口腔ケアは虫歯や歯周病の予防だけでなく、全身の病気の予防にも役立つことが明らかになりつつあります。健康な人の口腔ケアも大切です。今回は口腔ケアの効果と、介護が必要な人の口腔ケアについてお伝えします。
口腔ケアの必要性
口腔ケアとは口の中(口腔内)を清潔に保つことです。口腔内には虫歯や歯周病の原因となる細菌の塊「歯垢(プラーク)」、口臭の元になる下の表面についた白っぽい汚れ「舌苔」など、様々な細菌が存在し、健康に深く関わっています。
特に自分で歯磨きや入れ歯の手入れができない要介護者は、細菌が増えやすくなります。歯垢や舌苔がたまると味覚が衰え食事への興味が薄れたり、口臭があると人と話をすることに消極的になりがちです。
口腔ケアで細菌を減らせば虫歯や歯周病、その他の病気も予防することが可能です。口臭を予防すれば介護する人もされる人も快適に過ごせます。
要介護高齢者の健康を維持していくための手段として「口腔ケア」が注目を集めています。「口腔ケア」が単なる口の中のケアだけではなく、発熱や肺炎の予防といった全身の健康維持にも関連することが最近の研究でわかってきたからです。
要介護高齢者の口腔ケア 8020推進財団 /www.8020zaidan.or.jp/care/care_01.html
要介護者に対する口腔ケアの効果
口腔ケアの効果の一つに、「味がよく分かるようになり、食欲が出る」ことがあります。食べられるようになると栄養が取れるようになって、体が元気になり、生活の質(QOL)が高まることが期待できます。その他にも、以下のような効果が期待できます。
- 食べる楽しみ(QOLの向上)
- 窒息・誤嚥予防、低栄養の予防
- 全身疾患の予防
- 社会的経済的効果
口腔機能の向上から派生する効果
口腔ケアを行うことにより味がよく分かるようになると、食欲が出て食べられるようになります。咀嚼機能や嚥下機能も向上し、栄養状態も良くなるので元気が出てきます。
口腔細菌が減れば、う蝕や歯周病などの病気を予防でき、さらに口腔細菌が関係する全身の病気も予防することが可能です。
また、日常的な動作が少しでも自分でできるようになることで、要介護者の生活の質が向上し、生きる喜びも生まれてくることでしょう。
認知機能やADL(日常生活を送るために必要な基本動作)の向上も報告されています。
口腔ケアの効果まとめ
咀嚼(そしゃく)、嚥下機能の高まり
口腔ケアをするには、口の中を清潔にするために口を大きくあけたり、歯ブラシなどで口の中が刺激されます。
口を動かしたり口に刺激を受けると、咀嚼や嚥下の機能は高まります。
脳の機能が活性化
噛むことにより歯根膜が刺激され、三叉神経を通じて脳の機能が活性化されます
生活の質の向上
脳の活性化は認知機能が維持されることも考えられ、運動機能も刺激されるのでADLが維持・向上され、生活の質の向上につながります
介護者の心身負担軽減 要介護者の体調が良くなれば、介護する側の心身の負担も軽減されます
経済的な負担、医療費の抑制
口腔ケアにより誤嚥性肺炎などを予防できると、入院治療費などの経済的な負担が生まれず、また社会的な医療費の抑制にもつながります
口腔ケアシステム
以下に紹介する口腔ケアは一日1回、5分で誰にでも出来るシステムです。ただし、うがいのできない人に対しては行っては行けません。窒息や誤嚥につながることがあり、危険です。
事故を防ぐために、必ずかかりつけの医師に相談してから行ってください。居住地の歯科医師会に問い合わせると、訪問治療や在宅での口腔ケアを行っている歯科医師を紹介してもらうこともできます。
車椅子などで歯科を受信できるようなら、3ヵ月~半年に一度、歯科で歯のクリーニングをしてもらっても良いでしょう。
口腔ケアの仕方
準備するもの(例)
- U字型のたらい(うがい用)
- 口腔ケア用棒付きスポンジ
- 軟毛歯ブラシ
