。
意志とは無関係に体の一部または全身の筋肉(骨格筋)が、規則的または律動的に収縮するために起こる体の動き(不随意運動)のことを言います。
震えはごく普通の現象ですが、なぜ震えるのか、どのような仕組みで震えるのか、については十分に解明されていません。
病気が原因で起こる震え
何らかの病気の症状として震えが起こる場合もあり、これを病的振戦と言います。例えばアルコール依存症や甲状腺機能亢進症などの病気があると、症状の1つとして震えが現れることがあります。
震えがきっかけで病気が見つかることもあり、その代表とされるのが本態性振戦とパーキンソン病です。パーキンソン病でも、最初の自覚症状として震えが現れることがあり、震えだけで本態性振戦かパーキンソン病かを判別するのは難しい場合もあります。
*本態性振戦とパーキンソン病の震えの特徴については、後述の表で確認してください。
本態性振戦の治療について
本態性振戦は良性の病気で、症状は震えだけです。生活に大きな支障がなければ特に治療する必要はないと考えられています。本態性振戦を治療せず放置したからといって病気が進行したり、生命に関わったりする心配はありません。
震えで医療機関を受診する患者さんの中には、パーキンソン病など脳の病気を心配する人が多いのですが、本態性振戦であると診断がつくと安心し、そのまま様子を見る方も少なくありません。
一方で日常的に手や声の震えがあると、不便、不快、というだけでなく、「手の震えや声の震えを人に知られたくない」という気持ちから、外出を控えがちになったりして積極的な日常生活を送れなくなる人もいます。
震えが原因で毎日の暮らしや仕事に支障が有ったり、ひと目が気になって悩んだりしている場合は、積極的に治療を受けることが勧められます。
病的振戦の3つの分類
病的振戦は、どのような状況で現れるのかにより、次の3つに大きく分類されます。
- 静止時(安静時)振戦 じっとしているときに震える
- 姿勢時振戦 特定の姿勢を保とうとしたときに震える
- 運動時振戦 何らかの動作をするときに震える
これらの他、震えが起こる部位、振動の速さ、随伴する症状などから、ある程度病的振戦の原因を推察することができます。
本態性振戦とは
明らかな原因がなく、震えだけが現れる病気です。ある日突然発症するというものではありません。多くは40歳以降に発症し、いつとなく震えが現れ、加齢とともに少しずつ目立ってくる場合がほとんどです。
高齢になってから震えが顕著になった場合は「老人性振戦」と呼ばれることもあります。
本態性心身の中には、遺伝が関係する家族製のものもあり、この場合は10~20代で発症することもあります。患者さんに尋ねると、約半数に家族歴があるとされています。
震えの診断
震えが気になる場合は、神経内科(神経系の病気を専門的に診る)を受診しましょう。問診と視診が中心になります。尋ねられることは
- どこが震えるか
- どんなときに震えるか
- どのように震えるか
- いつから震えるようになったか
- 震えで困っていること
- 震えのある家族の有無
- 震え以外の症状の有無
- 服用している薬の種類(薬の副作用で震えが起こる場合がある)
などです。
問診中の患者さんの様子を観察したり、実際に動作をして震えの現れ方などを調べたりします。本態性振戦であるかどうかは、ほぼ診断がつきます。
本態性振戦の症状
主に手に現れ、動作や姿勢時(姿勢を保とうとした時)に震えが起こるのが特徴です。
例えば字を書く時、箸を使う時、コップを持つ時などに起こりやすく、緊張すると手の震えは増強する傾向が見られます。安静時や睡眠中に震えが起こることはまずありません。
手の震えでは、振動数は1秒間に8~12回で、早く細かく震えます。頭を小ギザミに振る動作や、声が震えたりすることもあります。
本態性振戦によく見られる症状
- 字を書くときに手が震え、字が大きく乱れる
- 手の震えで箸がうまく使えず、食事がしにくい
- コップを持つ手が震えて、うまく飲めない
- 手が震えて針に糸を通せない
- 人と話しているときに頭を小刻みに振る
- 人前でスピーチをするときに声が震える
*本態性振戦は、細かい動作をする時や緊張するときに現れることが多く、震えないようにしようと意識するほど震えが強くなりやすい。
本態性振戦とパーキンソン病の震えの特徴
本態性振戦 | パーキンソン病 | |
---|---|---|
震えの現れる部位 | 主に手。左右両側に現れる。頭が小刻みに震えたり、声が震えることもある | 主に手合。片側から現れ、進行するに連れて反対側にも現れる |
震えの現れ方 | 特定の姿勢を取ったり動作をした時に現れる。安静時には軽減、もしくは消失する | 無意識のときや安静時に現れる。動作時には消失するが、姿勢を維持すると再び現れる |
震え方 | 手先の場合、早く細かい震え。振動数は1秒間に8~12回。 | 比較的ゆっくりで、大きな震え。指先で丸薬を丸めるような動き。振動数は1秒間に4~5回 |
震え以外の症状 | なし | 動作がゆっくりになる、筋肉がこわばる、歩きにくい、転びやすいなど。 |
本態性振戦の治療
原因不明の病気ですので、震えを根本的に治療する方法はありません。薬で震えを押さえたり、軽減させたりする対処療法が行われます。主に使われるのはβ遮断薬で、短期的に震えを抑える抗不安薬を使うこともあります。
薬で十分な効果が得られない患者さんが、どうしても震えを押さえたいと強く希望する場合、まれですが、手術が行われる場合もあります。この場合は医師とよく相談し、リスクも十分に納得した上で受けることが大切です。
β遮断薬
震えは脳から筋肉に伝えられる「筋肉を収縮させなさい」という指令の異常で起こるとされています。神経細胞の細胞膜が過剰に興奮すると、電気的な刺激が起こり、それが震えにつながるとも考えられています。
β遮断薬は、脳の指令を受け取る受容体(β受容体)を遮断する作用や、細胞膜の興奮を抑える「膜安定化作用」などがあり、震えが抑えられると考えられています。
症状を抑えるためには、β遮断薬を使い続ける必要があり、現在プロプラノロール、アロチノールと言う薬が使われています。
β遮断薬には、心臓の機能を抑制したり、器官を狭くしたりする作用もあるので、低血圧、徐脈など心臓の病気のある人、喘息のある人、新機能が低下しやすい高齢者には基本的に用いません。プリミドンなどてんかんの予防薬にも震えを抑える効果があります。
抗不安薬
筋肉に指令を出す脳に直接働きかけて震えを抑える薬です。常用すると固化が薄れる体制や依存性が起こりやすいので、どうしても震えを抑えたいときにのみ使用します。
この他、パーキンソン病の震えに使われる抗コリン薬も本態性振戦の改善に効果がありますが、副作用として物忘れや幻覚などが起こることがあるので、高齢者に使用する場合は注意が必要です。
まとめ
あがり症など、人前で筋少すると声の震え、手の震えなどが起こることはよくあります。これらは生理的振戦と呼ばれますが、病気が原因で手の震えなどが起こる病的振戦もあります。
明らかな原因がなく震えだけが起こる本態性振戦は、治療をしなくても心配することはありませんが、パーキンソン病も似たような症状が起こるので、診断には注意が必要です。
日常生活や仕事に支障を来すと患者さんが悩む場合は、薬物療法で治療します。
参考: 日本神経治療学会-ガイドライン-標準的神経治療・本態性振戦 www.jsnt.gr.jp/guideline/hontai.html
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