患者さんの陰部の清潔を保つことは、勿論重要ですが、忘れてならないのは、患者さんのプライバシーへの配慮と気づき。陰部洗浄をすると、改めて看護師の仕事を選んだ時の気持ちを、思い起こすことがあります。看護師を辞めたいと思った時に、読んで欲しい。
患者さんの尊厳、プライバシーに配慮していますか
陰部は分泌物が多く、排泄物などで汚染しやすい部位です。入浴やシャワーができない患者さんへの援助として陰部の清潔は大切なケア。
ともすれば忙しさから治療ばかりが全面に出て、機会的になりがちな看護師の仕事ですが、ちょっとした心配りで、患者さんの生活の質をあげたり、治療にも良い影響があることも多いです。
看護学生が患者さんに好かれるのは、何故か。そこに看護の原点があるのではと思います。
陰部洗浄、排泄など下のお世話は、患者さんにとってはある意味苦痛なもの。羞恥心や情けなさといった気持ちを持ちがちです。
プライバシーの確保や、そんな心境を和らげる工夫を怠らないことも大切です。
看護師の仕事で思うこと
仕事が早くテキパキしていて、同僚や上司、医師からも評判の良い看護師が、患者さんにも評判が良いか、といえば必ずしもそうではありません。
一方、まだ看護のことがよくわからない学生が、患者さんに好かれることが多いのは、患者さんのそばで何か役に立ちたい、と思い患者さんのことを一生懸命実習しているからかもしれません。
カーテンコールの多い舞台~プライバシーと感性
腸閉塞の予防のため、下剤を内服中で、しょっちゅう下痢をしているAさん。度々ナースコールが来ます。
Aさんは臥床のまま「ごめんなさい、またなの」とそのたびに申し訳無さそうに言うのでした。個室では無いので、Aさんは他の患者さんに恐縮して、本当につらそう。
看護師はそのたびにカーテンをひくのですが、ある看護師が「この舞台は良くカーテンコールがあるのですね」と声をかけると、Aさんは「そうね、歌手になったみたいよ」と嬉しそうに言いました。
隣のベッドの患者さんも、「良くなったら、舞台の上で歌ってね」とカーテン越しに声をかけてきて、病室の空気がホワっと暖かくなりました。
声をかけ続け、羞恥心を取り戻す
右辺麻痺言語障害のBさんは面会人も少なく、看護師ともほとんどコミュニケーションが取れない患者さんです。何を話しても反応してくれません。
留置カテーテルがずっと入っていましたが、亀頭部分がただれたため、カテーテルを抜き、尿器を当てたままの状態でした。
反応がないから、と話しかけが少なくなっていましたが、とにかく話しかけ続けようと、訪室したら、「おしっこでますか」と声をかけるよう、誰でもわかるように空白が続く看護記録に記入。
また、日勤の新人準看護師には、清拭の方法を「熱布清拭」(大きなタオルを熱湯に浸し、しぼった後全身を蒸すようにする方法)を指導した所、2週間ほど経った頃、「患者さんがおしっこを教えた」という報告がありました。
「一日3回、熱いお湯で身体を拭いて刺激したのが良かったみたい」と准看護師は、自分のことのように喜んでいました。
羞恥心が蘇った
ちょうど実習の看護学生がいたので、一緒にBさんの病室に行き、返事は期待せずに「おしっこでたんですね。よかったですね」と聞くと「大きいのも出るよ」というではないですか。
驚きましたが、学生に便器を持ってこさせ、便器を当てようとした所、「若い奴らはあっちへいけ」と学生は追い払われてしまいました。
見当識も低下し無反応だったBさんに、羞恥心が蘇ったのです。
この時便はでませんでしたが、今まで反応がなかったAさんに清拭をすると、「気持ちよくなった。ありがとう」など反応が増えました。
反応がないから、と看護をマンネリ化させていたら引き出せなかった反応です。
排泄や陰部洗浄など下のお世話は、人としての尊厳にも繋がるのだなあと感じた出来事でした。
