若い女性や未婚女性でも、がん治療などで早くに閉経と同じ状態になり、将来の妊娠・出産が難しくなる場合がありますが、がん治療をする前に、卵子や卵巣組織を凍結保存し、保存した卵子や卵巣組織を使って、妊娠・出産を可能にする技術の3種類の方法をお伝えします。
将来の妊娠・出産の可能性を奪うがん治療
年齢が高くなると妊娠しにくくなるのは、卵巣の機能が加齢とともに低下することと卵子の数も減っていくからです。
女性は平均的に50歳過ぎに閉経を迎えます。しかし、若い女性であても、がんの治療などを行うことにより、卵巣の機能に影響が及んで、閉経と同じ状態になってしまうことがあります。
それにより、将来の妊娠・出産の可能性が失われてしまう恐れがあります。
卵子の冷凍保存で妊娠を可能にする
このような場合、卵子や卵巣組織を冷凍保存し、必要ながん治療が終了してから、保存した卵子や卵巣組織を用いて妊娠・出産を可能にする技術が開発されて来ました。
冷凍保存の技術は大きく進歩していて、現在では以下のような3種類の方法が行われています。
- 受精卵の凍結
- 卵子の凍結
- 卵巣組織の凍結
凍結保存3つの方法
受精卵の凍結
パートナーがいる場合に行われます。卵子を体外に取り出してから、パートナーの精子を使い体外受精した受精卵を凍結保存します。がんなどの治療が終わり、妊娠しても大丈夫な状態になってから、凍結保存していた受精卵を解凍、子宮内に移植します。
受精卵の凍結保存は、長く研究されてきた方法です。未受精卵子を凍結保存した場合よりも、出産に至る確率は比較的高いです。
卵子の凍結
パートナーがいない未婚女性の場合は、未受精卵子を取り出し、そのまま凍結保存します。治療が終わり妊娠が可能な状態になり、パートナーがいる場合に、解凍して体外受精が行われ、受精卵を子宮内に移植します。
受精卵に比べると、凍結の際にダメージを受けやすいことがわかっています。
卵巣組織の凍結
最も新しく開発された方法で、卵巣の組織を凍結保存します。手術で片方の卵巣を取り出し、それを一定の大きさにしてから凍結保存します。卵巣の組織には数多くの卵子が含まれているので、多くの卵子を保存することが可能です。
治療後、妊娠が可能な状況になってから凍結保存していた卵巣の組織を体内に移植します。残っている卵巣に移植した場合には、排卵が起こるようになって自然妊娠できる可能性もあります。
腹膜など卵巣以外に移植した場合は、そこから卵子を採取し、体外受精を行ってから受精卵を子宮内に移植します。
凍結保存のメリット・デメリット
それぞれの方法にメリットとデメリットがあります。以下のような点を考慮して、どの方法を用いるのか選択することになります。
保存できる卵子の数
採取できる卵子は一度に1、2個、排卵誘発剤を使っても10数個で保存できる数は少なく、受精卵でも卵子でも同じです。一方卵巣組織を凍結する場合は、多くの卵子が含まれているので、凍結できる卵子の数は圧倒的に多いです。
凍結までの日数
卵子を採取するのに、排卵のタイミングまで待つ必要があるので、がんの治療がすぐに必要な場合、治療開始が遅れてしまう可能性があります。また、がんの種類や状況によっては、受精卵、卵子の凍結とも共通で、排卵誘発が行えないこともあります。
一方卵巣組織を凍結する場合には、手術ですぐ取り出せるので、凍結保存を行えるまでの日数は短くて済みます。
がん細胞が混入する可能性
受精卵や卵子を凍結する倍は、がん細胞の混入を考える必要は無いので、がんの種類に関係なくどちらも凍結保存ができます。
しかし、卵巣組織には、がん細胞が混入している可能性があります。
白血病や卵巣がんでは、卵巣内にがん細胞が含まれている可能性があり、このような場合は凍結保存の対象になりません。
がん治療と妊娠・出産の可能性
がん治療のすべてが問題となるわけではありません。一部の抗がん剤と骨盤領域に対する放射線治療が卵巣に影響を及ぼします。
