病棟ナースは、ただ患者さんのお世話をするだけでなく、入院生活の不自由さや不安などを、少しでも緩和できるよう尽くさなければいけません。裏側にある心理を理解して、対応するには。
病棟ナースの役割
患者さん自身のニーズに応える事は勿論ですが、ご家族のニーズにも気づく必要があります。
気づかずに対応が遅れたりすると、時として治療や病院への不信から、大きな問題に発展しないとも限らないのです。
それぞれの潜在意識をも気づくことで、ご家族の思いと、患者さんの思いがすれ違って、不幸な関係になってしまうことを防ぐこともできる。
ご家族だけが知っている「余命1ヶ月」
余命1ヶ月の患者さんと、ご家族の思いがすれ違うのを見た病棟ナースの行動は、双方をつなぐことが出来ました。
これは一つの事例に過ぎませんが、ご家族との関わりは、様々な問題を抱えているご家族の思いに共感しつつ、患者さん、ご家族が「有りたい姿」に近づいていくことを、サポートして行くことではないでしょうか。
胃がんで入院されているAさん、病名は本人もご存知ですが、実は余命1ヶ月。ご家族だけに告知されています。
高齢で手術は無理、せめて体力のあるうちにご自宅に帰ってもらおうと、一時外泊を勧められていましたが、急変することも無いとは言えない、と医師から伝えられました。
一時外泊が認められたのに…
ご家族と患者さんは外泊の話をしていないようでした。
病棟ナースが「そういえば、外泊の話がありましたよね?」と何気なく話しかけると、患者さんは、「病院にいたって、ただ寝ているだけだからな」と家に帰りたがっています。
しかし、付き添っている娘さんは「こっちだって大変なのよ。あんまり勝手なことを言わないで」と気まずい空気が流れました。
会話で外泊に触れない理由
それぞれ相手の状況を気遣って、外泊の話に触れていなかったようです。余命はご家族だけが知っていて、患者さんは知りません。
「家に連れて帰りたい」と思いながらも、「急変したらどうしよう」「余命のことを知られてしまいそう」と言った不安もあったでしょう。
このようなケースでは、一般的に外泊することによる、以下の様な問題に直面しています。
- 病院環境への不安
- 心理的な危機状況
- 家族の役割と日常生活の変化
- 経済的負担への不安
これらの裏側にある心理を理解して、対応することが大切。
力になりたい
お互いの思いがすれ違っているのが、はたから見てももどかしい。「何かわからないことや不安な事はありますか」と声をかけました。
なんとか力になりたいと思っても、看護師が積極的であると、ご家族にとっては言い方や対応までもが、気に障ると言う思いを生み出しやすい。
病気は、患者さんだけでなく、ご家族の苦しみでも有ります。良かれと思ってかけた言葉が、ご家族を傷つけたり、誤解を生じさせかねません。
ご家族も不安
手のつくしようがない状況で、ご家族の心理状態は複雑です。
「他人に家族の気持ちが解るわけがない」「不安を言えたら楽なのに…言ってもどうにもならないけれど」と感じているかもしれない。
患者さんやご家族は、ふと本音をいうことも有ります。それを情報として捉え、関わり方を考えると良いでしょう。
言葉をかけなくても、「ご家族を支えたい」と言う、あなたの気持ちを伝えることが重要です。
面会に来ても病室の前で立ち止まっている
ご家族の強い希望で、Aさんには余命の告知をしていません。
しかし、「いつかは話さないと」「どう言ったらいいの」「話したら、お父さんはどうなるの」などなど事実を伝えられないでいる。
外泊を楽しみにしているAさんの前に、どんな気持ちで行ったら良いのか、気持ちの整理がつかないのです。
告知をしていないことも「本当にこれで良かったのだろうか」と罪悪感を感じたり、居心地が悪く、面会前の揺れ動く気持ちを、なんとか整理しようとしていたのかもしれません。
病室の前で立ち止まるご家族の変化に、気づいた感性を大切にしましょう。常に心は揺れ動くことを理解しておくことが重要です。
それぞれの本当の思いを読み取る
患者さんやご家族の思いに気づかないでいると、対応次第では看護師、病院への不信につながり、重大な問題に発展しかねません。
理不尽な要求ばかりする、いわゆるモンスターペイシェント、モンスターファミリーに遭遇することもありますが、それはまた、別問題。
多くの場合看護師が、患者さん・ご家族、それぞれの本当の思いを読み取り対処することで、患者さん・ご家族が「こうありたい」と願う姿に近づいていくことを支えていけるのだと思います。
まとめ~言葉の裏にある心理を理解
教科書通りの看護をしていては、決して知ることのない、患者さんやご家族の本当の思いにも気づき、関われる看護師で有りたい。
「ご家族を支えたい」という強い気持ちを持ち続けること、ふとした言葉のウラにある心理を理解することが大切です。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