顔面神経麻痺の原因の多くは、すでに多くの人の体内に潜んでいるウイルスです。身近なのに、意外と知られていない顔面神経麻痺について、主な原因であるベル麻痺とハント症候群の症状、原因、治療についてお伝えします。
顔面神経麻痺の症状や対処は?
歯磨きで口をすすいだら、口の端から水がもれた…右目が閉じられない…
鏡に映った自分のの歪みにビックリ!ひとごとだと思っていた、顔面神経麻痺の可能性が高いです。
顔面神経麻痺は早期に治療すれば数週間で改善されますし、治療中はテープの使用で、顔の歪みを目立たなくすることも可能です。
炎症が広がる前に医療機関を受診して、治療を受けることをおすすめします。
身近な病気ですが、意外と知られていない顔面神経麻痺について、症状や対処をお伝えします。
顔面神経麻痺とは
顔の運動神経をつかさどる「顔面神経」が何らかの原因で障害され顔の筋肉が正常に動かなくなります。顔の歪みが起こります。主な原因は「ベル麻痺」と「ハント症候群」ですが、混同されやすいのが次の2つ。
顔面神経痛
感覚機能をつかさどる三叉神経が関係するもので、顔面神経自体は痛みを感じることはありません。
顔面麻痺
顔面神経の異常興奮によるもので、主に顔面神経を血管が圧迫して起こる症状です。
ただし、顔面神経麻痺に、顔面の痛みや麻痺を伴う場合があります。
治療
薬物療法が基本です。
- ステロイド(神経の炎症や腫れを抑える)
- 抗ウイルス薬(ウイルスの活動を抑える)
が中心でほかに
- ビタミンB12 、循環改善薬(麻痺を改善するため)
などが使われることが有ります。
一般にハント症候群の方が症状が重いので、薬をより多量に使います。
ほとんどの場合は、通院で治療が可能です。
- 糖尿病がある
- 血圧が高い
- 胃潰瘍がある
などの持病がある場合にステロイド薬を使うと、これらの持病を悪化させる恐れがあるので、入院が進められます。高度の難聴か、強いめまいがある時にも入院して治療を行います
早期治療で改善
ベル麻痺もハント症候群も早期に薬による治療を徹底して行えば、数週間で治療に専念すれば、数週間で改善される可能性があります。
炎症が治まるまでには時間がかかるため、数日間は症状が悪化するかもしれませんが、治療を続けていくうちに改善されていきます。
ステロイド薬も抗ウイルス薬も、炎症が広がってからでは十分な効果は期待できないので、炎症が広がる5日から1週間までに薬物療法で治療を開始することが重要です。
顔面神経が通過する骨を削り、神経への圧迫を解除する手術をすることもあります。
発症から約1か月で、40点法の評価が36点以上、後遺症がない、の2つを満たせば感知と診断されます。
後遺症
発症後、半年以上感知しない場合、後遺症に注意が必要です。主な後遺症は
- 病的共同運動
- 拘縮
- ワニの涙
- アブミ骨筋性耳鳴り
です。
病的共同運動
もっとも起こる頻度が高く、特に悩ましい後遺症です。
- 口を動かすたびに目が閉じる
- 目をつぶろうと思ったら、口が開いてしまう
などがよくみられる症状です。
麻痺が回復する過程で、障害された神経が新たに伸びるときに、神経同士が混線を起こすために起きます。
根本的に解消させる方法はなく、現在は症状を目立たなくするリハビリテーションが行われています。
拘縮(こうしゅく)
顔面の筋肉がこわばったり引き連れたりして、安静時も顔が左右非対称に見えたり、唇の動きが悪くなったりします。
ワニの涙
食事をしていると、涙が出る現象です。
アブミ骨筋性耳鳴り
顔面の表情金の動きに伴い、耳鳴りが生じます。
後遺症の治療
発症後1年たっても後遺症が改善されない場合、次のような治療が行われることが有ります。
- ボツリヌス毒素の皮下注射
- 手術
- リハビリ
ボツリヌス毒素の皮下注射
ボツリヌス毒素を精製した薬を注射して、人工的に筋肉の動きを弱めます。拘縮、病的共同運動などが対象になります。
ボツリヌス毒素は半年ほどで効果が弱くなるので、注射を繰り返すことが必要です。
手術
最近では形成外科の技術が進歩し、治療効果が高まっているので麻痺があっても、表情がほぼ自然に見えるように手術します。
高齢の患者さんでは顔の筋肉が弛緩してしまい、上まぶたが垂れ下がって目が開きに憂くなった場合に、顔の皮膚の下にテープ状のものを埋め込み、瞼を上方に引っ張る手術を行うこともあります。
リハビリテーション
後遺症の予防や、後遺症を目立たなくするために行います。開始時期と方法が大切なので、必ず医師の指導を受けて行います。
顔面神経麻痺がお気が初期は、表情筋のストレッシングなどを中心に行い、激しいリハビリテーションは行いません。
初期に顔面を激しく動かすと、逆に病的共同運動などの後遺症が起きる恐れがあるからです。
後遺症を目立たなくするリハビリテーションでは、例えば、「口を動かすと、目が閉じてしまう」という病的共同運動の場合、鏡を見ながら徐々に口をすぼめていき、目が閉じそうになったら、口はそのままにして、目を見開く訓練を行います。
