血圧の薬に限らず、薬は処方されるときに、医師から使う理由や効果、飲み方などの説明を受けます。しかし、あまり気にしていないことも多いものです。心臓病、腎臓病、血管の病気など、循環器病の予防が可能な高血圧の治療をきちんと続け、血圧をコントロールするためにも、降圧薬のことを理解しておきましょう。
高血圧の治療と降圧薬
高血圧の治療は、まず生活習慣を修正(非薬物療法)します。一定期間続けても、血圧が下がらない場合は降圧薬も併用した治療となります。
実行と継続が難しいですが、しっかりやれば薬を止めたり減らしたりも可能です。
入院中は看護師が服薬を管理しますが、通院治療では薬の管理は自己責任。特に長い間飲み続ける降圧薬は一種の習慣のようなものになってしまいがち。飲まないで薬を溜めてしまう患者さんも多い。
最近の調査では、驚くほどの残薬があり、これを有効活用することで年間約100億円!の削減が推定*されるそうです。
どんな薬で、どのように使うのかを理解することは、服薬の重要さを再確認し、治療の効果にも影響があります。
降圧薬の種類、どんな人に向いているのか、副作用や注意点をまとめました。
*医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)(www。mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000103268.pdf)厚生労働省
生活習慣の修正(非薬物療法)
- 減塩
- 野菜・果物を積極的に摂る、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
- 体重コントロール(肥満がれば減量し適性な体重を維持)
- 運動療法
- 節酒(アルコール摂取制限)
- 禁煙
まだそれほど血圧が高いわけではないけれど…外食が多い、運動不足、飲酒などなど将来の高血圧が不安なあなた。まずは生活習慣の改善が第一ですが、忙しい現代人の血圧管理のため、補助的に血圧ケアサプリメントを、試してみるのも良いかもしれません。
降圧薬と副作用
薬は副作用が怖い、という人も多いですが、降圧薬で治療したほうが、しないでいるよりも脳卒中や心臓病、さらに全体の死亡率も少ないことが分かっています。薬を飲まないほうがもっと怖い。
高血圧の薬には重い副作用は多くありませんし、副作用がでてもほとんどの場合、飲むのを辞めれば改善します。
主な降圧薬の特徴
降圧薬の種類 | 特に向いている人 | 副作用・注意点 | |
---|---|---|---|
血管を拡張させる |
カルシウム拮抗薬 | 高齢者 糖尿病、狭心症 脳卒中を起こした人 |
顔が赤くなる、むくみ、動悸 房室ブロックのある人は使えない (塩酸ジルチアゼムの場合) |
ACE阻害薬 | 高齢者 糖尿病、メタボ 心血管病、腎障害のある人 |
空ぜき 妊娠中は使えない |
|
アンジオテンシンII 受容体拮抗薬 |
高齢者 糖尿病、メタボ 心血管病、腎障害のある人 |
副作用は少ない 妊娠中は使えない |
|
α遮断薬 | ストレスの多い人 前立腺肥大症のある人 早期高血圧の人 |
起立性低血圧 (どうき、たちくらみ、めまい) |
|
血流量を減らす |
β遮断薬 | 若年・中年層 ストレスの多い人 心血管症のある人 |
徐脈、房室ブロック 喘息発作の誘発 インスリン療法を行っている人には不向き |
利尿薬 | 高齢者 食塩摂取量の多い人 他の薬で十分降圧効果が得られない人 |
低カリウム血症、高尿酸血症、 糖尿病、脱水 痛風のある人は原則使えない |
降圧薬治療の進め方
血圧の薬を使いはじめるときは、原則として1種類の薬を少量からですが、重症高血圧の場合は、十分血圧を下げるのが難しいので、2種類以上を用いることもあります。
最近は複数の薬を少量ずつ併用する使い方が増えています。
1ヶ月後に様子をみて、血圧が十分に下がっていればそのまま続けます。
降圧が不十分な場合は、増量、他の薬に変える、併用する、などで通常は2~3ヶ月以内に降圧目標を達成することを目指します。
降圧薬は大きく分けて血液を拡張させて、末梢血管での抵抗を下げる薬と、全身を循環する血液量を減らす薬があります。
血管を拡張させる薬
血管を拡張させて末梢血管での抵抗を下げる薬です。
- カルシウム拮抗薬
- ACE阻害薬
- アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
- α遮断薬
があります。
▷カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬とは、現在日本で最も良く用いられている降圧薬です。血管を拡張させて血圧を下げる薬の代表的なもの。
いろいろなタイプの高血圧に降圧効果があり、特に高齢者に良く用いられ、高脂血症や糖尿病のある人も使えます。
