子どもができないと悩み、不妊治療を考えている方に知っておいて欲しい、不妊治療の2つの壁についてお伝えします。特に男性は女性のからだへの負担、心理などにも理解を深めてください。パートナーの無関心や無理解などで心もからだもぼろぼろになり、不妊治療が原因で離婚に至るケースも。
不妊治療の2つの壁
妊娠、出産は年齢に制限があり、不妊治療においては特に大きく影響します。子どもが欲しい場合、パートナーとの共通の認識を持ち、女性の心身に大きな負担をかける不妊治療の2つの壁について、よく考えて不妊治療を検討することが大切です。不妊治療の2つの壁とは
- 年齢
- 時間と費用
です。
不妊治療は女性に多くの負担がかかる
子どもができない、と悩んでいる方が増えています。ライフスタイルの変化により、女性の結婚、出産年齢が上がっていることも背景にあります。
不妊は原因がなんであれ、治療に関わる女性側の心身の負担は大きいもの。原因が男性側にあったとしても、「妊娠」するための治療は女性が受けることになります。
からだへの負担は、実際に受けたことが無い身では想像するしかありませんが、かなり過酷な治療です。さらに周囲からの期待やプレッシャーも加わる。
時間や費用等にも大きな壁があり、子どもがほしい場合は男性も一緒に治療について、共通の認識を持つことが重要です。
男性が非協力的であったり、周囲が女性にプレッシャーをかけたりで、離婚にいたる夫婦が少なからずいるのも現実です。
不妊治療は、技術の進歩で以前は妊娠が難しかったケースでも、妊娠や出産が望めるようになってきました。
体外受精で生まれる子どもも増えています。一方晩婚化などで不妊に悩む女性も増えています。
女性の年齢
画像出典: 日本生殖医学会
妊娠・出生率は加齢とともに低下します。日本における体外受精や顕微授精(高度な不妊治療)での妊娠率・出生率は37~38歳位でどちらも大きく低下しています。
出生率が妊娠率より低いのは、流産などがあるためです。自然妊娠の場合も30才代後半を過ぎると
- 卵子の数が減る
- 卵子の質が低下する
ために妊娠しにくくなります。45歳以上ではさらに低くなります。
卵子の数、質の問題
加齢により卵子の数が減ったり、質が低下すると、
- 排卵が起こりにくくなる
- 受精しない
- 分裂をほとんどせず成長が止まってしまう
ことが多くなるので妊娠が難しくなります。
妊娠の過程は、卵巣から排出された卵子(排卵)が精子と結びつき、受精卵となって(受精)分裂を繰り返して成長していきます。
高齢による病気
高齢での妊娠・出産率が低下する要因には、加齢で不妊の原因となる、婦人科の病気を発症しやすくなることもあります。代表的な病気は
- 子宮筋腫:支給の筋肉に良性の腫瘍ができる
- 子宮内膜症:子宮内膜が子宮内膜以外の場所で増殖・剥離を繰り返す
があり、妊娠した後も
- 妊娠糖尿病
- 妊娠高血圧症候群
などの合併症を起こすリスクが高まり、早産を招いたり、母体に影響が及ぶこともあります。
時間と費用の壁
不妊症を疑ってから、検査をし実際に治療を開始するまでにかなりの時間を要します。また、人口受精や顕微授精などの高度な不妊治療を行う場合は、こちらにも時間がかかります。検査や治療によるからだや心への負担も覚悟が必要かと。
不妊治療にかかる費用についても、十分検討しておく必要があります。
体外受精、顕微授精は「特定不妊治療費助成制度」がありますが、自己負担額は治療が長引けば長引くほど膨らんでいきます。
妊娠が難しい場合、治療の中止も検討することも大事。
女性の検査
月経周期に合わせて検査が行われます。そのために毎日基礎体温を図り、月経周期を把握してタイミングを合わせ検査を受けることが必要です。検査内容は
- 内診・経膣超音波検査(排卵期に卵胞の大きさや子宮内膜の厚みを調べる)
- 子宮卵管造影検査(卵胞期に子宮の形や卵管の状態を調べる)
- ホルモン検査(月経期にホルモンの値を調べる)
- 性交後試験(Huhnerテスト、又はPCT)
が行われます。
これらの検査は通常、数ヶ月かからないと終わりません。
女性の不妊治療
検査の結果、特に異常や病気が見つからないことも少なくありません。この場合、年齢や時間に余裕があるなら、排卵期に合わせて行為を行うタイミング療法を試します。
異常や病気が見つかった場合は、それらの治療を行ないます。