抗がん剤に関しては、その種類と、患者さんの年齢を考慮する必要があります。
アルキル化剤
全ての抗がん剤が影響するわけではありません。もっとも影響があるのが「アルキル化剤」と言う種類の抗がん剤で、乳がんや白血病の治療で使われることが有ります。
年齢が上がるほど将来の妊娠・出産に影響が
卵巣に含まれる卵子の数は、出生時には約40万個ほどありますが、初潮を迎えるころには20何個ほどに減っています。また、1回の排卵に500~1000個の卵子が使われ、年とともにだんだん数が減っていきます。
残った卵子が500~1000個を下回るようになった状態が閉経です。個人差はありますが、卵子の数は、基本的に年齢が上がるにしたがって減っていきます。
そのため、年齢が高くなってきて、卵巣への影響が強い抗がん剤を使っている人は、将来の妊娠・出産が難しくなる可能性が高くなります。
しかし、抗がん剤や放射線治療など、がんに対する治療は必要不可欠であり、将来の妊娠・出産を考慮することはもちろん大事ですが、まずは命を救うことが最優先です。がんの治療を行う医師と、十分相談することが大切です。
がん治療以外で妊娠・出産に影響する場合
膠原病など一部の自己免疫疾患の治療でも、がんの治療で使われるアルキル化剤が使われることが有ります。
そのため、膠原病などの治療でも、閉経が早まり、妊娠・出産が難しくなる可能性もあります。
新しい医療技術が広まるために重要なこと
医学的な理由による卵子や清掃組織の冷凍保存は、新しい医療技術です。
正しく広まるためには、正しい情報を患者さんに伝えること、医師の間で情報や問題を共有することが重要です。
正しい情報を患者さんに伝える
将来妊娠を望んでいる人ががん治療を受ける際、卵子や受精卵、卵巣組織の冷凍保存と言う方法があることを、がんの治療が行われる前に、正しく伝える必要があります。
特に若い女性や、未婚の女性には妊娠の可能性があることは、心の支えとなる場合もあります。
ただし、卵子や卵巣組織を冷凍保存しても、将来必ず妊娠・出産が可能になるわけではないということも、正確に理解してもらう必要があります。
生殖医療の技術は急速に進歩していますが、まだ絶対的なものではありません。特に卵子と卵巣組織の冷凍保存については、まだまだ技術の改良が必要な段階です。このような正しい知識が、患者さんに正確に提供されることが大切です。
情報や問題を医師の間で共有
どんなに詳細に情報を伝えられても、患者さんが一人で決断するのは難しいです。がん治療の主治医と十分相談すること、そして相談を受けた主治医は、生殖医療を専門とする産婦人科医と連携し、その患者さんにはどのような方法が良いのか、検討します。
がん治療専門の医師と、生殖医療を専門とする医師が密な連携をして治療にあたることが、今後の重要な課題です。
どんなに医療技術が進歩しても、その技術を必要とする患者さんに適切なタイミングで、正しく提供できなければ意味がありません。
実際の治療には、医師だけでなく、看護師、心理士、ソーシャルワーカーなどの連携も欠かせません。
がんと言う命に係わる病気の問題と、女性にとっての大きな希望の問題を前に、患者さんは大きな不安を抱えています。若い方、未婚の女性はなおさらです。
そのようなときに、看護師が相談に乗ったり細やかな心理ケアを行うことで、医療スタッフ全員が患者さんをサポートしていくことが求められます。
まとめ~妊娠の可能性をさぐるがん治療
若い方、未婚女性は特に、将来の妊娠・出産への影響が不安ながん治療。卵子の保存で妊娠の可能性があることは、大きな希望になります。
現在医学的な目的による卵子や濫觴組織の冷凍保存を行っている施設は、日本産科婦人科学会に登録されています。同学会のホームページで一覧できます。
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