ひき始めに適切な手当をすることで、軽い症状だけで回復することも可能です。特別にも思える漢方治療ですが、近年は漢方薬を治療に取り入れる医療機関も増えてきました。かぜに用いられる漢方薬について、少し詳しくお伝えしましょう。
漢方治療と西洋医学
インフルエンザ、かぜ、花粉症のピークはなんとかのり切れたでしょうか。かぜには明確な医学的な定義がなく、一般的に「主に鼻やのどなどに炎症を起こす、急性の感染症をさします。
様々な原因で起こりますが、かぜは万病の元、なのは間違いありません。
西洋医学では、かぜの治療には解熱鎮痛薬が主に用いられます。一方古くから用いられているのが漢方薬です。
漢方治療は、全身の状態を総合的に捉えて、体全体の働きを整えるような薬を選ぶのが、特徴とされます。
一人ひとり体力や体質、症状などによって処方するので、同じ病気でも用いる薬が異なることもあります。
漢方薬の使い方
かぜには葛根湯、が一般的に思い浮かびますが、どんな人のかぜにも向くわけではありません。
もともと体力のある人に向く薬で、若い人であれば、普通のかぜなら問題なく使えます。より症状が強い時は麻黄湯が良く使われます。
漢方薬、主に葛根湯については、東洋医学とかぜと葛根湯~漢方の使い方意外と知らないホントのところ,でも詳しくまとめましたので参考にされてください。
中高年、特に高齢者では葛根湯が合う人は多くありません。
そもそも若い人のような強い症状は、あまり現れなくなります。漢方薬の使い方は、体力や病気に対する反応性が異なるので、年代で大きく分けて考えると良いでしょう。
上手な使い方は
漢方薬は通常一日に2~3回、食前か食間の空腹時に飲みます。
食前に忘れた時
胃の中に食べ物が入っていないほうが、薬の成分の血中濃度が上がりやすいのですが、飲み忘れて食事をしてしまったら、食後に飲んでも良いので、一日の量をきちんと服用します。食後1~2時間後が良いでしょう。吸収が良くなります。
症状が収まった
かぜの場合は症状が収まれば、やめても問題ありません。病院で1週間分わたされても、飲みきらなければいけない、というわけではないです。
長引くかぜに
年をとるとかぜが治りにくく、回復がおくれがち。漢方では急性期の症状が収まって来ても、体力が落ちて身体が辛い時には、麻黄附子細辛湯と桂枝湯を併用すると楽になることがあります。治りにくいかぜには補中益気湯(ホチュウエッキトウ)がよく用いられます。
かぜに用いられる漢方薬と西洋薬の違い
かぜを引いた時に熱が出るのは、ウィルスなどを退治するための体の反応です。
西洋薬は、症状を緩和するために薬が用いられます。熱を下げて痛みを取る、解熱鎮痛薬に代表されます。
一方漢方では、体を温めるような薬を用い、病気を治そうとしている体の働きを高めて、治療を早めることを目指します。
直接解熱するのではなく、漢方薬で自然治癒を早め、結果的に熱を下げます。
高熱は体力を消耗するので、解熱したほうが楽になります。しかし、熱に弱いウイルスを死滅させるために発熱するので、熱を下げるとウイルスが増殖しやすくなります。
漢方薬の作用
漢方薬は熱が下がるのに、西洋薬よりも時間がかかる、ということも言われていますが、かぜの場合はかなり即効性があり、体に合った薬を飲むと15分~30分ほどで少し楽になってきます。むしろ西洋薬より早く下がる場合もあります。
細菌感染の場合は、抗菌薬が有効です。西洋薬でも漢方薬でも、細菌感染が有れば、抗菌薬を使ったほうが早く治る可能性が高いです。
抗菌薬が必要なかぜ
くしゃみ、鼻水と言った症状が中心の鼻かぜは、ほとんどがウィルス性で、こうした状態で細菌感染と見られるのは、もともと慢性副鼻腔炎(蓄膿症)がある場合などに限られます。
のどのかぜでは、扁桃炎が有れば細菌感染を考え、扁桃炎がなくのどの痛みや腫れがある場合は、ウィルス性、細菌性、どちらも有ります。
咳の出るかぜは多くがウィルス性ですが、マイコプラズマという微生物が原因で起こる、マイコプラズマ肺炎などがある場合もあります。若い人に多く、強い咳がでます。
咳に伴う痰の色が白っぽい時は、ウィルス感染のことが多いのですが、黄色くなったら細菌感染の疑いが高くなります。
細菌感染が疑われたり、基礎疾患などから細菌感染を合併する危険性が高い、と考えられる場合は、抗菌薬を使ったほうが良いです。
かぜのタイプと原因
鼻かぜ
殆どはウイルス性。もともと慢性副鼻腔炎がある人は、細菌感染を合併していることが多い。
のどかぜ
扁桃炎が起きている場合は、ほとんどが細菌感染。そのほかはウイルス性と細菌性がある。
咳かぜ
多くの場合ウイルス性。痰が黄色い、ひどい咳が続くときは、細菌やマイコプラズマ感染を疑う
細菌やマイコプラズマ感染が疑われた場合は、漢方だけに頼らず、抗菌薬による治療が必要。
副作用
