医療業界に限らず、医学的にも法律的にも危険なほどの残業をしている人は、いまだになくなりません。看護師の辞めたいを招くメンタルヘルスの不調から、離職を防ぐために、師長の安全配慮義務で心がけたい対応と、管理の5つのポイントをお伝えします。
師長が心がけたい対応
師長はスタッフへの安全配慮義務があり、心身の健康を損なうような勤務には、労務指導を行って必要に応じ、勤務軽減措置を行わなければいけません。
そのような状態になる前に大切なのは、スタッフの疲労と感情の管理です。そのためには、どのようなことに注意すればよいのかを考えてみましょう。
スタッフの疲労と感情の管理5つのポイント
- ねぎらい、相手の存在を認める
- 傾聴
- 褒める
- 叱る
- 問題点の解きほぐし方
ねぎらいの言葉をかけられると、孤立感が薄まり、不安が解け、長時間労働をしてはいるけれど、罪悪感を感じずストレスも静まってきます。
また、相手の存在を認める言葉がけも有効。褒める、叱るにもコツがあります。また、上手な問題点の解きほぐし方も見てみましょう。
ねぎらい
勤務時間はとっくに過ぎているのに、看護記録を書くために残業している新人看護師を見たら、師長が一言ねぎらいの言葉をかけることで「自分のことをちゃんとみていてくれるんだ」と救われるものです。
相手の存在を認める
ここで「まだ終わらないの」と言ったり、単に「早く帰りなさい」とだけ言うのではダメです。
このようなことが続くと、新人看護師は「仕事ができない」「迷惑をかけている」「頑張っているのに…」などと落ち込み、自信をなくし、やがてメンタルヘルスに不調をきたして「看護師辞めたい」につながりかねません。
仕事の区切りがついたときは、「ありがとう」「お疲れ様」「ゆっくり休んでね」「あなたのおかげで助かったわ」などねぎらいとともに、相手の存在を認める言葉がけをすることが大切です。
傾聴
聞き上手になること。ただ話を聞いてあげるだけでも、相手に安心感を与えることができます。
現実に物事は解決していなくても、誰かに話を聞いてもらうと安心します。そして、話を聞いてくれた人に連帯感のようなものを持つようになるのです。
聞いてくれた人が上司や先輩であれば、信頼感・忠誠心・帰属意識が高まります。挨拶も帰属意識を高める効果があり、大切なことです。
上手に褒めて離職を防ぐ
一定のスキルは身についてきているのに、不安や緊張、焦りなどから「この職場には向いていないのでは」「よそなら、もっとうまくいくかもしれない」と思いがちなのが半年ほどたったころの新人看護師です。
辞めたい、の感情を持たないためには、新人看護師の自己評価を高める必要があります。それには師長や先輩が上手に褒めること。
褒めることには2つの目的があります。理由ではありません。理由は人によって様々ですが目的は決めてしまえば、そのために行うものです。
自己評価を高め、質問・疑問を引き出す
新人を褒めると、安心します。この人(師長)には質問してもよいのだ、打ち明けてもよいんだ、と思います。
安心して質問でき、安心して相談できるのが師長であり、「私の味方」と感じ、孤立感も薄れるでしょう。
職務満足感の向上
「なぜ看護師を目指したか」という調査結果に、もちろんやりがいやキャリア、医療に関わる仕事につきたい、という回答も多かったのですが「不況に強い」「給与水準が高い」という経済的な動機が意外と多かった、という報告があります。
しかし、現実は、夜勤、変則勤務出し、残業は多い。時給換算すると決して割の良い仕事ではないのは、看護師なら皆実感していることでしょう。
それほど社会的地位があるわけでもないし、お金持ちということでもない。
厳しい現実に、「こんなはずではなかった…」と戸惑う新人看護師を褒めることで、自己評価を高め、自己満足感をアップしてあげることが効果的なのです。
ほめ方の4つのコツ
- 初めての業務を任せて、まずまずのできであれば「よくやったわね」「がんばったわね」とほめる。
「がんばってね」とやる前に言うのは、かえってプレッシャーになるので注意 - スタッフの仕事を3ヶ月ほど観察、少しでも良い点を1つ以上みつける
