ナースはいつも忙しい。患者さんからの絶え間ないナースコールは、緊急事態のこともあり、気が抜けません。本当に心臓に悪いです。
夜勤の時に、排泄のコールがやたら多い患者さんには、正直なところ「本当に?ただ寂しいだけなんじゃないの?」と思ってしまい、自己嫌悪を感じることも。
辞めたいと思ったことも数え切れず。でもやめられないナー。だってナースほど誇れる仕事はないから。
出会いに感謝
確かに仕事はきつく、辛いことも多いです。それでもナースを続けているのは、ふとした時の患者さんの言葉に励まされたり、いろいろな気づきをいただいたこと。人間としても大きく成長できたと、感謝しています。
辞めたい!と思った時に、引き止めてくれたのは患者さんの言葉。中でも心に残っている3つの言葉があります。
忘れられない言葉~「あなたの時にお願いするね」
新人ナースのころに言われた、この言葉が忘れられません。言われた時は意味が分からずにいたのですが…
たまたま交代で夜勤に入った時に、その方が亡くなられ、奥さまが、「あなたを待っていたのね」と。ようやく気づいたのです。
「私に看取ってもらいたい」と言う願いを込めた「あなたの時にお願いするね」だったのだと。
なぜ、新人でわからないこともたくさんあり、未熟な私にそんなことを言ってくださったのか。
患者さんに待たれる看護師
思い当たるのは、未熟なりに、今どんなことを考えていらっしゃるのか、どうしてほしいのだろうと、患者さんの気持ちに、寄り添っていたいと心がけた、ということです。
死と向き合っている患者さん、ご家族に対して、もっとできることがあるのではないかと考えた出来事でした。
「あなたに看護してほしくない」
仕事を続けるパワーとなったことばのなかには、看護師としての私を、否定されたかのように思えるものも。
新人ナース時代と違い、一人前に仕事ができる、と思っていた頃のことです。
「あなたには看護をしてほしくない」
看護師が患者さんから、「あなたでは嫌だ」と言われたわけです。しかも「ほかにもそう思っている人がいる」。もう頭が真っ白になりました。
患者さんがおっしゃるには「あなたのために言っているんだ」と。その時の私は、「こんなに一生懸命やっているのに、なんでわかってくれないの」と受け入れがたいことでした。
「あなたの痛み止めが一番よく効く」
それから2年後、その時の患者さんの言葉の、真意がわかる出来事が。
ある患者さんから「あなたの痛み止めが一番効く」と言われた時です。医師は出した痛み止めが効かなければ次のもの、それもだめなら次、と処方します。
私はどうしたらその痛みどめが効くだろう、と患者さんと一緒に考えたのです。患者参画です。その時に「患者さんは、こういうことをして欲しかったんだ」ということがわかりました。
不安や寂しさが、痛みの原因になっていることもあるのだ。医師の出す薬が効かなくても、看護師が痛みを和らけることができることがある。これが看護なんだ。と。
患者さんとナースは個と個の関係でよい。2年前に言われた「あなたには看護してほしくない」という言葉は、単なる作業として、患者さんに接していたから。
そのことに気づいてほしい、という優しさからだ、ということがよく理解できたのです。
私に苦言をくださった患者さんは、母のように、私という看護師を、見守ってくださっていたことに、ようやく気づきました。本当に良い出会いをさせていただいたと、感謝しています。
そのことがあってから、看護の仕事がより面白く、誇りに思えるようになりました。
「ずっと看護師を続けてね」
子供が出来たときは、仕事を続けていくかどうか悩みました。その時も一人の患者さんのこの言葉があって看護師を続けようと。
ある晩、18歳の患者さんが病室から消えてしまいました。私がベッドのそばに行くと、いつも「ずっと看護師さんを続けてね」と言う若者でした。
幸いすぐに院内で、みつけられたのですが、ぽつんと「家に帰りたい」と言うのです。
担当のドクターもすでに帰っていましたので、「明日になったら、先生に相談してみましょうね」、と病室に連れ帰ったのですが、その晩亡くなられました。
明るく笑顔で「看護師を続けてね」、と言ってくれた若者の言葉、こんな出来事があったのでより強く心に残っています。
仕事への誇りと喜び
新人ナースは勉強することも多く、仕事の責任の重さや、慣れない夜勤、頻繁なナースコールに不安や精神的・肉体的にも限界を感じ、また、患者さんの死と直面する病棟から、他の病棟に変わりたいとも思っていました。
しかし、このような患者さんとの出会いが、「大変、つらい」という気持ちから仕事への誇りと喜びに変わっていったのです。
一瞬、一秒のかかわりを大切に
患者さんとのかかわり、ほんの一瞬、1秒がとても大事な意味を持つことがあります。
どんなに忙しくても、ナースに何かを訴えたり、話しかけたそうにしていることに気づくこと、そこで足を止めて耳を傾けることができること。
心のゆとりを失わず、ナースという誇れる仕事を続けていけるのは患者さんとの出会いがあったから。
「Anのひとりごと」、今日から始まる新しい1ページ