ひざの痛みが重症化すると、寝たきりになるリスクもあるので、予防や治療はとても大事です。寝たきりにならないために、変形性膝関節症の治療について、治療のピラミッドに沿って、詳しくお伝えします。
変形性膝関節症の治療ピラミッドとは
これまで膝の痛みについて、「スポーツ外傷」「変形性膝関節症の予防」をお伝えしました。3回目となる今回は、変形性膝関節症の治療です。治療は病状に応じて段階的に行われ、3段ピラミッドに例えられます。
変形性膝関節症の治療の基本は、運動療法が中心となり、多くの場合、これで痛みが和らぎます。
治療の土台としてすべての患者さんに行ってもらいたいこと、その上に薬物療法や装具の使用、さらに手術、と変形性膝関節症の病状に応じ、ピラミッド形に段階的に行われます。
基礎となる土台は、患者教育、運動療法、減量で、2段目が薬物療法、装具を用いた治療、痛みが改善しない場合は3段目の手術が検討されます。
治療ピラミッドの土台をしっかりさせる
運動をせず土台がなくなると、土台の上にある薬物療法など、治療ピラミッドは崩れてしまいます。土台をしっかりさせることが一番重要です。
- 患者教育(病気を知る)
- 運動療法
- 減量(体重を減らす)
教育をすることで病気についての理解を深めてもらうことは、運動療法や減量の必要性を正しく理解し、続けることに繋がります。
減量は膝への負担を軽くする、例えば体重を3kg減らすと、階段を降りる時、片方の膝に掛かる負荷は約10kg減る、ということがわかると、減量の必要性を実感します。
悪循環を断つ運動療法
土台となるもので特に重要なのが運動療法です。膝の痛みで運動をしないでいると、
- 動かないために筋力が低下
- 運動不足で体重増
- 膝への負担が増し、さらに痛みが生じる
という悪循環が起きてしまいます。
この悪循環を断つには運動療法が最適です。適切な運動を続けることで、多くの場合2~3週間程度で症状が改善されます。
運動療法には鎮痛剤と同じくらい、痛みを軽減させる効果があるとされています。
運動で痛みが軽減されるのは、痛みの原因となっている炎症が抑えられるためだと考えられています。
効果の高い筋力トレーニング、ストレッチ
変形性膝関節症の予防でも、筋トレとストレッチはご紹介しましたが、膝の痛みを和らげるのに有効な運動は、
筋力トレーニング: 20回を1セット、一日3セット
- 足上げ運動
- 横上げ運動
ストレッチ: 筋力トレーニングと一緒に20回程度
- ハムストリングスを伸ばす
- 膝の可動域を広げる
です。具体的な行ない方は後述しましたので参考にしてください。
痛みがあるときに行っても問題はありません。痛みが強い時は無理をしないで、担当医に相談してください。
薬物療法・装具の使用
運動療法だけで痛みが改善しない場合、補助として薬物療法や装具を用いた治療を行ないます。
基本は運動療法で、薬物療法、装具の使用は痛みを和らげて、運動療法を行えるようにすることが目的です。
薬物療法
強い痛みがある場合は、薬で緩和させます。主な薬は内服薬のみのCOX-2阻害薬以外、外用薬、内服薬、座薬があり、その他に関節内に薬を直接注射する治療法もあります。
主な薬
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬NSAIDs)
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬の一種、COX-2阻害薬
副作用は、
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬を長時間使用すると、胃腸障害や腎臓障害
- 解熱鎮痛薬では、まれに肝機能障害
が生じる可能性があります。
- COX-2阻害薬は、まれに心不全や心筋梗塞などが起こることがあります
その他に、関節の痛みをやわらげ炎症を抑える、ヒアルロン酸の関節内注射を、1週間に1回などの頻度で行う治療もあります。
炎症が強い時にステロイドの関節内注射
痛みが激しい時はオピオイド(強力な鎮痛薬)の外用薬や内服薬を用いることもあります。
