アルコール依存症は本人の健康を害するだけでなく、家庭の崩壊や社会的損失など、深刻な影響を引き起こします。知っておきたいアルコール依存症の特徴と影響についてお伝えします。アルコール依存症の疑いがあるかどうかも、チェックしてみてください。
アルコール依存症の特徴と影響
アルコール依存症は、飲酒をコントロールできなくなる病気です。家族にアルコール依存症の患者さんがいると、家族への影響は深刻になりかねません。
暴力をふるったり、仕事をしなくなり収入が途絶えたりと、家庭崩壊にもつながりかねません。社会的問題を起こすこともあり、家族が夜逃げ同然に引っ越すことも起きたりします。
健康面でも、深刻な影響があります。WHO(世界保健機構)はアルコールは60以上の病気やけがの原因になると報告しています。特にアルコールを分解する肝臓は、肝機能障害が起こりやすい。
※アルコール依存症の疑いがあるかどうか、判断の目安となるスクリーニングテストは、最後に掲載しました。
深刻になりやすいアルコール依存症の影響
健康面での影響は、肝機能障害、脂肪肝に始まり、肝臓が悪くなる肝硬変がおこり、高血圧や膵炎(すいえん)も起こりやすくなります。
膵炎が長引くと慢性膵炎や糖尿病を引き起こすことも多い。食道がんをはじめとするがんや、不整脈心不全などの心臓病も多くみられます。
さらにアルコールが脳の神経細胞などを壊すので脳が委縮し、記憶障害をはじめとする脳の機能障害が起こる場合があります。
アルコールの体への影響
- 脳の萎縮、機能障害など
- 肝機能以上(脂肪肝、肝硬変)
- 高血圧
- 膵炎
- 糖尿病
- 食道などのがん
- 不整脈、心不全などの心臓病
など
本人、家族、社会への影響
このようにアルコール依存症は、本人の健康に重大な影響を与えますが、それだけにとどまらず、家族や周りの人、さらには社会にまで広く影響を及ぼします。
暴言、暴力が起こるようになると家庭内暴力や虐待に、そのほか、事件、事故、飲酒運転などなど、アルコールが原因の問題は数えきれません。
飲酒運転で検挙された人の約6割がアルコール依存症の疑いがある、と言う統計*もあります。
飲酒運転とアルコール依存症は密接にかかわっています。また、自分の置かれた状況や、健康の問題を苦にした自殺がよくみられます。
社会的損失
社会の経済的な損失にもつながっていることは、あまり考えたことがないかもしれません。
体調不良や病気になれば、医療費がかかるうえに労働力を失う、生産性の低下、さらに事故や事件による損失もあるのです。
そのような社会的損失の費用は2008年のデータ*では、年間約4兆1483億円と推計されています。
こんな症状が有ったら…
本人、家族、社会に深刻な問題を引き起こす恐れのあるアルコール依存症。
兆候に早く気付き、本人、家族などが協力して対処することが重要となります。アルコール依存症の主要な症状は
- 飲む時間
- 飲む状況
- 飲む量
の3つをコントロールできなくなることがあげられます。長時間飲み続ける、仕事中でも飲んでしまう、大量に飲む、と言った飲み方をするようになったら要注意です。
これらが続くと絶え間なく飲み続ける連続飲酒や、飲酒をやめると離脱症状と言う不快な症状が起こるようになります。
この2つの症状は、多くのアルコール依存症の患者さんに診られる症状です。
連続飲酒の兆候
- 朝から迎え酒
- 大事な用事の前に飲む
- 飲んでは寝るを繰り返す
- 酒を小分けにして持ち歩く
などが見られます。また、このような飲み方をしている人は、酒臭いです。
飲酒をコントロールできずにいると、体の中にアルコールが常にある状態になります。すると、その状態を維持しようと、数時間おきに少しずつ続ける連続飲酒、と言う状態に至るのです。
通常連続飲酒は3日以上続くのですが、体力の限界に達するまで、3か月以上飲み続ける場合もあります。
離脱状態
脳の神経が神経順応と言う状態になり、アルコールがある状態を正常、ない状態を異常と判断するようになり、アルコールが体から抜けた時に現れるのが離脱状態です。
- 手や指が震える
- 異常に汗をかく
- 激しい吐き気、嘔吐
- 下痢
- 睡眠障害(酒を飲まないと眠れない、飲んでもよく眠れない)
更に重症化してくると
- 幻覚症状(小さな虫や小動物が見える)
- 意識障害(意識の混濁)
- てんかんの発作
を起こすこともあります。
離脱症状は、飲む量や頻度が増えていくと、体内に常にアルコールがあり、中枢神経や、脳の神経細胞もアルコールに触れている状態になります。
すると脳の神経細胞は、アルコールが依存する状態に順応して変化し、神経順応と言う状態になるのです。
