働き盛りの男性患者さんとの関わりは、困難を極めます。様々な事情を抱えている患者さんとの関わりは、時として、看護師の辞めたいと言う切実な思いへ、繋がることもある。がん患者さんの思いに答えるには。
がんの男性患者さんとの関わり
病棟ナースになって驚いたのは、白血病の患者さんが、若い女性ではなく、中年以降の男性が多かったこと。
他のがんと比較すると、後発年齢は確かに低いですが、白血病は「薄幸の若い女性の病気」と言うイメージが、いつの間にか刷り込まれていたのでしょう。
美人薄命とは裏腹の切実な思い
白血病で入院されている、中年以降の男性患者さんは、ほとんどの人が家族やローンをかかえ、働き盛りの方ばかり。
早くよくなりたい、家族を守らなければ、と言う思いは非常に切実です。データが悪くても、身体が動けば退院してしまう傾向にありました。
突然の発病が受け入れられず、看護師や医師にたいして、怒鳴り散らす方もいらっしゃる。
血管がなくなる
針がうまく入らないのは、看護師の腕のあるなしの問題だけではありません。
白血病の患者さんは、抗がん剤の影響でしょうか、血管が浮き出にくくなる。さらに頻回に血液成分を調べる採血が行われるため、だんだん使える血管がなくなっていくのです。
患者さんの置かれた状況ゆえの爆発
中でもバリバリの営業マンとして活躍されていた、Cさんの怒り方はすごかった。
採血を失敗すれば怒鳴る。点滴の針が1回で入らないとわめく。処置がうまく言った時は、張り詰めた緊張が解かれ、力がぬけて倒れてしまわないかと思うほど。
Cさんに関わった医師も看護師も、心労が耐えませんでした。
ただ、Cさんは、相手が院長であろうと、研修医であろうと、新人ナースであろうと、ベテランナースであろうと、だれかれ構わず怒鳴りつけていたのは、ある意味見事だったといえます。
看護師を泣かせる患者さん
現役の最前線で活躍されていたCさんは、突然の発病が受け入れられずに居ました。さらに、感染防止のために隔離的な環境に置かれています。
仕事が出来ないイライラ、病気の先行き、などとも相まってストレスもたまってきます。
ストレスを投げつける矛先は、一番身近にいる看護師となるのです。誰もが
Cさんの担当になる日は落ち込みました。
新人ナースは、針を刺すのが怖くて萎縮してしまい、採血や点滴で失敗することが増え、最初の頃はナースステーションで泣いてばかりいたくらいです。
患者さんの辛さを受け止める
副作用から頭痛やめまい、食欲不振、脱毛など身体的な辛さもあります。様々な要素が絡み合って、患者さんの不安、いらだち、辛さは想像を絶するものであることは間違いありません。
ストレスを怒鳴ったり、喚いたりで少しでも緩和できるのなら、喜んで受け止めてあげたい。そう思わぬ看護師は居ないはずです。
美人薄明、病気のイメージは先行する
メロドラマのヒロイン、戦前は「結核」、戦後は、「白血病」。「色白で影の薄い若い女性の病気」というステレオタイプの設定が多かった気がします。
美人薄命、が文学的なテーマとして受けたからでしょう。
しかし、何やら紛らわしいイメージが先行している病気にかかった時は、戸惑いがある場合も多いのも確か。
ありがたくないものだと、患者さんが可哀想です。病気にイメージが先行するのは避けたいですね。
抗がん剤とその副作用について
がんの治療には、外科的手術、放射線的治療、薬物療法の3つがあります。この内薬物療法、抗がん剤の仕様について、少し記述しておきたいと思います。
現在、残念ながらがん細胞だけに特別に効く抗がん剤は、まだ見当たりません。正常な細胞にも影響を及ぼし、これが副作用となって新たな問題を引き起こします。
抗がん剤の副作用
通常の治療薬では、重大な副作用が現れるほどの量を用いることはほとんどありません。
しかし、抗がん剤は、多くの場合骨髄障害、消化器障害、脱毛などの副作用を覚悟しての使用となります。
副作用の無い抗がん剤はなく、また、副作用のない抗がん剤では効果も無い。抗がん剤を使用するときは、その副作用についても、十分な知識を理解しておかねばなりません。
抗がん剤でがんは小さくなっても、その副作用で致命的合併症を引き起こし、予後を短くしてしまうことも、少なくありません。
抗がん剤で見られる副作用には、白血球減少、血小板減少、出血、肺機能不全、心不全、血圧降下、腎障害、肝障害、頭痛、めまい…
抗がん剤減量/中止を必要とする副作用の症状
- 発熱(38.5度以上、投与時毎回)
- 食欲低下(食事量が半減)
- 強い悪心・嘔吐、下痢(1に数回、2日以上)
- アレルギー反応、口内炎
- 不整脈
- 血圧異常
細胞の周期
正常細胞とがん細胞の差はごく僅かです。細胞が分裂していく時は、一定の細胞生成過程を取り、細胞周期 cell cycle *と呼び、成長する細胞内の変化を4つの時期に分けて考えます。
それぞれの時期に作用する抗がん剤を「特定細胞周期作用薬」、全てに作用する物を「非特定細胞周期作用」と言います。
がん患者さんのQOL(Quality of Life)
抗がん剤を使用して得られる延命と、副作用の辛い自覚症状、感染防止のためのクリーンルーム内での入院生活、腎障害や肝障害などのために起こる寿命の短縮。
このような副作用とガンそのものの自然経過を比較した時、患者さんにとってのQOLについて、十分は考慮が必要となります。
まとめ~男性がん患者との関わり
美人薄命の2極のひとつ、結核は治る病気になりました。白血病は今でも治癒の難しい病気、というイメージは強いのですが、骨髄移植や、抗がん剤の進歩で治療成績は格段に上がっています。
働き盛りの男性患者さんは、一番身近な看護師に、自分のどうしようもない葛藤をぶつけてくるのでしょう。
病気自体への不安ばかりでなく、思うように動けない自分への歯がゆさや、働かなければならない、という差し迫った事実などにも思いを巡らせて、接していかなければいけません。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