心臓の大動脈の壁がこぶ状に膨らんでできた大動脈瘤は、破裂すると生命に関わります。大きな原因は高血圧と動脈硬化です。多くは破裂直前まで症状が現れませんので、早期発見が重要です。大動脈瘤の治療についてお伝えします。
大動脈瘤の治療
後述の検査などで大動脈瘤が見つかった場合は、こぶが小さければ薬物療法が行われます。
降圧薬を用いて厳重に血圧を管理し、経過観察をしながら医師が破裂の危険性を予測して、手術の必要性を検討します。手術の目安は
- 胸部大動脈瘤 6cm以上
- 腹部大動脈瘤 5cm以上
で、ステントグラフト内挿術や人工血管置換術などの治療が検討されます。
ステントグラフト内挿術
比較的新しい治療法です。下腹部を小さく切開して血管にカテーテルを挿入し、「ステントグラフト」という人工血管を大動脈瘤のある部位に送り込み留置する方法です。
ステントグラフトは折りたたまれた状態で送り込まれますが、留置するとバネが開いて自然に広がり、大動脈の壁に張り付くように固定されます。
これにより大動脈瘤にも流れていた血液が、ステントグラフト内だけを流れるようになるので、こぶの破裂を防ぐことが可能となります。
出典:ステントグラフトによる大動脈瘤治療の模式図 東京医科大学
大動脈瘤治療の第一選択
ステントグラフト内挿術は体への負担が小さいので、近年では治療の第一選択として検討されることが多くあります。
高齢者や以前に開腹手術を受けたことのある人でも治療が受けられます。しかし、
- 大動脈瘤が血管の枝分かれしている部位の近くにある場合
- ステントグラフトを固定する部位の血管が弱い場合
には受けることはできません。
- 治療時間: 2~4時間、手術後3~5日で退院
- 手術後: 年に1回CT検査を受け、ステントグラフトや大動脈瘤に異常が無いかどうか調べる必要あり
人工血管置換術
大動脈瘤のある部位の血管を切除、ポリエステル繊維などで作られている人工血管に置き換える手術です。血液が漏れる心配もなく、耐用年数は20年以上あります。
弓部大動脈瘤の場合、こぶが心臓に近い位置にあり脳へ向かう血管を切除するので、手術は「人工心肺装置」を使って血液の循環を保ちながら行います。
腹部大動脈の場合は、心臓から離れているので人工心肺装置を使わずに行えます。
手術のリスク
手術時間は大動脈瘤のある部位により異なりますが、数時間~10時間以上、手術後2~3週間の入院が必要です。大動脈瘤の破裂を避けるには手術が有効です。しかし、
- 弓部大動脈瘤では、手術に伴うリスクとして死亡率が5~10%、脳梗塞や神経障害を起こすリスクもあります。
- 腹部大動脈手術の死亡率は1%程度です
症状が現れていない状態で手術を受けても、こうしたリスクを伴うことをよく把握し、医師と十分に相談した上で手術を受けるかどうかを判断することが大切です。
手術後は血圧の管理と心臓リハビリテーションにしっかりと取り組む必要があります。
大動脈瘤とは
大動脈は心臓の左心室から出る血管です。心臓から送り出された血液は、ここを通って全身へ運ばれます。成人では直径が約2~3.5cm、長さは45~50cm程です。
この大動脈の一部がこぶ状に膨らみ、直径が健康な大動脈の1.5倍以上になったものが大動脈瘤です。血管壁の両側が膨らむもの、片側が膨らむものがあります。
大動脈瘤は、大動脈のどの部分にでも発生する可能性があり、以下の2つに大別されます
- 胸部大動脈瘤 横隔膜より上にできる
- 腹部大動脈瘤 横隔膜より下にできる
日本人に多いのはおへその周りの大動脈にできる腹部大動脈瘤と、心臓の丈夫の大動脈がカーブしているあたりにできる胸部大動脈瘤(弓部大動脈瘤)です。
症状と早期発見
大半の大動脈瘤は破裂する直前、もしくは破裂してから症状が現れます。胸、背中、お腹、腰など大動脈がある部位に、それまで経験したことの無いほどの激しい痛みが生じます。
まれに弓部大動脈の近くにある声帯に関わる神経が圧迫され、「声がかすれる」などの症状が現れたり、腹部大動脈瘤では「お腹を触ると強く脈を打っているのを感じる」ことがあります。
破裂する前に発見!
上記の様な症状がある場合は、緊急に治療が必要です。大動脈瘤が破裂した場合は、大出血をおこし生命に関わるのですぐに救急車を呼んでください。
緊急手術が行われますが、破裂している場合約半数は救命が困難です。
破裂する前に大動脈瘤を発見して治療を受けることが大切です。そのためには定期的に健康診断や人間ドッグなどを受けることが必要です。発見のためには、
- 胸部X線検査→胸部大動脈瘤
- 高音波検査→腹部大動脈瘤
- 造影剤を使ったCT検査→より詳しく調べるため
が行われます
大動脈瘤の原因
大きな原因は
- 高血圧
- 動脈硬化
です。高血圧は動脈硬化により血管壁がもろくなると血流の圧力に耐えきれなくなり、瘤が生じやすくなります。
動脈硬化は高血圧のほか、「肥満」「加齢」などがあります。そのため大動脈瘤は動脈硬化が進行しやすい70歳以上の人に多く見られます。
近年では、50~60歳代の男性にも増えていて、高齢化の影響もあり患者数が増えています。
ハートチーム
近年心臓病を扱う医師の間で、「ハートチーム」という概念が広がりつつあります。
心臓病は大きく循環器内科(薬物療法、カテーテル治療)と心臓外科(手術)が診療科となります。
担当医の所属する診療科の治療を優先するのではなく、診療科の垣根を超えて医師どうしが話し合い、患者さんに最適な治療法を提案しよう、というのがハートチームの考え方です。
将来的には治療を行った担当医、一般内科医、リハビリテーションの診療医、地域のかかりつけ医などともチームを組み、長期に渡って患者さんをサポートすることを理想としています。
血管についてはこちらのエントリーでも取り上げています。合わせてどうぞ。
まとめ~原因となる高血圧、動脈硬化を改善
破裂すると生命に関わる大動脈瘤は、破裂直前、あるいは破裂しないと症状が起こりません。
早期に発見するためには定期的な健康診断やX線、CTなどの検査を受け、見つかった場合は治療を受けることが大切です。
また、原因となる高血圧、動脈硬化を改善する、肥満を改善することも重要です。
「Anのひとりごと」~今日も1ページ
参考:大動脈瘤・大動脈解離診察ガイドライン 日本循環器学会 /www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_d.pdf