大人に起こる成長ホルモンの病気、過剰分泌と分泌の低下で起こります。疲れやすい、無気力、手足が大きくなった、血糖値がコントロールできないなどの症状は成長ホルモンの病気のサインかも。詳しい検査を受けましょう。
成長ホルモンの異常は全身に影響
成長ホルモンは成長期に身長(骨)を伸ばす働きがあることがよく知られていますが、成長期だけでなく一生を通じて分泌され、代謝を調節して生きていく上で欠かせない働きをしています。
成長ホルモンの働き
- 骨を作る
- たんぱくの合成を促進
- 脂肪の分解
- 水・電解質のバランスを整える
分泌に異常があると全身に様々な影響を及ぼす、大切なホルモンです。
成長ホルモンの分泌異常で起こる病気
成長ホルモンの分泌 | 過剰 | 低下 |
---|---|---|
小児 | 巨人症 (身長が高くなる) | 低身長症 (成長障害による) |
大人 | 先端巨大症 | 成人成長ホルモン分泌不全症 |
成長期に成長ホルモンが過剰に分泌されると身長が高くなる【巨人症】、低下すると【低身長症】を起こします。大人の場合は、【先端肥大症】、【成人成長ホルモン分泌不全症】を起こします。
大人の成長ホルモンの病気
先端肥大症、成人成長ホルモン分泌不全症、馴染みのない病名ですよね。体の先が大きくなる?身長が低くなる?そんなイメージを持たれた方もいるのでは。
主な症状はあとでまとめていますが、例えば、
糖尿病の治療をしているが、血糖値のコントロールができず困っている
メタボと診断されたが、疲れやすい、気力がない、などうつの症状かも
と言ったケースもあります。
詳しい検査で成長ホルモンの異常による病気と診断された場合、適切な治療で回復が期待できます。
先端巨大症
成長ホルモンが過剰に分泌されて起こります。大人の場合身長に影響が出ないので、成長ホルモンの病気とわかりにくいです。
糖尿病の治療で食事制限、服薬をしても血糖値をコントロールできない、靴や指輪が入らなくなった、顔が変わったなどの症状から病気が疑われることも。
先端巨大症は5~10年かけてゆっくり進行するので、本人や家族、いつもあう人などは気づきにくく、久しぶりにあった人に言われて発見されることが多いのも特徴。
主な症状
- コントロールできない糖尿病や高血圧
- 手足が大きくなる
- 顔つきの変化・かみ合わせの悪化
- いびき
- 声が低くなる
主な症状と原因
症状
- コントロールできない糖尿病や高血圧 血糖値や血圧があがり、治療をしていてもコントロールできない
- 手足が大きくなる: 指輪や靴のサイズが合わなくなる
- 顔つきの変化・かみ合わせの悪化:
鼻が大きくなる、唇が厚くなる、受け口になる、かみ合わせが悪くなるなど - いびき: 大きないびきをかく、睡眠時無呼吸症を合併することも
- 声が低くなる: 声帯が太くなる
原因
ほとんどが下垂体にできた良性腫瘍が原因でおこる
主な治療
- 手術
- 薬
- 放射線治療
先端巨大症は治療せずに放置していると、糖尿病の悪化、心臓や血管への負担などで、健康な人と比較すると死亡リスクは2~3倍、平均寿命は10年ほど短くなると言われています。
病気のサインに早く気づき、検査で診断を確定し治療を受けることが大事です。
手術
腫瘍を摘出する手術が治療の第一選択です。現在はほとんどの手術が鼻から内視鏡や手術器具を挿入して行う方法(経鼻)が用いられています。
手術の翌日から食事も摂れるなど、患者さんの負担も軽減されています。腫瘍がすべて摘出できれば成長ホルモンの分泌は正常に戻るので、症状や合併症も改善されます。
薬
成長ホルモンの分泌や働きを抑える内服薬、注射薬が用いられます。心不全や糖尿病などで手術が難しい、手術で腫瘍が摘出しきれない場合の治療法です。
放射線治療
腫瘍に多方向から放射線を集中的に照射します。腫瘍が摘出しきれない、薬の効果が不十分な場合。
成人成長ホルモン分泌不全症
メタボ様の症状や心臓などの機能低下、筋肉量・骨量の低下などが起こります。成長ホルモンだけでなく、甲状腺や副腎からのホルモン分泌も低下して、うつ病のような症状が起きたりもします。
ポイント
主な症状
- メタボリックシンドローム様症状
- 機能低下
- 自覚症状
主な症状
メタボリックシンドローム様症状
脂肪を分解する働きが衰えて起こる「LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪の増加。
内臓脂肪の増加や肥満などが起こる。
機能低下
心臓の機能低下、動脈硬化、筋肉量や骨量の低下などが起こる。
自覚症状
疲れやすい、続かない集中力、無気力でうつ症状、皮膚の乾燥、手足の冷えなど。
主な原因と治療
おとなになってから成長ホルモン量が低下するケースの半数以上は、下垂体か視床下部に起こった腫瘍が原因とされています。
若い頃に受けた下垂体の腫瘍摘出で診断が確定することもあります。
その他に、頭の手術や放射線治療、事故や外傷、小児で発症し、大人になっても成長ホルモンの分泌が少ないままのことも。
その他の原因でもこれらの症状が起こることも多く、きちんと検査を受けて原因をはっきりさせる必要もあります。
治療
- 成長ホルモン補充療法
- 低下している他の下垂体ホルモン適量を注射で補充
治療をせずにいると心臓病や脳卒中が増加、死亡率が健康な人の1.5~3倍高くなると考えられています。
下垂体とは
頭の中央にある小さな器官ですが、全身のホルモンの分泌を調節する「ホルモンの司令塔」の働きをになっています。
下垂体から分泌されるホルモンは
- 成長ホルモン
- プロラクチン(母乳の分泌を促進)
- バソプレシン(腎臓に働き尿を濃縮し利尿を抑える)
- オキシトシン(分娩や授乳に関わる)
- 甲状腺や副腎、卵巣や精巣からのホルモン量を調整するホルモン
(甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン))
など8種類ほどあります。
成長ホルモンの異常は下垂体の腫瘍により起こりますが、腫瘍が下垂体のすぐ上をと通っている視神経を圧迫し、視力障害を起こすこともあります。
特徴は左右が見えにくくなることなので、車の側面をぶつけることが多い、横からものが飛んできてもわからない、などの症状があったら病気を疑って検査をお勧めします。
成長ホルモンは加齢で減少
成長ホルモンは加齢とともに減少しますが、質の良い睡眠、栄養、運動が減り方を緩やかにするポイントです。
アスリートが筋力アップのために成長ホルモンを悪用した、ドーピングが問題になっていますが、ドーピングは一時的に効果があっても内蔵などがボロボロになりかねないキケンな方法です。
まとめ~検査で診断を確定、治療を
成長ホルモンの病気は、診断が確定され適切な治療を行うことで症状や合併症が改善されていきます。
メタボ様の症状やうつのような症状も軽減され、多くの患者さんが元気になります。早期発見、早期治療が大切。
下垂体の病気は指定難病として公費補助を受けて治療を行えます。気になることがある場合は専門医を受診しましょう。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ
参考:
専門医の情報:日本内分泌学会で閲覧可
指定難病の医療費補助について:厚生労働省 第34回(10/29) 難病対策委員会資料 参考資料2