急性膵炎(きゅうせいすいえん)の原因で最も多いのはアルコールと胆石。アルコールは男性、胆石は女性に多く見られます。重症化すると死亡することもある急性膵炎について、原因、症状、治療についてお伝えします。
急性膵炎とは
膵液(強力な消化酵素を含む)が原因で起こる病気が急性膵炎です。通常すい臓の中では消化能力を持たない膵液の消化酵素が、何らかの原因で活性化し、すい臓自体を溶かす自己消化が起こると、急性膵炎を発症します。
重症になるとすい臓から膵液が漏れだし、周りの脂肪、血管、他の臓器まで溶かしてしまうこともありますが、早期に適切な治療を受ければ、完治が望めます。
急性膵炎の診断基準と治療
急性膵炎の主な症状は、上腹部の激痛、背中の痛み、吐き気などがあります。背中の痛みは体を丸めると和らぎ、反らすと増すのが特徴です。
以下の内2つを満たす場合、急性膵炎と診断されます。治療は基本的に入院し、全身管理が行われます。
- 上腹部が急激に痛む
- 血液検査や尿検査で、膵液に含まれる消化酵素のアミラーゼ、あるいはリパーゼの値が高い
- 超音波検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査またはMRI(磁気共鳴画像)検査で、膵臓の炎症が認められる
治療
胆石が原因と診断された場合は、内視鏡などにより、詰まった胆石を除去する治療が優先されます。
- 入院して行う全身管理の内容
- 膵液の分泌を抑えるための絶飲・絶食
- 大量点滴(血圧を保つ)
- 経腸栄養(腸内環境を整える)
- 薬物療法(膵液の働きを抑える酵素阻害薬などによる)
激痛が起きたら
腹部の痛みを単なる飲み過ぎ、食べ過ぎのせいだと自己判断せず、いつもと違う激痛が起きたら、救急車を呼ぶか、消化器内科のある病院を受診します。
重症と診断された場合は、適切な治療を受けるため、膵臓を専門としている施設への搬送を、医師と相談することも重要です。
- アルコールが原因 飲酒から数時間後に症状が出ることが多い
- 突発性 数日間かけて起きることがある
再発防止
- アルコールが原因 禁酒
- 胆石が原因 胆石が出来やすい胆のうの摘出を見当
- 突発性 アルコールや脂っこい食べ物を控える、暴飲暴食をしない
原因と急性膵炎が起こるメカニズム
男性にはアルコール、女性には胆石が原因のことが多く、その他には原因がわからない突発性、さらに脂質異常症など血中脂質の異常がある人に、中性脂肪の急増が原因で起こるものや、暴飲暴食によるものなどがあります。
原因で最も多いアルコールと胆石、それぞれ急性膵炎が起こるメカニズムは以下の通りです。
アルコール
アルコールを常飲している人が急性膵炎を発症しやすいのは事実です。たまに飲むぐらいの人が、一度に大量のアルコールを摂取した時にも起こることもあります。
アルコールがなぜ自己消化を引き起こすのかは、明らかになっていませんが、以下の仮説が有力です。
- 多量のアルコールが活性酸素を増やす(仮説)
- 膵臓内が酸性になる
- 膵臓内で消化酵素が活性化
- 膵臓を溶かす自己消化が起こる
胆石
小さな胆石が膵液の出口を塞いだり、通り過ぎたりすることが刺激となって、自己消化が起こります。
- 胆石が出口を塞ぐ
- 膵管内の圧力が高まる
- 膵臓内で消化酵素が活性化
- 膵臓を溶かす自己消化が起こる
膵液が送り出される膵管は、直径2~3mmの細い胆管と、十二指腸の乳頭直前で合流しています。
乳頭に胆管の中を流れてきた胆石が詰まり、膵液が膵管内にたまると、膵管内の圧力が高まり内蔵を圧迫します。もろくなった内壁から膵液が漏れ、膵臓は自己消化を起こします。
また、小さな胆石が乳頭を通り過ぎるだけでも、組織を傷つけ、炎症が起こって一時的に腫れ、乳頭が塞がれる場合もあります。胆石が通り過ぎた後では、原因がわからない場合も。
膵臓とは
出典:Canceer Information Japan 膵がんの治療
膵臓は長さ15~20cm、幅3~4cm、厚さ1~2cm程度で淡い黄色の臓器。膵臓の位置は胃の裏側です。
- インスリン*の分泌(血糖を調節)
- 膵液の分泌(最も強力な消化液)
という大切な働きが2つあります。
膵液は何十種類もの酵素が含まれる、食べ物を消化する消化液です。炭水化物、たんぱく質、脂質の3大栄養素をすべて消化できます。(膵液だけができる働き)
膵液(すいえき)
膵液に含まれる主な消化酵素には
- アミラーゼ 炭水化物を分解
- トリプシン たんぱく質を分解
- リパーゼ 脂質を分解
唾液や胃酸にも消化酵素は含まれていますが、膵液に含まれている酵素のほうが強力で、脂質を分解するリパーゼは、膵液にしか含まれていません。
炭水化物 | たんぱく質 | 脂質 | |
---|---|---|---|
唾液 | アミラーゼ | ||
胃液 | ペプシン | ||
膵液 | アミラーゼ | トリプシン | リパーゼ |
膵液は1日に1000~1500ml分泌されています。食べ物をとらなくても常時300~500ml分泌(基礎分泌)されており、飲食で更に分泌料が増えます。特に脂質、脂っこいものを食べた時には分泌量が最も増えます。
膵液と自己消化
膵液に含まれる消化酵素は、膵臓の中では消化能力を持っていません(不活性)。食べたものは、胃の中で3~6時間かけて粥状に消化され、十二指腸に送られます。
すると、十二指腸から指示が出され、すい臓から膵液が、肝臓から胆汁が分泌されます。
膵液が十二指腸に出ると、膵液に含まれる消化酵素が初めて活性化し、食べたものが消化されます。
自己消化
膵液が何らかの原因ですい臓の中で活性化すると、膵液がすい臓自身を溶かすのが自己消化です。それがすい臓の周りの脂肪や血管、その他の臓器まで及ぶと生命に係る場合もあります。
すい臓に起こる代表的な病気
急性膵炎、慢性膵炎、すい臓がんです。患者数は年々増え続け、急性膵炎の患者数は年間約6万5千人、そのうち約20%が重症化し、重症患者の死亡数は約10%にもなります。
増える理由には、病気の診断方法が進んだ、診断基準が確定してきた、食生活の欧米化などが関係していると考えられています。
急性膵炎、慢性膵炎、すい臓がんの3つは、それぞれが密接に関係しています。急性膵炎の患者さんの15~20%が慢性膵炎を起こすと考えられており、進行するとそのうち数%の人がすい臓がんを起こします。
早期の小さなすい臓がんが、膵管(膵液の通り道)を詰まらせて急性膵炎の原因となることもあります。
参考:急性膵炎診療ガイドライン2015(日本腹部救急医学会・日本肝胆膵外科学会ほか)
まとめ~急性膵炎、早期発見で進行を食い止める
膵臓の痛みは、みぞおちや背中の急激な痛みがある急性膵炎、慢性膵炎では、徐々に痛みを感じなくなり軽減します。
早期に発見し、適切な治療を行うことが大事。生活習慣の改善や対処療法で、病気の進行を食い止めることも重要です。
慢性膵炎についてはこちらでお伝えしています。
アイキャッチ画像:「キミの膵臓を食べたい」アマゾンより
「Anのひとりごと」~今日も1ページ