(報告が聴きやすい、笑顔を絶やさない、などどんなことでも良い)
アラ探しはしない - ほめるだけにする
ほめた後注意すると、注意されたことだけが心に残ってしまうこともあり、逆効果 - 皆の前でほめる。病棟の雰囲気もよくなり、周りの看護師のモラルも高まる
自己評価の低さが離職、転職につながる
新人看護師も半年ほどたつと、新人なりに一定のスキルは身についてきます。しかし「看護師に向いていない」と自己評価する看護師は、入職直後より増える傾向にあります。
指導を受けても、「これでいいの?」と不安になったり、緊張や焦りで仕事への満足感が低下し、「ここでは向いていないのかもしれない。ほかの病院なら、もっと違う教育をしてくれるかも」となってしまうのです。
ある病院グループで、新人看護師が「自分は看護師に向いていない」と自己評価した割合は、入職直後で半分以上、半年後には、なんと約四分の三に増えていた、と言う意識調査の結果があります。
入職直後は学校と現場とのギャップに、「看護師に向いていない」と思うことが多い。
半年の教育で新人なりにスキルがついてきたころに、向いていないと思う新人が増えるのを防ぐには、前述のほめることが有効です。
ほめることで自己評価を高め、自己満足感をアップさせることが可能となります。
上手な叱り方
ほめることが重要であるように、叱るのも大切です。現実には叱ったり注意したりする場面が多々あるでしょう。
注意や指摘をする場合、ほめる時とは異なるポイントがあります。
他の人がいない場所で行う
自己評価が低い看護師は、ミスをしたら叱られるのは仕方がない、とは思っていても、やはり皆のいる前で注意されると、さらに自己評価が下がってしまい、モラルも低下します。
事実に基づいて指摘する
手順を見せて実際にやって示します。例えば、
「あなたのやったことはルール違反です。業務手順書には◯◯と書いてありますが、あなたは××が抜けています。こういうことは△△のリスクがあり、患者さんが●●の状態になりかねません」
手順書がない場合は、「通常このようにやります」と実際に正式なやり方を説明し、注意点を指摘します。できれば実際にやらせてみると良いでしょう。
「確認はこういうふうにするのですよ。もう一度やってみましょう。ほら、できるじゃないですか。次回からはこのようにやりましょう」なら、注意されても、教育してもらった、という満足感が高まります。
過去を引き出さない
同じ間違いをしても、「これで3度めですよ」「前にもいったでしょ」などは言ってはいけません。過去に戻ることはできず修正できないので意味はないからです。
問題点の解きほぐし方
「なぜ」には理由を聞く疑問の意味と、問い詰める責めの意味があります。
「なぜ~?」と聞くと、相手は叱られたと感じるだけで問題の解決にはなりません。なぜ、と言いたくなったら、5WIHに置き換えてみましょう。
- いつ(when)
- どこで(where)
- 誰が(who)
- 誰と(whom)
- 何が(what)
- どのように(how)
を使って質問します。ただし一度に質問すると尋問になってしまいますから、時間をかけて行いましょう。
質問の目的
何?
問題点を探し出し、その解決のために必要な条件に目をむけさせます
どのように?
大切なのは、相手に考えさせて気づかせること。質問して沈黙するようになったら、話の腰をおらず、しっかり考えさせます。その後に大切な気づきや発見が生まれます。
一見、単純なことでも確実に実行できるよう、5W1Hを使った質問をしながら、繰り返させるのが教育のポイントです。一般論でなく、具体的なことば(商品名、数字、単位など)を使うのがコツ。
まとめ~人材育成とメンタルヘルス
看護師辞めたいを防ぐ、メンタルヘルスの管理。師長の安全配慮義務をしっかり頭に入れ、スタッフのメンタルヘルスを行うためのヒントとして、疲労と感情の管理5つのポイント。あなたなりに応用して、信頼され、頼りにされる管理者を目指してください。
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