改善しない看護師不足に2025年問題も見据え、看護師の定着を計るために、労働環境や待遇の改善などが進んできています。しかし、過重労働などで、うつやバーンアウトで退職する看護師も多い。看護師辞めたいの背景にあるもの、職場のメンタルヘルスに関して、管理職が果たす役割について考えます。
看護師の仕事は感情労働
感情労働*とは感情が大きく影響する仕事で、従事するものは自分の感情を管理する必要があります。
医療、福祉、保育、教育はもちろん、スーパーやコンビニのレジ係、ホールスタッフなど、対人労働サービスには、すべて程度の差はありますが、感情労働が含まれています。
極端な言い方をすると、自分の本音の感情をコントロールし、顧客(患者)に満足を与える仕事でお給料をもらっているとも言えます。
そのため過剰なストレスから、バーンアウトしたり、体調を崩すことも少なくありません。
辞めたいに対処するためには、職場のメンタルヘルスの取り組みも重要ですが、現場をまとめる師長などの管理者が、問題の背景を理解し、対処することが求められます。
頑張り過ぎると…うつやバーンアウトに
患者さんに満足してもらうことは、達成感や喜びがありますが、同時にある意味「偽りの自分」を演じ続けていきます。そのため、脳が多かれ少なかれ疲労し、心身のパワーを消耗させていきます。
感情労働による脳の疲労や消耗を、回復させないで頑張ってしまうと、バーンアウトしたり、うつ病になったり、各種の依存症になってしまう可能性も少なくありません。
看護師は退職する
入職1年目で辞めたいと考える/実際にやめてしまう看護師が多いのは、看護師の仕事の特性によるものが大きいです。
ある大学病院では、毎年200人もの新人看護師を採用しているそうです。それだけ退職者もいるということ。
産業界では、うつやバーンアウト、最悪自殺してしまうケースもありますが、看護師の場合、多くは過労死や自殺などに追い込まれる前に、退職していきます。
長期休養をするよりも、看護師の資格を活かし、まずは退職して休養し、病気の回復後に他の医療機関に転職する看護師が多いのです。
度々登場するAさんも、うつ状態になってしまいましたが、上司の応援を得て病気療養後に転職し、生涯の伴侶も得て現役で活躍されています。
(転職から結婚までの事情は看護師を辞めたい時に転職を考えたら~看護師が転職で成功するコツでお伝えしています)
退職する前に~職場のメンタルヘルス
職場のメンタルヘルスを機能させ、うつやバーンアウトする前の段階で防ぐことは可能です。
そのためには、過重労働の改善や教育体制の確立なども重要ですが、職場の人間関係がうまく行くよう、管理者が果たす役割も大きい。
例えば、新人看護師(プリセプティ)の指導は、プリセプター(3~4年目の先輩看護師)が行いますが、プレセプター自身が指導に対して未熟な場合もあります。できることと教えられることにはギャップがあるのです。
その際、先輩看護師や師長などもチームとして見守ることで、新人の離職を防ぐ力が得られます。
プリセプターとベテラン看護師の能力には、差があるのは当然のこと。新人教育に置いては、それぞれの立場で看護師の思いがあり、時にはそれが摩擦として表面化する場合もあります。
管理職はそれぞれの看護師の思いも汲み取り、組織としてストレスなく力を出せる環境をつくるキーマンです。
具体的なメンタルヘルスについては、また別の機会にして、以下では看護師という仕事が持つ特性による、ストレスやプレッシャーなどについて、いくつかお伝えしておきます。
看護師の3重のプレッシャー
看護師には医療事故が起きないよう、常に自分の知識や技術を高めなければいけない、というプレッシャーがつきまとっています。さらに
- マスコミ等社会からの圧力
- 師長や同僚などの周囲の目
もあり、三重のプレッシャーを常に受けています。
新人看護師は技術、経験不足で、何をどこから手を付ければよいかわからなくて当たり前です。そこに過度のプレッシャーがかかると、辞めたいとなる。
経営側は、新人が定着してくれないと、毎年新人教育に時間や費用がかかったり、病院機能への影響も大きいので、プリセプターや師長などが新人の定着に尽力することを求めます。
新人には新人の、中堅や管理職にはそれなりのプレッシャーが常にかかっているのです。
責任の重さの重圧
「2009年看護職員実態調査」年齢別・職場における悩みや不満の上位3項目 p10
(45歳以上は割愛)
看護師という仕事の特性によるストレスのうち、「生命に関わる仕事という責任の重さ」を上げる看護師も多い。
医療は知識・技術の向上が常に求められます。その上、人間はいつかは死ななければならない存在です。看護も含めあらゆる医療行為は、からだにダメージを加える可能性が無限にあります。
辞めたい理由~医療事故への不安
看護師が仕事を辞めたいと思った理由の第2位(日本看護師協会2009年発表資料より)は「医療事故を起こさないか不安」でした。これは当然のことですが、医療事故があると
「考えられないミス」
「あってはならないミス」
などと報道されます。「2009年看護職員実態調査」結果速報 職場における悩み、不満pdf p9