- 電動歯ブラシ(ブラシが丸いものが使いやすいようです)
- 紙コップ
- 霧吹きスプレー
- その他必要に応じでうがい薬
ドラッグストアや、介護用品店などで購入できます。
手順
1.棒付きスポンジで口腔粘膜をキレイにする
- スポンジを水、または薄めたうがい薬に浸して口の粘膜(頬や口唇の内側、上顎、歯茎)をなでて、食べかすやプラークを取り除く
- スポンジを粘膜上で回転させながら行うと効果的
注意点
- 優しく行う 要介護者の口腔粘膜は乾燥や薄くなっていたりするので傷つきやすい
- 乾燥している場合 水や薄めたうがい薬を入れた霧吹きスプレーで湿らせてから行う
- 口が開けにくい場合 口角鉤(口を開けた状態を保つ道具)を使用する方法もある
*口角鉤は歯科を通して手に入れられます
2.軟毛歯ブラシで舌をきれいにする
- 軟毛歯ブラシを水に浸し、舌の奥の方から前に向かって優しく引く感じで舌苔を取る
- 歯ブラシについた汚れは水洗いして落とし、数回行う
注意点
- 強くこすらない
- 軟毛歯ブラシは、市販されている歯ブラシの中で最も柔らかいもの
電動歯ブラシで歯をきれいにする 電動歯ブラシのブラシ部分に水または薄めたうがい薬をつける。歯磨き剤は使用しない 口の中に入れてからスイッチを入れ、歯に直接当てて1箇所あたり2~3秒で次の歯に動かす
ポイント: 磨き残しが無いように、順番を決めておくと良い
入れ歯の場合
- ケアを始める前に外し、総入れ歯は専用歯ブラシで、部分入れ歯は普通の歯ブラシで流水で洗う
- 入れ歯を外した後の粘膜や歯茎は、軟毛歯ブラシで優しくこすり、汚れを取り除く。部分入れ歯の場合は残った歯と歯の間が会いていたり、歯がぐらついている場合も多いので、歯科で磨き方の指導を受けると良い。
3.うがいをする
- 水または薄めたうがい薬を口に含ませ、口腔内に剥がれ落ちた汚れを排出するために、約1分(10回程度)うがいを行う
★口腔ケアで痛かったり出血があったりしたら歯科を受診しましょう。
うがい薬は肺炎を起こしやすい人、免疫を抑える薬やステロイド薬を飲んでいる人、糖尿病のある人などに勧められます。うがい薬を使ったほうが良いかどうかは、医師に判断してもらいます。
★口腔ケアを行うときの要介護者の姿勢
基本は座位です。麻痺がある場合は横向きで。
- 座ることができる人
誤嚥しないように状態を起こす。座っているのが困難な場合は、背中に支えを置く。 - 座れない人
麻痺がある場合は、麻痺のある側を上にして横になる。
歯周病や全身の病気の予防
口の中の細菌(口腔細菌)が関連する主な病気には
- 誤嚥性肺炎
- 感染性心疾患
- 敗血症
があり、また歯周病菌と
- 虚血性心疾患
- 虚血性脳血管疾患
- 糖尿病
- 妊娠異常
- バージャー病
などとの間にも関連があることが少しずつ明らかになってきました。
口腔ケアはこのような全身の病気を予防するためにも重要です。
※妊娠異常: 早産、低体重児出産など。
※バージャー病: 手足の動脈が詰まり、ひどくなると切断が必要になる場合もある。
口腔細菌が関わる全身の病気
誤嚥性肺炎
食べ物や飲み物、唾液などが誤って器官に入る誤嚥で、口腔細菌が肺に入って起こる
感染性心内膜炎
口腔細菌が心臓の内側を覆う膜に感染して起こる
敗血症
口腔細菌が血液に感染して起こる
虚血性心疾患、虚血性脳血管疾患、糖尿病などと歯周病菌の関係も明らかになりつつあります。
まとめ
それぞれの病気には生活習慣などの原因があります。その改善を行いながら治療を受けることが大切です。口腔ケアは様々な病気の予防や進行を防ぐことに役立ちます。
口腔ケアは介護が必要な人に対してだけでなく、自身も自分の健康のためにきちんと口腔ケアを行いましょう。
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