病棟看護師の役割に関しては、様々な方が言及されています。ここではそのような学術的なことではなく、患者さんの沈黙が意味するもの、コミュニケーションの断絶による問題の捉え方などについて考えます。
看護に必要なのは患者さんのサインを見る目
病気で不安であったり思い悩む患者さんの気持ちを和らげ、積極的に病気に立ち向かって治療に望む勇気を与えていくことが、看護の本質、やりがいであると言えるでしょう。
病棟看護師は、看護技術の熟練や知識の豊富さよりも、まず優先されることがあります。
それは患者さんのサインを見る目です。
「この世の中に、看護ほど、無味乾燥どころが、その正反対のもの、すなわち、自分自身は、決して感じたことのない他人の感情の只中へ自己を投入する能力を、これほど必要とする仕事は他に存在しないのてある。」
「もしあなたが、この能力を全然持っていないのであれば、あなたは看護から身を引いたほうが良いだろう。看護婦のまさにABCとは、患者にどんなことを感じているかを言わせたりしないで、読み取れることなのである」
「看護婦とは何か」 ナイチンゲール「看護覚書」補章
患者さんが沈黙すると、気持ちを読み取るのはとても難しい。コミュニケーションの一手段として「沈黙」を捉え、ゆとりを持って対処する、また自らも沈黙することを選べるようになることも大切です。
コミュニケーションの断絶という恐れ
新人看護師が困ることは、看護技術が未熟であること、知識がまだ不十分であること以上に、病棟の患者さんとのコミュニケーションが取れないことです。
例えば、患者さんがしゃべってくれないことで不安になり、不安を解消しようと色々質問してかえって事態を硬直させたり、患者さんをリラックスさせようと気を使ってオロオロし、自分を見失っていったり。
患者さんの気持ちをあれこれ推測し、自分は好かれていないのではないか、本当は言いたいことがあるのに言えないのではないか、など思い悩んだりしてしまうのです。
更に先輩看護師の視線が「冷たい、怖い。」「黙って睨まれるとプレッシャーになり、感じていることや考えていることをうまく伝えられない」と自信をなくし、看護師を辞めたいと考え始めてしまうケースも少なくありません。
このようなコミュニケーションの断絶に直面し、悩みを背負い込んでしまわないためには、「沈黙は、患者さんのサイン」と捉えることも必要でしょう。
沈黙に耐える
人は生まれたときから、自己を活かすかけがえのないエネルギーを得るために、コミュニケーションを求めます。相手のリズムに合わせて言葉を書け、気持ちを受け止めることは重要です。
話しかけても沈黙してしまう患者さん。病棟看護師は相手から一方的にコミュニケーションが遮断されたショックと、看護での関わりの断絶への恐れを感じます。
沈黙する患者さんを責めたり、「私から沈黙を破ってあげなくては」と話しかけたりして、必要以上に気を使い、沈黙する患者さんに振り回されたように感じ、疲れてしまうことも少なくありません。
沈黙に耐えられないのは、自分と相手が別であることに耐えられず、他者とも一体感があることの確認をしようとして、会話を求めるため、といえます。
自分が沈黙できるため、また患者さんの沈黙に耐えられるためには、自分が他者とは別であることを受け入れられなければなりません。
看護の質を落とすリスク
おはようございます。○○さん、昨夜はよく眠れましたか
・・・
(何か言っているみたい)
はい、何でしょう?眠れたのですね
うるさい!眠れなかったんだ
すみません。血圧を測りますよ
・・・(始終イライラしている様子)
終わりです。失礼しました
よくある光景です。前日は気分良くコミュニケーションが取れていたのに、次の日はピリピリ。びっくりして次の日からその患者さんのところへ行きにくくなってしまった。
先輩に話しても、「気にしない」「そんなことでいちいち落ち込んでいたら看護師なんて務まらないわよ」と言われてしまうかもしれません。
しかし、気になるのは事実であり、このような些細なことの積み重ねが看護の質を落としてしまったり、看護師を辞めたいと考えるようになる危険性をはらんでいます。
