首の骨の異常が肩こりの原因の一つであることは前回お伝えしましたが、首や肩の周りにある様々な筋肉も原因となります。筋肉の疲労と肩こりの関係、女性の方に肩こりが多いわけと予防や対策について簡単にまとめました。
肩こりと関係する体の構造
肩関節は全身の関節の中で唯一、骨がぶら下がる構造をしています。その特徴から懸垂関節と呼ばれ、最近の研究でこの構造が肩こりに深く関係していると考えられるようになりました。
肩や首の周りの筋肉は重い腕を引っ張り上げ続けることで、常に大きな負担がかかっておりそのため肩こりが起きやすいのです。
また、同じように負担がかかっていても、肩こりになる人とならない人がいます。また、男性より女性に肩こりの人が多いのも筋肉が関係しています。
懸垂関節と周りの筋肉の構造については後述しています。まず、肩や首周りの筋肉が原因で起こる肩こり対策から。
筋肉が原因のときの肩こり対策
肩こりの原因が筋肉にあるとわかった場合は、筋肉をほぐして疲れを取るだけでなく、筋肉を鍛える肩の関節体操、肩こりのカンタン体操などがおすすめです。
肩こりを防ぐトレーニングの例を2つご紹介します。座ったままでいつでもできる運動です。
*椅子は安定しているものを使い、平で滑らない場所に置いて行います。
肩をすくめる運動
肋骨と肩甲骨を繋いでいる僧帽筋を中心に鍛える運動です。自分のペースで呼吸を止めずに行います。
- 椅子に座り、左右の腕の力を抜く
- 肩をすくめるようにして腕を引き上げる
- 肩を耳に近づけるようにできるだけ上げる
- 肩を下に引っ張って上げた腕を下げる
- 肩をすくめる時と逆方向に、下方に引き下げる
- 10回を1セットとして3セット
*余裕がある人は、水の入ったペットボトルや350g~1kg程度のおもり(ダンベル)などを持っても良い。
おもりを使った運動
肩甲骨と上腕骨を繋いでいる腱板(インナーマッスル)と三角筋を鍛える運動です。呼吸を止めずに自分のペースで行います。
- 椅子に座り水の入ったペットボトルなどおもりになるものを持つ(おもりなしでも可)
- 手の甲を上に向け、左右の腕が肩と水平になるまで持ち上げる(腱板を鍛える)
- 10回を1セットとして1日3セット
余裕がある場合は更に
- 腕を真っ直ぐにしたまま元の位置に下ろす
- 手の甲を下に向け、腕が肩と水平になるまであげる(三角筋を鍛える)
- 10回を1セットとして1日3セット
運動するときの注意点
筋力や体調などにあわせておこないましょう。痛みがひどい時は無理は禁物です。おもりは自分にあった重さの物を使い、持たなくてもOKです。
肩関節(懸垂関節)の構造と肩こり
肩関節は肋骨の上に張り付くように位置する肩甲骨と、肩甲骨からぶら下がる状態の上腕骨で構成されています。
肋骨と肩甲骨、肩甲骨と上腕骨は筋肉とじん帯により結ばれており、骨と骨が直接つながっているのではありません。
肩甲骨は肋骨から、上腕骨は肩甲骨からともにぶら下がった状態で、筋肉の力で引っ張り上げられています。
肩関節は腕がぶら下がる構造をしていて、懸垂関節と呼ばれていますが、この構造が肩こりに深く関係していると考えられるようになりました。
首や肩周りの筋肉の負担
人間の腕は片方で約3~4kgあり、左右合わせると約7~8kgにもなります。その重い腕を引っ張り上げている筋肉は、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、三角筋などです。
- 僧帽筋 首から肩、背中にかけての表層に広がる筋肉
- 肩甲挙筋と菱形筋 深層にあり僧帽筋に覆われている
- 三角筋 深層にあり肩関節を覆っている
これらの筋肉には、腕を引っ張り上げ続けることで常に大きな負担がかかっているので、肩こりが起きやすいのです。
しかし、同じように負担がかかっていても、肩こりが起こる人と起こらない人がいます。その原因を調べる研究*が行われ、その結果からわかったことが筋肉の疲労の蓄積と肩こりの関係です。
*旭川医科大学 整形外科学教室 熱田裕司氏らの研究 2007
筋肉の疲労が肩こりを起こす
研究では肩こりのある人とない人に、おもりを持って腕をあげる運動をする実験を行いました。
肩関節の周りの筋肉の有酸素ヘモグロビン量を測定し、筋肉が回復するのにかかった時間を調べたところ、
- 肩こりがある人はない人よりも回復が遅い
- 男性よりも女性のほうが筋肉の回復が遅い
ことがわかりました。
肩こりのある人は、肩関節の周りの筋肉の疲労が蓄積した状態にあり、肩こりが起こると考えられます。
女性に肩こりが多い理由の一つとして、筋肉の回復が遅いことが原因と考えられます。
女性に肩こりが多いもう一つの理由
女性の筋肉は男性より小さいので、腕を引っ張り上げるためには筋肉の過度の収縮が必要となり、筋肉の負担が増えて肩こりも起こりやすくなるのです。
骨と骨をつなぐじん帯などの組織が生まれつきゆるく、肩甲骨と上腕骨がずれやすい肩不安定症が女性に多いのも、女性に肩こりが多い理由の一つです。
正常な肩関節は、腕をあげるときに肩甲骨に上腕骨がしっかり治まっているのですが、肩不安定症がひどい場合、重力で上腕骨に肩甲骨からはずれようとする力が働きます。
ずれるのを防ごうとして、筋肉が常に収縮しているため、肩こりになりやすい。
外見ではわからないので、肩不安定症の診断にはX線検査などが必要です。肩こりの症状のない人でも女性の20人に1人は、老化とは関係なく肩が不安定な状態にあるといわれています。
まとめ
肩や首の周りの筋肉が原因で起こる肩こりは体の構造、懸垂関節の構造上誰にでも起こる可能性があります。
肩関節周りの筋肉の疲労をため無いようにすること、若いときからしっかり筋力を鍛えておくことが、肩こりの予防につながります。
特に筋肉が男性より小さい女性は、筋肉の負担が増したり筋肉疲労の回復が遅い傾向にあり肩こりが起きやすいので、懸垂関節を支える筋肉を鍛える運動を、意識して行うことをおすすめします。
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