若くてカワイイ看護師さんが多い、と評判のT病院。実情は新人看護師の離職率の高さでした。労働環境に不満がある、人間関係がうまくいかない。将来が見えない。リアリティショックから新人看護師の転職と辞めたい理由、ワーク・ライフ・バランスを考えます。
リアリティショックとは
新人看護師が、採用後1年以内にかかる、短期的ストレスです。入職してから3ヶ月目ころから始まり、6ヶ月目頃には大抵の場合抜け出せる、というストレス状況です。
この状態が続くと辞めたい気持ちが実際の離職、転職につながります。
多くの病院では、リアリティショック対策として、プリセプターシップを導入していますが、プリセプター自身がストレス状態に陥り、本来の目的を達成できないケースも少なくありません。
新人看護師が辞めた理由
新人看護師の離職理由を学校と病院の看護部が調査した報告書*によると、上位3つは同じ理由ですが、4位以下は、病院の調査と学校の調査とでは順位が大幅に変わっているものもあります。
看護師が辞めるときに、病院に伝える退職理由が建前の場合が多くなる、ということも背景にあるのかもしれません。
病院調査と学校調査による辞めた理由
- 基礎教育終了時点の能力と、現場で求める能力とのギャップが大きい
- 現代の若者の精神的な未熟さや弱さ
- 看護職員に従来より高い能力が求められるようになってきている
が上位トップ3。その他に
職場風土、多忙で教育が行き届かない、交代制などの不規則な勤務形態が理由として上げられています。
病院調査 (n=1219) |
参考 学校調査 (n=436) |
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順位 | 割合(%) | 順位 | 割合(%) | |
基礎教育終了時点の能力と現場で求める能力とのギャップが大きい | ① | 76.2 | ① | 80.3 |
現代の若者の精神的な未熟さや弱さ | ② | 72.6 | ② | 76.4 |
看護職員に従来より高い能力が求められるようになってきている | ③ | 53.3 | ③ | 47.0 |
個々の看護職員を「認める」「ほめる」ことが少ない職場風土 | ⑨ | 20.9 | ④ | 45.0 |
現場の看護職員が新卒看護職員に仕事の中で教える時間がない | ④ | 39.0 | ⑤ | 37.8 |
交代制など不規則な勤務形態による労働負担が大きい | ⑤ | 37.2 | ⑧ | 28.9 |
新卒看護職員を計画的に育成する耐性が整っていない | ⑩ | 20.8 | ⑦ | 30.0 |
神速看護職員が看護の仕事の魅力を感じにくい状況がある | ⑦ | 30.4 | ⑥ | 34.9 |
自分が医療事故を起こすのではないか、と言う不安で萎縮している | ⑧ | 28.5 | ⑨ | 28.0 |
看護業務が整理されていないため新人が混乱する | ⑪ | 17.0 | ⑩ | 23.4 |
現代の社会・経済的な状況が経済的自立の必要性を弱めている | ⑥ | 33.4 | ⑪ | 20.0 |
その他 | ⑫ | 10.3 | ⑫ | 15.1 |
無回答 | ー | 7.5 | ー | 1.1 |
出典: 新人看護職員の離職理由(「2004年新卒看護職員の早期離職等実態調査」日本看護協会)
*新人看護職員研修の現状についてpdf p7
新人看護師ではなく、潜在看護師に行った調査の結果*なので単純には比較できませんが、職場環境に関する離職理由として
- 勤務時間が長い・超過勤務が多い
- 夜勤の負担が大きい
- 責任の重さ・医療事故への不安
- 休暇が取れない
- 上司・同僚との関係
などが上位です。病院、学校側の調査にはない、人間関係が離職理由として大きな割合をしめていることがわかります。
出典:長時間労働と夜勤の負担が離職の理由 日の本医療を救え p12
*日本の医療を救え 日本看護協会pdf
新人看護師の転職
出典: 日本の医療を救え pdf p6 日本看護協会
看護師は離職率が他と比較して高く、転職率も高い職業です。2009年の資料*ですが、看護職は年間10万人が離職し、転職等再就業は8万人と言う推計があります。
年齢別に見ると、看護職員の就業率は20代後半から30代前半にかけて急激に低下します。
結婚や子育てが大きな理由ですが、より良い条件の勤務先を求め、転職する看護師も多いのです。
出典: 看護職員の年齢階層別就業率
医療施設等における看護職のワーク・ライフ・バランスへの取り組みpdf p2 日本看護協会
人間環境を変えるための転職
新人の転職理由で多いのは、学校で勉教してきたことと、現場で求められることのギャップの大きさ、責任の重さ、忙しすぎることなどですが、それらは言ってしまえば、どこの職場でも看護師不足で大忙し、似たようなものです。
隣の芝生が青く見えることも、たしかにあるでしょう。しかし中でも大きな理由はやはり人間関係です。
ある程度慣れ、ということもありますが、相性ばかりはどうしてもダメな場合も多い。
自分の能力、持ち味を生かせる職場でやりがいを持って働きたい、誰しもそう思います。新人看護師は、その気持がとても強いのです。
同僚とあまりうまくいかない、というならまだなんとかなりますが、上司との関係がギクシャクしていては、できる仕事もミスをしたり、将来の姿が見えてこなかったり。
職場の風土
そもそも経営方針に問題がある病院は論外ですが、職場の風土は上司によって決まる部分が大きい。
実際上司が移動して、新しい看護部長や師長になったら仕事にやりがいがもてるようになり、まるで別の病院になったということも少なくありません。
上司が交代するまで待っていられない、今すぐ環境を変えたい。そんな気持ちが転職へと向かいます。
職場環境の改善
どこの職場でも、看護師の離職率の高さ、特に新人看護師の定着率は大きな問題です。長く勤めてもらうために、労働環境の改善など様々な試みが行われています。
例えば、日本看護協会では、
- 看護職のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップの全国展開
- 看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン
などの取り組みで、看護職の労働環境の改善、離職率の低下等、長く勤められる環境づくりの実現を目指しています。
看護師不足と病院の存続
一人の看護師を一人前に育てるには、多くの人が関わり、教育などにも時間や費用もかかっています。即戦力となる頃に辞められてしまっていては、病院経営上にも支障がでます。
ある大学病院は、若くてフレッシュな看護師が多い、と評判ですが、実情は毎年200人の看護師が辞め、辞めた看護師の代わりに新人看護師を200人採用していると聞きました。毎年、新人教育に経費を支出し続けなければいけないわけです。
新人看護師や転職希望者、潜在看護師を採用できる体力のある、大きな病院は良いですが、余裕のない病院では、離職は死活問題でもあります。
看護師不足で更に労働環境が悪化し、採用が思うようにできない、更に離職者が増える、という悪循環に陷る現場も少なくありません。
いかに長く勤めてもらえるか。現場で力を発揮してもらうためにも重要な課題ですが、病院の存続にも大きく影響する問題でもあります。
参考: 看護職のWLB実現状況
医療施設等における看護職のワーク・ライフ・バランスへの取り組みpdf p5 日本看護協会
まとめ
毎年5万人前後生まれる新人看護師。その離職率を、なんとか低下させようと様々な取り組みが行われています。
新たなな環境を求めて新人看護師が転職する必要のない職場環境。いかに長く働いてもらうか。
労働環境や新人看護師を取り巻く人間関係、将来の目標など、看護師本人はもちろんのこと、医療に関わる組織や人たちも、ワーク・ライフ・バランスについて考えることが、重要な課題でしょう。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