装具の使用
最もよく使われているのは、足底板(そくていばん)です。両足の歩行バランスを改善するために用いられます。
膝関節の内側に負担がかかっている人(O脚症状)に用いられます。外側が厚く作られているので、膝に掛かる負荷が外側にかかるようになり、痛みが軽くなります。
O脚による痛みを軽減
日本人は、膝の内側の関節軟骨や半月板がすり減って、O脚になることが多くあります。
外側が厚く作られた足底板を靴底に敷くと、体重が膝の外側にかかるようになり、膝の痛みが軽減します。
偏った圧力を膝全体にバランス良く分散できるので、姿勢が安定し歩行も楽になります。
ただし、脚の状態にあったものでなければ効果は得られません。整形外科で診断を受け、理学療法士のチェックを受けながら、自分にあったものをオーダーして作るのが一般的です。
歩くのが辛い時は、持ち手がT字系の杖、シルバーカーなどを使って、膝への負担を軽くします。
手術
痛みが改善しない場合や、痛みで日常生活に大きな支障がある場合には、手術が検討されます。主な手術方法には
- 関節鏡手術
- 骨切り術
- 人工関節置換術
があります。
手術の詳細については、後日まとめます。
2変形性膝関節症とは
出典: 日本臨床整形外科学会pdf 2p
前回もお伝えしていますが、膝の痛みの原因で最も多いのが変形性膝関節症です。膝関節は、太ももの大腿骨と、すねの脛骨をつないでいます。
正常な場合は大腿骨と脛骨の間に隙間があり、大腿骨と脛骨の先端を覆う、関節軟骨と半月板があり、膝にかかる衝撃を吸収する働きをしています。
加齢や肥満が原因で、半月板が痛み、関節軟骨がすり減って、関節のすき間がなくなっているのが、変形性膝関節症です。
膝の痛みが起こるメカニズム
初期の段階の痛みは、炎症が主な原因です。
炎症は、関節軟骨がすり減るときに、削られた関節軟骨の破片が、関節を包む関節包の内側にある滑膜などを刺激して起こります。
進行すると、関節軟骨や半月板が無くなって、骨同士が直接ぶつかることで激しく痛むこともあります。
また、ぶつかることで大腿骨や脛骨にとげが出来ることも有り、このとげが周りの関節包や滑膜とこすれると強い痛みが生じます。
変形性膝関節症は年齢が上がるにつれ発症も増えます。詳細な理由は不明ですが、男性より女性に多いのが特徴です。
女性のほうが脚の筋力が弱いことが関係していると考えられています。O脚等、下肢の変形があると発症しやすいことも分かっています。
変形性膝関節症の有病率
出典: 日本運動器科学会 2011年7月セミナーpdf 2p
筋力トレーニングとストレッチの方法
足上げ運動
大腿四頭筋を鍛えます。
- あおむけに寝て片足の膝を軽く曲げる
- 伸ばした方の脚を床から10cm~20cmあげて5秒間保つ
- 元に戻して3秒間休む
- これを繰り返し、反対の足も同じように行う
横上げ運動
おしりと太ももの横の筋肉を鍛えます。
- 横向きに寝て、下側の膝を軽く曲げる
- 上側の脚をまっすぐ伸ばしたまま床から10cm~20cm持ち上げて5秒間保つ
- 元に戻して3秒間休む
- これを繰り返し、反対側も同じように行う
ハムストリングスを伸ばす
- 床に座り両足を伸ばす
- 両手を伸ばし、できるところまで上体をゆっくり前方に倒す
- 5秒間保ち、元に戻す
- これを繰り返す
続けることで、膝をしっかり伸ばせるようになります。
膝の可動域を広げる
- 仰向けに寝て、右膝を曲げる
- 膝の裏側あたりを両手で持ち、からだに引きつけて5秒間保つ
- ゆっくりともとに戻す
- これを繰り返し、反対側も同じように行う
まとめ~肥満・運動不足解消で痛みを克服
ひざの痛みを抱える人の多くが変形性膝関節症です。重症化して寝たきりにならないように、予防、適切な治療は大事です。
肥満・運動不足を解消し、適度な運動、筋力トレーニング、ストレッチを行って、痛みを克服しましょう。
自宅でも出来ることを毎日続けることが大切です。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