膀胱留置カテーテルとは
膀胱から直接導尿させるために、尿道から膀胱に挿入し、長期間留置するカテーテルのこと。
挿入したカテーテル先端のバルーンを膨らませて固定する。これに対し、尿道カテーテルは一回の排尿でしか使用されない。
陰部洗浄の基本的な注意点
大抵は石けんもしくは洗浄剤で行うとされていますが、陰部は複雑な構造をしているし、粘膜もあるので患者さんの、その時の状態に応じた方法を選択することが大切。
基本的な注意点
お湯: 入浴時に比べてやや低い微温湯
石けん: 刺激の少ない低刺激の石けん(用いる場合)
- 患者さんの入浴できなかった期間
- 汚染の程度は
- 易感染状態ではないか
などの状況により、石けんを用いた陰部洗浄が良いのか、清拭が良いのかなどの方法を選択していく必要があります。
洗浄の際のふき取り、清拭の場合の拭く方向はおなか側から背中側(肛門がわ)にします。ゴシゴシこすり傷をつけると、細菌が付着しやすくなるので注意。
留置カテーテルを入れている場合は、カテーテルに汚染物が付着していないか注意が必要です。
カテーテル留置後の尿道口には、常在菌が定着するので、カテーテル挿入部の感染は起こりません。
- 感染症状がない場合は、微温湯と液体せっけん、生理的食塩水を用いる
- 尿道口に炎症がある場合は、消毒を行います
ただし、常在菌に影響を及ぼさないように注意が必要です。
カンジダのある患者さん
炎症している部分を傷つけないように注意して、微温湯で優しく陰部洗浄します。
石けんを必要以上に使うと、常在菌がなくなることもあり、カンジダが生息しやすい環境を作ってしまうかもしれません。
尿道留置カテーテル感染は、カテーテルを留置していること自体が問題となります。使用は最小限にとどめることが望ましい。
看護師辞めたい、転職したいと思った時に
看護師は9Kと言われるほど。いつも忙しく走り回っていると、患者さん一人ひとりにじっくり時間をかけて対応することは、なかなか難しいものです。
新人ナース時代は、志と現実のギャップに疲れ果て、「看護師を辞めたい」、「もっとじっくり看護ができるところに転職したい」、という気持ちが増すのもしかたがないことかもしれません。
場所を選ばなければ、看護師の仕事はどこに行ってもできるし、病院だけが職場ではありません。そういった状況もあり、看護師の転職は他の職業に比べて多い。
よりよい(と思われる)職場を求めて転職したとして、看護師としてのキャリアはどうでしょう。
1つの病院でいろいろな経験をすることも、看護師として、人間として成長することは可能なはずです。
下の世話で患者さんの状態が好転した
下の世話は看護師にとっては、日常茶飯事のルーティンに過ぎません。
しかし、陰部洗浄1つをとっても患者さんにとっては、苦痛(恥ずかしい、申し訳ないと言った気持ち)であり、そのことに気づく感性、患者さんの気持ちに寄り添った看護をすることが、看護師として大切なことでは無いでしょうか。
無反応だった患者さんが、陰部洗浄をきっかけに反応を示し、回復に向かった。看護師が患者さんのちょっとした変化を見逃さず対処したことで起きた、奇跡とも言える出来事です。
まとめ~技術、知識の前に大事な人としての感性
患者さんの看護で忘れてならないことは、患者さんの思いを感じ取れる感性を無くさないこと。
看護技術や医療知識はもちろん求められますが、その前に人としての感性も持ち続けなければいけません。
患者さんにとっても抵抗の多い陰部洗浄、看護師としての感性を再確認するきっかけともなり得ます。
技術的には未熟でも、患者さんのことを思ってお世話をしようとする学生の感性を忘れずに、看護の仕事を続けたいものです。
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