静脈にできる血栓は、はがれて肺の血管をつまらせると、最悪死に至る場合もある怖い血管の病気です。手術をしたあとは血栓ができやすくなります。なぜできやすいのか、また、手術後の血栓の予防についてお伝えします。
手術後の血栓
手術後は血栓ができやすく、血栓がはがれて肺塞栓症を引き起こす危険性も高まります。自身や家族などがこれから手術を予定している、入院中などの方に是非読んで欲しい内容です。
手術後は血栓ができやすくなることを理解して、予防に取り組むことが大切です。血栓がはがれて肺塞栓症が起こると、命に関わることもあります。
手術後の肺塞栓症は、離床の許可が出て歩き始めたときや、ベッド上で体位変換が行われたときに起こりやすいとされています。
なぜ手術後に血栓ができやすくなるの?
血栓が出来る要因は3つありますが、手術によって3つとも当てはまることが起こるからです。
血栓ができる3つの要因
- 血流がゆっくりになる
- 血液が固まりやすい
- 血管壁に傷がつく
手術をした後に血栓ができた人の約45%が当日に、当日から4日以内では約90%に発生しています。
血栓ができる要因と手術の関係
血栓ができる要因 | 手術で起こる状態 |
---|---|
血流がゆっくりになる | 手術中・手術後の安静 |
血液が固まりやすい | からだの止血反応 |
血管壁に傷がつく | 手術中の損傷 |
手術後に血栓ができやすい理由
静脈に血栓ができる主な原因は、長時間座っているなどでふくらはぎの筋ポンプ作用が低下し、血液の流れがとどこおり溜まることです。高血圧などの生活習慣病も関係しています。
血流の流れがとどこおる要因には前述の3つの要因がありますが、手術がどのように関係するのか、それぞれについてもう少し詳しく見てみましょう。
血流がゆっくりになる 手術中、手術後の安静
手術中や手術後、安静が必要な間は脚を動かさない状態が続くので、脚の血流がゆっくりになるため血栓ができやすくなります。
内科の病気の治療や検査のための入院、自宅療養などで横になっている時間が長いときも、血流がゆっくりになります。
血液が固まりやすい 身体の止血反応
手術の切開で出血すると、出血を止めようとする身体の止血反応が全身に起こります。そのため全身の血液が固まりやすくなります。
血管壁に傷がつく 手術中の損傷
下腹部や脚などの手術では、脚の血管が引っ張られたり、血管にカテーテルを挿入したりすることで、血管の壁が傷つくことがあります。
手術後の血栓の予防法
手術後の血栓の予防法には以下の5つがあります。患者さんごとに手術の内容、年齢や持病の有無など、血栓ができるリスクを評価します。リスクの程度が高いほど多くの予防法を行います。
血栓の予防法
- 脚の運動
- 早期離床
- 弾性ストッキング
- 器具によるマッサージ
- 薬物療法
脚の運動や弾性ストッキングなど通常の血栓予防の他に、器具の使用や家族などの補助を利用することもあります。
5つの予防法
脚の運動
ベッドに横になったままで脚を動かし、血流を促進させる運動です。ふくらはぎの筋肉が伸びたり縮んだりすることで、脚の静脈の血流が良くなります。
- 足首を曲げたり伸ばしたりする
- ふくらはぎの筋肉を意識し、ゆっくりしっかり動かすのがポイント
- 1~2時間ごとに、10~20回程度くりかえす
自分で行えない場合は家族など周囲の人がマッサージを行います。
- 足首からひざの方へとふくらはぎをマッサージする(血液を心臓に送るイメージ)
- 関節や筋肉などを痛めないように、優しくていねいにおこなう
早期離床
離床の許可がでたら、積極的にベッドから出るようにしましょう。痛みがあるから歩いてはいけない、ということはありません。
痛みがあると身体を動かすのは良くない、と思うかもしれませんが無理のない範囲で歩くようにしてください。
弾性ストッキング
足首の部分の圧力が強く、上に行くほど圧力がかかるようになっています。
ふくらはぎの太さに適したサイズのものを使い、多くの場合入院中使い続けます。圧迫しすぎて動脈の血流が悪化し、皮膚の色が変化していないかチェックすることも大切。
器具によるマッサージ
左右の脚に巻いた「カフ」にポンプから管を通じて一定の間隔で空気が送られ、自動的に脚のマッサージを行います。
ふくらはぎの筋肉が一定のリズムで締め付けたり緩めたりされ、血流が良くなります。
薬物療法
血液を固まりにくくする薬(内服薬、注射薬)を使います。
薬物療法を行うと出血しやすくなるので、手術後の使用には注意が必要です。血栓により肺塞栓症を起こすリスクが高いと判断された患者さんを中心に行われます。(がん、関節リウマチなどがある場合)
血栓ができてしまったら
予防法を行っていても血栓ができてしまうことはあります。その場合は
- 血栓を溶かす薬を用いた治療
- カテーテルを用いた手術
などで血栓を取り除きます。
手術のことに意識が集中しがちですが、手術後は血栓ができやすい状態になることを知り、適切な予防に取り組むことも重要です。
手術後の血栓予防が大切なわけ
手術のあとは血栓ができやすい状態になっています。身体を動かし始めたときにはがれ、肺に到達して肺塞栓症を引き起こすリスクも高い。
病気を治すために手術をしたのに、更に重篤な病気を引き起こしてしまう可能性があるということです。
手術後に脚の腫れや痛みが起これば血栓が疑われますが、症状が現れないことも多く、症状から血栓ができたかどうかを判断するのは難しいです。
超音波検査を行えば、血栓の有無は確認できますが、手術を受けたすべての患者さんに頻繁に検査を行って調べるのは事実上困難でしょう。
手術では血栓ができやすいので、血栓ができないようにするため、必ず血栓予防を行う
ということが肺塞栓症を防ぐためにも大切なのです。
まとめ
手術後は血栓ができやすい状態になります。症状がなくても血栓予防に取り組むことが大切です。ベッドの上で脚の体操やマッサージを行い、離床の許可がでたらできるだけ歩くようにすることも大切。
肥満、高血圧など生活習慣病も血管の老化を招き、血栓ができやすくなるので改善に努めましょう。
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