一般に西洋薬に比べ副作用は少ないですが、ないわけではありません。かぜで数日飲むのは、慢性的な病気で長期にわたって飲む場合と違い、問題になることはほとんどありません。
ただし、合っていない薬を飲むと、「気持ちが悪くなる」「食欲がなくなる」と言った症状が起こります。
自分に合った薬だと、気分が良くなったようにも感じられ、飲みにくいものではありません。
漢方薬を慢性病の治療に継続的に使う場合は、西洋薬との飲み合わせにも注意が必要です。かぜで短期間飲む場合は、西洋薬と併用できない人は、まずいません。
漢方薬とは
漢方薬は、生薬を組み合わせて作られます。もともとは生薬を煎じた煎じ薬を飲んでいました。
現在は煎じた薬を顆粒状などにして1回分ずつパックされた「エキス剤」が一般的です。西洋薬と同じように、手軽に飲めます。
- 生薬: 薬功のある植物や動物、鉱物などを特定の方法で加工したもの
- 煎じ薬:生薬を煎じた汁
かぜの漢方薬
漢方薬は、漢方専門医を受診するのが理想ですが、かぜのような急性疾患のばあいは難しい。
現在、院外処方なら、主なエキス剤は、たいていの調剤薬局で取扱っています。ただし、一般の内科医は、まず西洋薬での治療を考えるのが普通。
自分には、◯◯の漢方薬があっているのでは、と思ったら、医師に相談してみましょう。
患者さんが漢方薬を希望している時は、適しているかどうかを検討し、処方してくれる医師も増えています。
漢方は保険診察を行っている診療機関なら、健康保険も適用されます。漢方は1つの薬で幅広い効果を持っています。
西洋薬を何種類も使うより、費用がかからないことも多い。
市販の漢方薬に違いはある?
市販の漢方製剤も、基本的な作用は同様ですが、医療用に比べると、一般に有効成分は少なめです。同じ名前でも処方薬と同じ効果があるとは限りません。
また、処方箋がなくても買える薬には、健康保険が適用されません。
高齢の人のかぜの漢方薬
体力が低下して強い症状が現れにくい、高齢者のかぜで使われる薬の例です。
麻黄附子細辛湯(まおうふしさいしんとう)
寒気、鼻水が出る、のどが痛いと言った軽い風邪症状があるような場合に、合う人が最も多い薬です。
高齢者は、身体が冷えていろいろな症状がでていることが多く、この漢方薬に含まれている生薬の
【麻黄】 発汗を促す作用
【附子】 身体を温める作用
【細辛】 水分の代謝を助け、むくみを改善するような作用
で身体を暖めながらウイルスの駆除を図る代表的なかぜの治療薬です。
香蘇散(こうそさん)
なんとなく気分がすぐれず、体調が悪い時に用いられます。胃が重いようなときに使うこともあります。
高齢者のかぜは、あまりはっきりした症状が現れないことが良く有ります。
桂枝湯
頭痛だけが起こるかぜや、かぜかどうかはっきりしないけれど、頭が痛い、重い、熱っぽいというようなときに良く使われます。
真武湯(しんぶとう)
お腹に来るかぜ、大腸の機能低下で、下痢をしているようなときに向きます。体力が低下した高齢者に多い、ふらつくようなめまいがあるときに有効なこともあります。
五苓散(ごれいさん)
普段元気な人で、ふらつくようなめまいがあった場合。
中年の人のかぜには
高齢者より少し体力がある中年の人がかぜを引いた場合。
麻黄附子細辛湯
急に寒気がして身体がだるくなった、疲れが溜まっていた時や、からだが冷えた時に引いたかぜによく効きます。
葛根湯
比較的体力がある人のひき始めに広く用いられます。特に急に首筋や肩が張ってきたようなときに向きます。
桂麻各半湯(けいまかくはんとう)(桂枝湯+麻黄湯)
喉風邪に向く処方です。細菌感染が疑われれば、抗菌薬を併用します。
桔梗湯(ききょうとう)
扁桃炎の時に抗菌薬と併用されることが多い。ウイルス性ののどかぜにも向きます。のどの痛みが楽になります。
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
くしゃみ、鼻水などの症状が中心の鼻かぜにむく薬です。比較的短期間だけ使うことが多く、鼻水の症状が強い若い人のかぜにも用いられます。
まとめ~ひきはじめの対処が大事
かぜかな?と思ったらできるだけ早く治療しましょう。症状が続き体力が落ちてからでは、治療期間も長くなります。
ひき始めに、自分にあった薬を使い、できるだけ安静にするなどで、すぐに治ることもあります。
かぜを引いた時は、消化の悪いものはあまり食べないほうが良いです。
また、栄養をつけようと高ネルギーのものを食べるのも、からだに負担になります。身体を冷やさないことも大切です。
*正しくは「先んずれば人を制す」です。何事も人より先に行えば、有利な立場に立つことができるというたとえ。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