大学病院や専門病院で、専門的な治療を受けるか、地元の近くの病院で治療を受けて、家族のそばにいるか。難しい病気の患者さんにとって、その選択はとても難しい。その時看護師にできることは?
病院の選択に看護師ができること
遠くから大学病院や専門病院にやって来るのは、一抹の希望を託して先進的な治療を受けるため。しかし、回復が望めず時間の問題となった時、そのまま治療を続けるか、近くの病院に転院するか。
最終的に決めるのは患者さんご自身ですが、難しい選択をしなくてはいけない時、看護師としてどのようなお手伝いができるのか。それを考えることで、より良い看護を提供することが可能となります。
近くの病院と大学病院や専門病院、それぞれ役割が違う
近くの病院は、かかりつけの個人病院であったり、総合病院でも大学病院ほどの専門性はない場合が多いです。日常でちょっと具合が悪い時など、地元の人が通いやすいから、と選ぶことがほとんどです。
一方、専門的な治療を求めて、大学病院や専門病院に遠くから、ひとりで来院するケースも多い。大抵は難しい病気で、場合によっては回復の見込みが少ない場合も、少なくありません。
間に合わなかった最後のわかれ
30代の男性が皮膚がんの治療のため、大阪の郊外からお一人で入院されていました。不調を訴えて近くの総合病院にいかれた時は、既にがんが進行。
東京の専門病院にいけばなんとかなるのでは、と希望を託してやってこられたのです。
皮膚がんは見ておかしいと思った時は、かなり進行している状態になっています。お若い方はさらに速い。
小さいお子さんがいらっしゃり、共働きで生活されている方でしたので、奥様もなかなかご主人に付き添う時間がとれません。
無言のお別れ
治療もむなしく、どんどん進行し、残りの時間も少なくなってきたので「いざというときに、間に合わない可能性が大きい。近くの病院に転院するのは今しかない」とご家族にも伝えました。
しかし、働き盛りのご主人も、ご家族も、東京の病院での治療にかけるしかない、とすべての望みを託しているので、転院を説得することができませんでした。
亡くなられたのは、奥様がいったん帰られた3日後でした。残念ながら最後のお別れは無言の対面となったのです。
希望された治療を受けての最後でしたので、患者さんもご家族も、それはそれで良かったのかもしれません。看護師としては、やるせない気持ちになりますが。
大学病院、専門病院から近くの病院へ転院のタイミング
遠方の患者さんではいざと言う時に、ご家族が間に合わない可能性が大きい
看護師としても、大変辛いことです。残りの時間が少なくなってきた時、少しでも家族の側にいられるように、近くの病院に転院することを考えます。
しかし、「近くの病院では、専門的な治療を受けられない。ここで治療を続けたい」という患者さんの治癒への希望を、打ち砕くようなことをするわけにも行きません。
患者さんの希望をくじかないようにしながら、近くの病院に転院していただけるよう、ご家族とも協力して納得していただけるようにする必要があります。
意外と少ない、限られた病院でしかできない治療が必要な患者さん
難しい病状では、東京の大学病院や専門病院で、と地方からやって来られる患者さんが多いのは事実です。
しかし、先ほどの大阪の患者さんが受けられていた治療は、東京の大学病院でなければできない、先進医療ではありませんでした。近くの総合病院でも、受けられたはずの治療でした。
限られた一部の病院でしかできない治療を、必要とする患者さんは、以外に少ないものなのです。
患者さん、ご家族の負担が無理のない選択を
難しい病状で有ればあるほど、治療が長くなればなるほど、どこで治療を受けるかの選択は難しいです。
患者さんにとっても、ご家族にとっても、少しでも無理なく普段の生活に近く受けることができることを考えて選んでほしい。
何が何でも東京の大学病院で、ということではなく、近くの病院でその治療は受けられるのか、いざというときにすぐに向かえる場所なのか、それも病院を選択する重要な要素です。
多くの場合は、近くの病院が最善
難しい病状の患者さんにとって、受けたい治療がそこにしかない場合は、遠くから例えば東京の大学病院で治療を受けることもあります。
しかし、そのような治療を受ける必要がある患者さんは、意外と少ないものです。近くの病院でも受けられる治療であれば、わざわざ遠くの専門病院にいかなくても良いのでは。
というのも、いざというときに家族が間に合わない可能性があるからです。どうしてもその病院でなければ受けられない治療をうけ、結果として最後に立ち会えなかったとしても、患者さん、ご家族もやれることはすべてやった、と思うことができます。
しかし、近くの病院でも同じような治療を受けられるのなら、わざわざ遠くの病院に行くことはない。何かあってもすぐに駆けつけることができるからです。
患者さんの生への希望をそがない
一方、同じ治療でも、東京の大学病院ならもっと良い結果が出るのでは、と期待して入院されている方もいらっしゃる。
看護師は、その方の残り時間がなくなってきた時、ご家族の近くの病院への転院を準備し、少しでも長くご家族と一緒にいる時間を作って欲しいとも思います。
そのタイミング、患者さん、ご家族の納得を頂くのに看護師はとても気を使います。転院は、患者さんの「ここなら治るかもしれない」、という希望をくじくことになってしまうこともないとは言えません。
残り少ない時間を、一秒でも長くご家族と過ごしてほしい、ただその気持でいっぱいであることは間違いありません。
まとめ~看護師は患者さんの最善をお手伝い
限られた大学病院、専門病院などでなければ受けられない、特殊な治療を必要とする患者さんは、意外と少ないものです。
一般的に、難しい病状であっても、ある程度の規模の病院であれば、近くの病院を選んで療養することが、精神的にも、経済的にも、患者さんにとってもご家族にとっても最善の選択では。
看護師は、いつだって患者さんの最善をお手伝いしています。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