日本看護師協会 プレスリリース 2010年3月10日
慢性疲労が事故の不安を増大させる
医療事故の不安を増しているのが、看護師の慢性疲労です。慢性疲労の自覚症状の項目が当てはまる数が多いほど、医療事故への不安が大きくなっているのがわかります。
特に新人から臨床経験3年目くらいまでは、技術も身についていないことが多く、医療ミスの不安に加えて、「自分は役に立っていないのでは…」という不安と孤独感に襲われます。
プリセプターや先輩看護師のちょっとした行動に、一喜一憂したり、落ち込んで辞めたいと考えるようになりがち。
中には陰湿なイジメに合うケースも、残念ながら見かけられます。ナースステーションで、他の看護師や医療職がいる前で大きな声で叱ったり、きちんと指導せずに、できないことを非難したり。
このようなことが有れば、新人に限らず、辞めたくなるのは当然です。
水があふれだす前に対処が重要
なんとかバランスを保っていたストレスや感情がバランスを崩し、バーンアウトやうつに繋がる状況。
良く言われるのが、ほんのひとしずくで一気にあふれだす、グラスになみなみと注がれた水の例え。
多くの看護師が、過重労働や人間関係などに悩み、そのギリギリの線で仕事をしているとも言えます。
バランスを崩すきっかけとなるのは、重大なことばかりではありません。先輩や上司から言われた些細なことで、水が溢れだしてしまうこともある。
感情のバランスを取るのは、非常に難しいのです。ギリギリまで感情をため込んでしまう前に対処することが必要です。
バランスを保つのは管理職次第
職場のカラーは、現場で働く医療職の意識や性格なども影響しますが、それをまとめる管理職の影響が最も大きいものです。
優れた管理職がいる現場では、辞めたいと真剣に悩む看護師はほとんどいません。むしろ「このチームの一員で良かった!」とやりがいや誇りを持っています。
チーム医療がスムースに機能する病院は、看護師は真にやむを得ない状況でなければ辞めないし、求人をすれば応募は殺到、採用に困ることはありません。
仕事上の悩みはもちろん、人間関係の悩みや個人的な悩みまで、中には医師などによるセクハラに悩むこともあり、相談できる管理職の存在はメンタルヘルスの面でも非常に大きな影響があるのです。
現場から見た新人看護師の離職理由
新人看護師の離職率は非常に高いものが有ります。古いのですが、厚生労働省の2004年の調査資料によると、大学や短大、看護学校、病院の看護部が調査した「新卒看護職員の職場離職の理由」は、一位と二位にいずれの機関も
- 基礎教育終了時点の能力と現場で求める能力とのギャップが大きい
- 現代の若者の精神的な未熟さや弱さ
をあげていました。
参考資料:「2004年 新卒看護職員の早期離職等実態調査」(日本看護協会)
新人看護師から見ると、理想と現実が違いすぎる、ということもありますが、過重労働で心身の不調を起こすことも少なくありません。
感情労働
感情労働(かんじょうろうどう、英: Emotional Labour)は、肉体や頭脳だけでなく「感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要」である労働を意味する。
従来、肉体労働、頭脳労働という単純な二項分類において、感情労働は頭脳労働の一種としてカテゴライズされてきた。しかし一般的な頭脳労働に比べ、人間の感情に労働の負荷が大きく作用し、労働が終了した後も達成感や充足感などが得られず、ほぼ連日、精神的な負担、重圧、ストレスを負わなければならないという点に感情労働の特徴がある。
感情労働に従事する者は、たとえ相手の一方的な誤解や失念、無知、無礼、怒りや気分、腹いせや悪意、嫌がらせによる理不尽かつ非常識、非礼な要求、主張であっても、自分の感情を押し殺し、決して表には出さず、常に礼儀正しく明朗快活にふるまい、相手の言い分をじっくり聴き、的確な対応、処理、サービスを提供し、相手に対策を助言しなければならない。
つまり相手に尊厳の無償の明け渡しを半ば強制される健全とは言いがたい精神的な主従関係や軽度の隷属関係の強要である。年功序列や接客業など、こちらの生活や人生が相手の判断で左右される職種において発生しやすい。現代日本の労働環境において解決すべき課題の一つだと言える
出典: 感情労働 - Wikipedia
まとめ~管理職の果たす役割
看護師辞めたいの理由で、医療事故への不安は大きい。新人がその重厚に負けないためには、同僚や先輩の存在も大きいです。
感情労働である看護師の仕事では、過重労働からうつやバーンアウトを起こし、離職や転職。病気療養後に再度看護師として働く看護師も少なくありません。
看護師の定着を計るためには、労働環境や待遇なども重要ですが、職場のメンタルヘルスも必要です。
個々の看護師のメンタル面をサポートし、組織としてストレスなくスムースに動ける環境を作り出すために、管理職の果たす役割は大きく、責任は重大です。
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