看護師は患者さんへの説明で、無意識に医療用語・略語を使うことが少なくありません。使用することで、誤解や不安を与えかねないエピソードと、仰天の看護師が使う医療用語・略語集をお届けします。
看護師が使う仰天の医療用語
医療用語・略語には、全く想像がつかない略語や、同じことばでも、一般的に使われているものとは全く違う意味のものなどがあります。
例えば、Vライン、SOAP、SP、アポ、ヘモる、デコる、スピッツ…などなど、どんな意味か想像がつくでしょうか。(意味は後述してありますので、答え合わせをしてみてください。)
交代勤務で休みも不規則な看護師は、休みの日も医療職と一緒に過ごすことが多いです。
医療用語・略語を交えた会話をしていても、それが普通の状態になり、患者さんや家族への説明や会話で、無意識に使っている場合も少なくありません。
患者さんに誤解や混乱、不安などを与えかねないことばを使っていないか、意識して自問自答してみることが大切です。
医療機器の名前と読み方は難しい
看護学生が実習で苦労することの一つが、手術室の機材や機械を覚えること、なんせはさみひとつとっても、使用する用途によって様々な形があるのです。
基本は「クーパー(剪刃)」ですが、これにも先端がまっすぐになっているものと、曲がっているものがあります。
一番よく使われるのがクーパー曲なので、医師にクーパーと言われたら、クーパー曲を渡します。そのほか
- 「鉗子」(かんし)止血を行ったり組織をつまんで挟む、把持(はじ)する
- 「鑷子」(せっし)ピンセット
- 「筋鈎」(きんこう)筋肉を広げ抑えておくもの
などなど。これらも種類、用途により名前がついています。
とにかく漢字だらけで聞き慣れない言葉も多く、手術内容にしても機械にしても、「なんでこんなに漢字が読めないんだろう…」と思いつつ、ノートにそれぞれの絵をかいたりして、名称、読み方、使い方をみな必死に覚えるのです。
医療用語・略語が自然と会話に
そんな看護学生も、入職して「3か月目の看護師辞めたい」を無事乗り切り、半年ほどすると仕事に慣れ始めます。
手術で使用するはさみひとつをとっても、覚えるに苦労していたのがついこの間のことですが、看護師となり、医療用語・略語を頻繁に使用しての会話が自然となってきます。
しかし、患者さんに直接かかわる場面での使用は、誤解を招いたり、患者さんを不安にさせたり、どうしたらよいか困らせてしまうこともあるので、注意しなければなりません。
患者さんの誤解や不安を招く会話
スタッフだけの場での会話なら問題はありませんが、病棟などで患者さんや一般の方がいるところでの医会話における医療用語・略語は、時に混乱が起こることもあります。
例えば、「ステート持ってきて」は聴診器を持ってきてと言う意味ですし、「BSチェックした?」と言うと「血糖測定した?」と言う意味です。
これを患者さんやご家族が聞いたら、「仕事中にテレビ(BS放送)の話をしているのかなあ」。
会計や税理士の方が聞けば、「バランスシート(賃借対照表、BSと略す)のチェックなんて、なんでこんなところでしているんだろう」
と思うかもしれません。この程度なら、笑い話で済みそうですが…
付き合う相手は医療職
看護師の仕事は忙しく、休みも交替勤務で不規則です。医療機関以外の人と休みを一緒に過ごすことが少なくなり、仕事でも、休みでも、医療職同士で過ごすことがどうしても多くなります。
すると、いつの間にか何が医療用語・略語なのかを、忘れてしまうことにもつながります。
患者さんや家族に、病気や入院中の説明をするときに、無意識で医療用語・略語を使ってしまいます。
説明している看護師は、もちろん何を言っているのかわかっていますが、患者さんや家族は、説明を間違って理解してしまったりするリスクがあります。
説明したことを理解できたら署名をもらったり、確認したりしますが、患者さんはよくわからないことが有っても、わかりました、と言ってしまうことも多いです。
ついつい医療用語・略語で説明したことが患者さんや家族の誤解を生んでしまうこともあるのです。
誤解や不安を招く例
きんいんしょく
よくある指示で、文字にするとすぐにわかるのですが…
あすからきんいんしょくです
(きんいんしょくってなんだろう?みんな当然知っていることなんだろうな)はい
看護師が当然のように言ったので、知らないことが恥ずかしくて聞けなかった患者さん。後からベッドサイドに「禁飲食」と言うカードを置きに来たので意味が分かりました。
患者さんは、このカードが来るまで、「きんいんしょくってなんだろう。ちゃんと聞いた方がいいかな。このままでいいのかな。聞いたらバカにされるかもしれない」など不要な心配をすることになります。
医療用語・略語を患者さんに使っていないかどうかチェック
「自分は使っていない」と言う看護師も、医師や看護師同士で話をするときは、無意識に使用していると思います。
その延長線上で患者さんや家族と話をしていてもおかしくはありません。
意識的に自分は看護師であり、医療用語・略語を頻繁に使っているのだという自覚を意識して持つこと、患者さんの反応を見ながら、使っていないかどうかを自問自答して、会話をするよう心がけたいものです。
