漢方によるかぜの治療について、漢方薬の特徴と使い分けを簡単にまとめました。漢方薬は体質や症状により向き不向きが多いので、専門医に相談して処方してもらうのがベスト。
意外と知らない漢方の使い方
毎年受験のシーズンになると猛威を振るうインフルエンザ。最近インフルエンザで欠勤する職員があまりにも多く、業務が回らないというニュースも目にしました。
一方で、万病の元と言われる風邪ひきさんも増えています。「あれ、かぜかな?」と思った時は、総合感冒薬よりも、葛根湯を飲む人が多いです。薬局でも簡単に買えますし。
確かにかぜのひき始めで寒気がするときに、葛根湯を飲むとすぐに楽になれることも多い。しかし葛根湯に限らず、漢方は体質や症状で向き不向きがあります。
意外と知られていない漢方の使い方を見ていきましょう。
かぜに使われる主な漢方薬
葛根湯は風邪の万能薬ではありません。ひき始めで、寒気がするときに飲むと症状の改善が見られる漢方薬です。せきや鼻水、喉の痛みなどが出ている場合は、他の薬が有効となります。
虚実による判断 | 漢方薬名 |
---|---|
初期のかぜ | |
実証 | 葛根湯(かっこんとう) 麻黄湯(まおうとう) |
中間証 | 小青竜湯(しょうせいりゅうとう) |
虚証 | 桂枝湯(けいしとう) 麻黄附子細辛湯(まおうふしさいしんとう) |
長引くかぜ | |
実証 | 小柴胡湯(しょうさいことう) 柴朴湯(さいぼくとう) |
中間証 | 柴胡桂枝湯(さいこけいとう) |
虚証 | 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) |
実証~中間証 | 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう) 五虎湯(ごことう) |
中間証~虚証 | 麦門冬湯(ばくもんとうとう) |
表1
葛根湯の効果
葛根湯は葛根など7種類の生薬から生成され、身体の熱や腫れ、痛みを発散させて治す漢方です。
風邪のひき始めで、寒気がする時、頭痛、肩こり、筋肉痛、蕁麻疹などにも適応し、比較的適体力のある人(実証)に向いています。
咳や喘鳴を抑える「麻黄」、発汗・発散作用のある「桂枝」、痛みを和らげる「芍薬(しゃくやく)」、炎症やアレルギー症状を緩和する「甘草」などが配合。
かぜなら葛根湯神話
落語に「葛根湯医者」*という小話があります。来る人誰にでも葛根湯を処方する医者の話で、ヤブ医者の代名詞として使われることもある。
「やけど、切り傷、ひび割れなどなんでも◯◯ナイン」と言う時代があったように、葛根湯もかぜだけでなく、家庭の常備薬として考えられていた、ということでしょう。
しかし、漢方も症状や体質に合わせた処方をしなければ、効果は得られません。
東洋医学とかぜ
漢方薬は患者さんの自覚症状、体質などにあったものを選択するので、同じ症状や病名でも、処方される漢方薬が異なることもあります。
漢方では患者さんを診断するための独特の概念があり、その中の一つが「虚実」です。
生体のエネルギーの状態を図る、言わばものさしのようなもので、「虚証」「中間証」「実証」の3つに分けられ、初期のかぜと長引くかぜ、それぞれで使われる漢方薬があります。(表1)
漢方が風邪の治療に適している理由
かぜ(症候群)に正確な医学上の定義は無く、「主に鼻、のど、胃腸などに炎症を起こす急性の感染症」とされ、原因となる病原体はウィルスが約8割、細菌が約2割と言われています。
漢方などの東洋医学では、西洋医学のように病気の原因を科学的に究明し、治療を行うのではなく、心身のバランスを整えて、自然治癒力を高めることを治療の目的としています。
体全体を診て治療を行うので、原因がはっきりせず西洋医学では病気の概念がないものや、病気の一歩手前の状態(未病といいます)にも向いています。
かぜをひくと、鼻、のど、胃腸などの症状のほかにも寒気や関節痛など、様々な症状が現れるので、幅広い効果が期待できる漢方治療が、適していると考えられています。
患者さんに応じた使い分け~虚実の種類
実証: 整体の反応が強く出て、病気を外へ追いだそうとしている状態
- 体力が充実している
- 抵抗力が強い
- 胃腸が丈夫
- 声が力強い
虚証: 生体の反応が弱く、病気を外へ追い出す力が弱い状態
- 体力がない
- 抵抗力が弱い
- 胃腸が弱い
- 声に力がない
中間証: 実証と虚証の中間の状態
かぜが長引くと、初期の頃とは症状が変化してくるので、漢方薬も別のものが使われます。
漢方薬の特徴、副作用と注意点
漢方薬は、複数の生薬を組み合わせて作られています。生薬の組み合わせや調合の割合は「経験的に確かめられた効果」が認められたものだけが現在まで使われています。
最近は漢方薬についての科学的な研究も進められ、一部の漢方薬では、作用や薬効などが明らかになっています。
生薬とは漢方薬の原料となる、薬効のある植物の茎や根、鉱物など自然界にあるものです。
漢方の歴史
漢方はそもそも、感染症(流感)の治療を目的として始まりました。遠い昔に、一度に何千万、何億という生命が失われる感染症をいかに抑えこむか、が大きな目的でした。
かぜやインフルエンザも感染症です。漢方は、かぜによる症状や虚実がどのように変化するかを判断しながら、時期に合わせて処方を変えていきます。
漢方薬の副作用
漢方薬には副作用が無いから安心、と思われる方も多いのですが、他の薬との飲み合わせでトラブルが起きたりすることもあります。
特に同じ効果を持つ他の薬と一緒に飲んではいけません。
漢方薬を飲み始めていつもと違う症状が現れた時は、担当医に伝えます。かぜの場合では効果は早く現れるのが特徴なので、飲んでも改善しない時は必ず相談することです。
まとめ~漢方の使い方
インフルエンザは自覚症状がない時期に、感染源となってしまうので、流行を防ぐのは本当に難しいです。予防注射をしても必ず防げるというものでもなし。
ありきたりの予防策でも、一人ひとりが注意して行うこと、普段からの健康管理をしっかりすることも流行を少しでも抑える助けにはなります。
漢方は
- かぜをひきにくくする体質の改善効果を求めて飲むもの
- かぜを引いてしまったら、その時の体の状態に合わせて飲むもの
と、症状や状態の変化に合わせて、飲む漢方薬も変えていきます。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ
参考:
葛根湯医者
来る人来る人に漢方薬の一種である葛根湯を薦める医者がいた。
「頭が痛い? 頭痛ですね、葛根湯をおあがり。次は胃痛? 葛根湯をおあがり。今度は筋肉痛? 葛根湯をおあがり。次は…」
「先生、私は単なる付き添いですが」
「付き添い? 退屈でしょう、葛根湯をおあがり」
出典: Wikipedia
漢方薬の副作用
ただし、「漢方に副作用がない」というのはある意味で本当である。これは薬が天然のものだからという理由でなく、漢方の方法論において副作用という概念がないということによる。漢方では副作用が出た場合は誤治、すなわち診断ミスか投薬ミスとみなされる。漢方では、理論上は、副作用があって治癒できるなら副作用なしでも可能であるとされている。
出典: Wikipedia
日本呼吸器学会、2005年11月20日第1刷発行