このようなときは患者さんの行動を見直してみることが大切です。
相手の気持ちを受け止める
このような患者さんを苦手、関わるのは嫌、と感じている場合、患者さんの行動を見直してみましょう。
いつも看護師を困らせているわけではなく、患者さん自信が問題を抱えているときも有れば、コミュニケーションがうまく取れることもあるはずです。
検査ばかりでゆっくり休めない
隣に見舞客が多くてうるさい
と思っている患者さんの行動を、どのようにとらえるかは看護師に委ねられています。
「私ではどうにも出来ないことでいちいち文句を言ううるさい人」、と捉えるのか、「検査が辛い、一人ぼっちで寂しい」と患者さん自信の問題を訴えている、と捉えるのか。
看護を行う上で、患者さんと望ましい関係を保つには、この問題特有の考え方が大切です。
そんなことを言って私を困らせないで
と働きかけるのか、
検査ばかりで辛いのかな、なんとか和らげられる方法は無いかしら
御見舞の方も少なく、さみしいのかも
と対応するのか、看護師が選択する道は2つあります。
看護師に戻る時
病棟看護師は、長く入院されていて何を話しかけても、別に、とか何もありません、などしかこたえない患者さんに、なんだか自分が拒否されているように感じることもあります。
声をかけるのは迷惑なのだろうか、とだんだん患者さんのベッドにいくのが辛くなってしまうことがあります。
ボックス
胃がん末期、天涯孤独な患者さんを「見捨てた」病棟看護師の話です。
患者さんの「沈黙」という行動で、新人看護師が問題を持ってしまったため、看護師自身が辛くなり、患者さんのところにいくのをためらうようになってしまい、結果として患者さんを「見捨てる」状態に。
しかし、ある時ふと患者さんの事を思いました。とにかく病室を覗いてみようという気持ちにかられて行ってみると…目を閉じ、苦しそうに唸って冷や汗を出していました。その姿を見た途端、今までのわだかまりはすべて無くなり、看護師に戻りました。
「苦しいですね。つらいですね」と声をかけながら汗をふいたのです。患者さんは頷いて「うん、苦しいんだ」と言いました。
患者さんが問題を持っていると捉えたので、「苦しいですね」と患者さんの気持ちを能動的に聞くことが出来ました。
今まで自分の問題として捉えていた行動が、状況や自分の心持ちの変化によって受け入れることができるようになり、患者さんの問題として、適切に対応していることは看護の場面でよくあることでしょう。
患者さん、看護師、どちらの問題なのか
行動が、本当は患者さん自身の問題なのに、病棟看護師が自分の問題として取り込んでしまっていないかどうか、もう一度考えて見る必要はあるでしょう。
本当は患者さん自身が問題を抱えている事により起こる行動を、看護師自身の問題にしてしまうと、患者さんを助けることは難しくなります。
この区別をしっかりつけることで、落ち着いて患者さん自身にその問題を預けながら、手助けする対応が可能になると思います。
ボックス
例えば胃カメラを飲んでいるときに、自分で急に抜こうとした9歳の男の子が居ました。
医師は「何をするんだ!」と起こりましたが、看護師がとっさに男のこの手を握ると、心臓が激しくバクバクしていました。
「死にそうな感じがしてびっくりしたのね」と気持ちを受け止めて聞くと、そのまま寝ているので「怖いし、いやだけれど、頑張らなくちゃと思っているんだね」と聞くと、うなづき、最後まで頑張りました。
問題(怖い、嫌だ)を抱えているのはこの子、と瞬時に捉え、能動的に声をかけることが出来た新人看護師は、「これが患者さんを看護する、気持ちを組むことだと実感出来ました」と嬉しそうに報告したのです。
まとめ~ゆとりある看護の実現
感情は一過性のものです。病棟看護師は、患者さんの沈黙、という否定的な感情をコミュニケーションとして学び、気持ちを汲み取る役割も担います。
ゆとりある看護の実現には、問題の所有者を明確にして対応し、区別する力と、看護師自身を自己評価できる力を付けていくことが大切です。自己評価については後日触れたいと思います。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