これは何語?と思うような医療用語・略語
普通に耳にしたら、いったい何のことなのかさっぱりわからない、擬態語のような言葉もある医療用語・略語とその意味を、ちょっとご紹介しましょう。
いかにもな医療用語・略語
初期診療 (プライマリーケア) |
病気やケガをした時に最初に受ける医療のこと |
---|---|
急性期 | 症状が急激に現れる時期のこと。病気になり始めの時期である |
慢性期 | 病状は比較的安定しているものの、治癒が困難な状態が続いている時期のこと |
回復期 | 容態が危機状態(急性期)から脱脂、身体機能の回復を図る時期のこと |
終末期 (ターミナル期) |
病気が治る可能性がなく、数週間~半年程度で死を迎えるだろうと予想される時期のこと |
主訴 | 患者が最も強く訴える症状 |
既往歴 (アナムネ) |
これまでにかかった病気のこと。病歴 |
家族歴 | 親族や同居者の病気・健康状態のこと |
禁忌 | 患者の予後を悪化させてしまう、検査、治療、投薬などの看護ケアを指す |
外因死 | 病気が原因ではない死亡のこと、自殺、他殺、自己、自然災害、中毒死など。特に事故や他殺などの外傷による死亡を呼ぶことが多い |
異常死 | 外因死、医療事故、原因不明の市のこと。医師法により警察への届け出義務がある |
普通死 | 診断の付いた病死。警察への届け出は不要 |
「~る」7活用
へモる | 出血する hemorrhageに由来 |
---|---|
タキる | 呼吸や脈が早くなること |
ステる | 死亡すること sterubenより |
ベジる | 植物状態を意味する |
デコる | 心不全の状態におちいること |
ゼブる | 敗血症性ショックを起こすこと |
ラブる | 血管が裂けて出血すること ruptureより |
仰天!他の意味と間違えそうなもの
SOAP | カルテ(診療録)の書式の1つ |
---|---|
3-3-9度方式 (ジャパン・コーマ・スケール(JSC)) |
意識障害の評価方法 |
スピッツ | 血液検査や尿検査などで、採った血液や尿を入れる試験管のこと |
コードブルー | 患者の容態が急変した際の「緊急事態発生」「支給全員集合」を意味することばで、救急司令室(ER)関係者が用いる。 救急コールの種類には、コード・レッド、コードグリーン、コードイエロー、コードゴールドなどがある |
DNR | 「心肺蘇生を行わないでください」という意味 |
Vライン Aライン |
血管から点滴や輸血のための道を確保すること、またはその道のことをラインという。 Vラインは静脈血からのライン、Aラインは動脈からのラインである |
アポ | 脳卒中のこと。Apoplexyより |
カットダウン | 切開して血管を露出させ、カテーテルを挿入する方法のこと |
SP | 脊椎(spinal)または痰(sputum)の略 |
se | 副作用(side effect)、がんが漿膜の表面に出てきている状態(serosa exposed)の略 |
NG | 経鼻的胃(nasogastric)のこと |
BS | 血糖(blood sugar)を意味する略語 |
診療科シリーズ
P(ピー)(プシコ、プシとも言う) | 精神科のこと psychiatryより |
---|---|
アウゲ | 眼科 augeより |
ニューロ | 神経内科 neuroogyより |
オト | 耳鼻科 oto-rhinolaryngologyより |
ウロ | 泌尿器科 urologyより |
ギネ | 産婦人科 gynecologyより |
デルマ | 皮膚科 dermatologyより |
オルト | 整形外科 orthopedicsより |
ノイエ | 新人 neuerより |
ネーベン | 研修医 nebenより |
オーベン | 指導医、上級医師 ovenより |
その他
ホウコウ | 包帯交換 |
---|---|
アンプタ | 四肢の切断、切除術を意味する |
ブンク | 穿刺を意味する punkition(独)puncture(英)に由来 |
エネマ | 浣腸 enemalに由来する |
デクビ | 褥瘡、床ずれのこと decubitusより |
プルス | 脈拍 pulsに由来する |
これらはほんの一部です。新人看護師は医療用語や略語を泣いて覚える、とも言われるほどで、用語集、略語集は必須。
医療用語はドイツ語が多いので、ドイツ語に堪能であるとある程度推測がつくものも多いですが、患者さんにとってはまさにちんぷんかんぷん、仰天の世界です。
だれですか?看護師さんが「Vラインね」と言っているのを聞いて、あらぬ想像をしたのは!
まとめ~注意したい医療用語・略語の使用
看護師が使う医療用語・略語には誤解を招いたり、不安になったりすることばもあります。
人ごとであれば笑い話になるようなことであっても、患者さんにとっては重大な問題となることもありえます。
無意識に患者さんとの会話や説明に使用していないか、意識してみてください。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