ホルモンや排卵に異常がある場合
ホルモン分泌に異常がある場合は、ホルモンのバランスを調整する薬を使い、妊娠しやすい状態を作ります。
排卵に異常がある場合は、排卵を誘発する薬を使い治療を行ないます。
病気が見つかった場合
病気に対する治療が必要になります。
例えば子宮筋腫があって、できている場所や数が妊娠を難しくしている場合、子宮筋腫の摘出手術が検討されますが、治療をしても必ず妊娠するわけではありません。
手術を決断するまで時間がかかったり、手術のための検査にも数日必要です。さらに手術後は子宮内膜が回復するまで半年ほど避妊が必要となります。
治療を初めてから妊娠が可能になるまでに、1年近くかかる場合も少なくありません。
【子宮内膜症】
- 腹腔鏡下子宮内膜症病巣除去術、タイミング法、人工授精、タイタイ受精
- 体外受精(年令によってはすぐ行う)
【卵管狭窄・閉塞】
- 卵管癒着剥離術や卵管形成術を行ない卵管を開通させる
- 体外受精
高度な不妊治療
【体外受精・顕微授精の概要】
①卵巣に針を刺し、卵を採取
②体外で精子と受精させる(上段:顕微授精、下段:通常の体外受精)。
③受精を確認し、卵の分割を待つ
④子宮内に受精卵を戻す
画像出典:日本産科婦人科学会 不妊とは
できるだけ早く妊娠・出産を望む場合は、
- 人工授精
- 体外受精
- 顕微授精
などの高度な不妊治療を検討します。
人工授精
男性の精子や性機能に問題がある場合にも行われます。
予測した排卵日に合わせ手精液を採取し、精子を子宮内に人工的に注入する方法です。人工授精を数回行っても妊娠が起きない場合は、体外受精や顕微授精を検討します。
体外受精
卵子と精子とそれぞれ取り出し、シャーレと言う陽気の中で自然受精させます。受精卵が「胚」になった段階で子宮に移植する方法です。
- 卵管の動きが悪い
- 卵管が詰まっている
- 男性の精子が極めて少ない
場合に行われます
顕微授精
精液の中から精子を一つ選び、取り出した卵子の中に、顕微鏡を見ながら注入して受精卵を作り、胚に育った段階で子宮に移植する方法です。
体外受精でも妊娠しない場合や男性の静止画極めて少ない場合に行われます。
費用は自己負担
高度な不妊治療は、健康保険が適用されません。自己負担なので治療が長引けば長引くほど費用負担もかさみます。
助成制度の利用もできるので、各自治体に問い合わせてみましょう。
参考:不妊に悩む方への特定治療支援事業について
◆要旨
不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、高額な医療費がかかる、配偶者間の不妊治療に要する費用の一部を助成
◆対象治療法
体外受精及び顕微授精(以下「特定不妊治療」という。)
◆対象者
特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された法律上の婚姻をしている夫婦
◆給付の内容
1回15万円(凍結胚移植(採卵を伴わないもの)及び採卵したが卵が得られない等のため中止したものついては、1回7.5万円)、
1年度目は年3回まで、2年度目以降年2回まで、通算5年、通算10回を超えない
◆所得制限
730万円(夫婦合算の所得ベース)
◆指定医療機関
事業実施主体において医療機関を指定
◆実施主体
都道府県、指定都市、中核市
(全都道府県・指定都市・中核市において既に開始済み)
◆補助率
1/2(負担割合:国1/2、都道府県・指定都市・中核市1/2)
出典:厚生労働省 不妊治療をめぐる現状pdf 7p
まとめ~不妊治療はパートナーの覚悟も必要
時間も費用もかかり、からだと心の負担も大きい。不妊治療には覚悟が必要と言っても良いでしょう。
しかし、何よりも必要なのはパートナーとの共通の認識と、一緒に治療を続けることです。特に女性の負担が大きいので、からだや心をいたわる気持ちも忘れないで下さい。
不妊治療で関係が悪化し、離婚に至っては本末転倒です。治療をしても必ず妊娠できるとは限りません。治療を辞める判断も大切です。
各都道府県などが設置している不妊専門相談センターや医療機関が開催している不妊学級などに相談、参加することもおすすめします。
全国の不妊相談センター一覧 厚生労働省
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