顔面神経麻痺の原因は2つ
顔面神経麻痺を発症する原因は、大きく分けて
- 末梢の障害
- 中枢の障害
の2つがあります。
末梢の障害
ベル麻痺、ハント症候群、外傷性、腫瘍性、中耳炎性、ギランバレー症候群*などがあります。
中枢の障害
脳出血、脳梗塞などの脳血管障害などがあります。
中でも末梢の神経が障害されて発症するケースが多く、その大半がベル麻痺、ハント症候群です。
正確なデータはありませんが、顔面神経麻痺の患者さんのうち、ベル麻痺は60%~70%、ハント症候群は10%~15%程度いると考えられています。
*ギランバレー症候群:免疫の働きの以上で筋肉を動かす運動神経に障害がおきて、手や脚などに力が入らなくなる病気。
ベル麻痺
以前に感染した「単純ヘルペスI型ウイルス」*が再活性化して起こると考えられています。
このウイルスは、口内炎や唇にできる水泡などの原因となるもので、病気が治っても体の中に潜んでいます。
原因がわからないものもあり、現在のところ原因がはっきりしない顔面神経麻痺をベル麻痺と呼んでいます。
*単純ヘルペスウィルス:I型とII型があり、顔面神経麻痺はI型で起こります。殆どの人は幼児期に感染しています。
ハント症候群
ベル麻痺と同じように、以前に感染した末梢帯状疱疹ウイルスという水泡(水ぼうそう)を起こすウイルスの再活性化によりおこります。顔面神経麻痺に、
- 耳の発疹
- 難聴
- めまい
などを伴う一連の疾患を指して、ハント症候群と呼びます。一般にベル麻痺より重症化し、治りにくい傾向があります。
症状
通常、顔の片側、まれに両側に麻痺がおこり、
- 目を閉じにくい*
- 口から食べ物をこぼす
- 麻痺していない側に引っ張られて顔全体がゆがむ
などの症状が現れます。顔面神経は舌の味覚を伝える部分にもとおっているので、味覚障害を起こす場合もあります。
症状が目の実、口の実に現れることは珍しく、「目が閉じにくくなり口がゆがむ」など、目元と口元に同時に現れるケースがほとんどです。
顔面神経麻痺がおこる前触れとして
- 顔がぴくぴく痙攣する
- 味覚がおかしい
- 耳の後ろが重く感じる
などがおこる場合もあります。そのような異常に気付いたら、注意深く様子を見て、顔面神経麻痺が疑われたら、耳鼻咽喉科か神経内科を受診しましょう。
*麻痺で目が閉じないと角膜や結膜に炎症を起こして、資料が低下することもあります。眼帯や目薬の使用が勧められます。
検査と治療
日本では主に「40点法(柳原法)」が用いられています。
顔面神経麻痺の原因となる病気を特定するために、必要に応じて麻痺の程度を知るために様々な検査を行います。主なものには
- 麻痺の評価
- 血液検査(ウイルス感染の有無を調べる)
- 聴力検査・平行機能検査(めまいや難聴の有無を調べる)
- アブミ骨筋反射(大きな音を聞いた時の鼓膜の筋肉の働きを調べる)
などがあります。
特に重要なのが、麻痺の程度を評価する方法です。
40点法(柳原法)
- 顔の左右に対称性があるか
- ウインクができるか
などの10項目を3段階で評価し、40点満点のうち8点以下の場合は完全麻痺とされます。
冤罪の麻痺の程度を知ることと、予後の予測をする目的もあり、治るまでのおよその期間を知ることができます。
顔面神経麻痺の主な検査項目
- 麻痺の評価: 40点法(柳原法)
- 血液検査: ウイルス抗体の有無を調べる
- 電気生理学的検査
- エレクトロニューログラフィー:炎症が起きた神経の割合を推測。改善時期の判定に有用
- 神経興奮性検査: 表情筋の収縮がおこる最小の電圧レベルを判定。左右差を見て予後の判定に有用
- アブミ骨筋反射: 予後が良好かどうかの判定に有用
- 瞬目反射: 麻痺の回復程度、病的共同運動の有無の判定に有用
- CT、MRI検査: 脳血管障害や腫瘍の有無を調べる
- 聴力検査: 難聴の有無を調べる
- 平衡機能検査: めまいの有無
40点法のスコア
- 安静時対称性
- 額のしわ寄せ
- 軽い閉眼
- 強閉眼
- 片目つぶり
- 鼻翼を動かす
- 頬をふくらます
- 口笛
- イーと歯を見せる
- 口をへの字に曲げる
それぞれの動きを0(高度麻痺)、2(部分麻痺)、4(ほぼ正常)で点数化し、40点満点の内何点になるかで麻痺の程度を評価する。
まとめ~痛みのない顔の歪み、きちんと受診を
ある日突然顔が歪んでいたら…誰もに起こりうる顔面神経麻痺は、炎症が広がる前に適切な治療を行うことで、改善できます。
治療中の顔の歪みを目立たなくするテープなどもあります。
痛みは無いため、つい放って起きがちですが、顔の筋肉が正常に動いていない、などの症状を感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
後遺症に悩まされる可能性もありますが、リハビリで後遺症の予防や目立たなくすることも可能です。リハビリの開始時期は意志の指導を受け、行ないます。
Top画像出典:劇団四季オペラ座の怪人
「Anのひとりごと」~今日も1ページ