最新の飲酒問題
アルコール依存症は誤解の多い病気です。大酒飲みや、意志の弱い人などがなる病気と思われがちですが、高齢者や女性では、飲酒量が少なくてもアルコール依存症に陥ることが有ります。
もちろん多量の飲酒を続けた場合が主な原因であることは、変わりはありません。
2003年の調査*では、日本の成人のうちアルコール依存症の疑いがある人は約440万人、実際に治療の必要な患者さんは80万人いると推計されています。
従来は中年男性の病気と言うイメージでしたが、最近は女性や高齢歯の患者さんが増え、半分近くになっています。
女性、高齢者が高リスクとなる理由
女性はアルコール代謝が遅い、女性ホルモンの影響などで、男性に比べてアルコールによる肝機能障害などがでやすいことがわかっています。
また、男性より少ない飲酒量、飲酒期間で依存症になりやすいことがわかっています。
一時期世間を賑わせた、キッチンドリンカーも主婦のアルコール依存症と言って良いでしょう。不満や空虚感をお酒で紛らわす、育児ノイローゼから飲酒に走るなど理由は様々です。
高齢者は、加齢によりアルコール代謝が低下するなどの変化がおき、1日に日本酒換算で3合程度のお酒でも発症することがあります。
アルコール依存症スクリーニングテスト
久里浜医療センターのホームページで男性、女性、それぞれのチェックが簡単に行えます。以下はその転載です。男性版、女性版では内容に違いがあるのは、アルコール依存性の現れ方の違いによります。
Q. 最近6ヶ月の間に次のようなことがありましたか?(はいは1点、いいえは0点で計算)
男性版(KAST-M)
- 食事は1曰3回、ほぼ規則的にとっている
- 糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある
- 酒を飲まないと寝付けないことが多い
- 二曰酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことが時々ある
- 酒をやめる必要性を感じたことがある
- 酒を飲まなければいい人だとよく言われる
- 家族に隠すようにして酒を飲むことがある
- 酒がきれたときに、汗が出たり、手が震えたり、いらいらや不眠など苦しいことがある
- 朝酒や昼酒の経験が何度かある
- 飲まないほうがよい生活を送れそうだと思う
- 合計点が 4 点以上: アルコール依存症の疑い群
- 合計点が 1 ~ 3 点: 要注意群(質問項目 1 番による 1 点のみの場合は正常群。)
- 合計点が 0 点: 正常群
女性版(KAST-F)
- 酒を飲まないと寝付けないことが多い
- 医師からアルコールを控えるようにと言われたことがある
- せめて今日だけは酒を飲むまいと思っていても、つい飲んでしまうことが多い
- 酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある
- 飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある
- 私のしていた仕事をまわりのひとがするようになった
- 酒を飲まなければいい人だとよく言われる
- 自分の飲酒についてうしろめたさを感じたことがある
- 合計点が3点以上: アルコール依存症の疑い群
- 合計点が1~2点: 要注意群(質問項目6番による1点のみの場合は正常群。)
- 合計点が 0 点: 正常群
出典:久里浜医療センター
アルコール依存症の治療についてはこちらのエントリーでお伝えしています。
飲酒運転に関する6都道府県調査 2009年
厚生労働省労働科学研究報告書 2012年
日本アルコール・薬物医学界雑誌
まとめ~アルコール依存症の理解を深める
お酒はほどほどがちょうどよい。因習の習慣がある、家族にアルコール依存の傾向がある場合、依存症の疑いがあるかどうか、スクリーニングテストを受けてみましょう。
健康に良くないのはもちろん、家族や社会的にも深刻な問題を起こす可能性が高いので、アルコール依存症について、きちんと知っておくことも大切です。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ
追記
「地獄を見たければ、アルコール依存症の家族を見よ」と言う言葉があります。これは書くか書かないか迷った末、触れなかったのですが、はるうさぎさんが、実体験を今日のエントリーで書かれていましたので、追記させていただきます。
アルコール依存症は、家族をも壊す病気です。依存症になる前にストップをかけられるよう本人、家族の協力で対処したいです。