副作用・使用上の注意
- 顔が赤くなる、むくみ・・・血管が広がるため現れることがある
- 動悸・・・薬が効きすぎて一時的に起こる
このような場合は通常使い続けて問題はありません。
また、カルシウム拮抗薬を飲んでいる人がグレープフルーツジュースを飲むと、薬の血中濃度が高くなり血圧が下がりすぎることがあります。基本的に避けます。
「塩酸ジルチアゼム」
房室ブロック*のある人は使えません。血管拡張作用は強くないのですが、心臓の働きを抑制するので、脈が遅くなることがあります。
※房室ブロック:心臓の拍動を起こす電気刺激がうまく伝わらず、脈が早くなる「徐脈」の原因になる
▷ACE阻害薬
血圧を調節する仕組みの一つ「レニン・アンジオテンシン系」において、血圧を上げるホルモン「アンジオテンシンII」が生成されるときに働く、「アンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを妨げ、アンジオテンシンIIの生成を抑えて血圧を下げます。
その他期待される効果
- 血圧を下げる「ブラジキニン」という物質を増やす作用
- インスリン感受性を改善し、糖尿病の発症を抑える効果
- 腎臓や心臓などを保護
- 軽い腎障害の進行を抑える効果
副作用・使用上の注意
空ぜきが出やすい(せきの誘発に高齢者の誤嚥性肺炎を減らす効果)
呼吸困難・・・極まれに、血管神経性浮腫によっておこることがある
胎児に悪影響のおそれ・・・妊娠中、妊娠の可能性がある人は使えない
▷アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
ACE阻害薬同様、レニン・アンジオテンシン系に作用する薬です。アンジオテンシンIIの刺激を受け取る受容体に結合し、アンジオテンシンIIの血管を収縮させる作用を抑え、血圧を下げます。
ACE阻害薬の副作用の空ぜきが起こらず、降圧効果も同等かそれ以上得られるので、日本ではカルシウム拮抗薬についで、広く用いられるようになっています。
糖尿病や心血管病などの効果も期待できます。
副作用・使用上の注意
- 副作用は少ない・・・血管神経性浮腫などもほとんどみられない
- 中等以上の腎障害を悪化させることはある
- 妊娠中、妊娠の可能性のある人は使えない
▷α遮断薬
交感神経は血管を収縮させたり、心臓の働きを活発にして血圧を上げます。その刺激はα受容体やβ受容体を介して、血管や心臓に伝えられます。
血管壁に分布するα受容体の働きを抑えます。血管を収縮させる交感神経の刺激を遮断することで、血管を拡張させて血圧を下げます。
ストレスの多い人に向いているとされています。効く人と効かない人がはっきり分かれます。
早朝高血圧*の人では寝る前に服用し、早朝の血圧を下げる使い方もよくされます。
糖尿病、高脂血症のある人も使いやすい薬で、前立腺肥大症による排尿困難も改善します。
*交感神経が活発に働き出す朝方に血圧があがります。
副作用・使用上の注意
- 動悸、たちくらみ、めまい・・・薬を初めて飲んだ時に現れることがある
- 起立性低血圧
起立性低血圧のある人は使えません。
血流量を減らす薬
全身を循環する血液量を減らします。
- β遮断薬
- 利尿薬
があります。
▷β遮断薬
主に心臓に分布するβ受容体の働きを抑え、心臓の活動を適性にすることで循環血流量を減らし、血圧を下げます。頻脈性不整脈や心不全にも有効。
β遮断薬は様々なタイプが有り、患者さんの合併症と薬の作用・副作用を考えあわせて選びます。(心臓のβ受容体のみに作用するβ1選択性、心臓や血管を保護する作用があるものなど。)
交感神経はストレスの影響を受けやすく、β遮断薬はストレスの多い人に向くと言われています。
▷利尿薬
尿量を増やし、腎臓から水分とナトリウムを体外に排出し、血流量を減らして血圧を下げます。高齢者にはよく効く人が多く、食塩の摂取量が多い人には特に有効です。
サイアザイド系利尿薬と、ループ利尿薬、およびカリウム保持性利尿薬(アルドステロン拮抗薬)が用いられます。
副作用・使用上の注意
低カリウム血症、糖尿病、高尿酸血症、高脂血症が起こる可能性があり、日本では少量を他の降圧薬と併用することが多いです。
降圧のために用いる場合は、通常1錠の1/4~1/2程度を用います。降圧薬を複数用いる場合は、利尿薬を入れると他の降圧薬も効きやすくなります。
- 重い心不全の人も使えます。
- 原則痛風の人には使えません。
その他の薬
古くから高血圧の治療の用いられてきた薬は、起こりうる副作用が予測できるので妊娠中の人も使えます。
- 血管拡張薬・・・末梢神経に直接働いて血管を広げる
- 交感神経中枢抑制薬・・・脳の中枢に働く
- ラウオルフィア製剤・・・末梢の交感神経を抑制する
作用が強力で効果が速いのですが、副作用も強い。そのため緊急に血圧を下げる必要がある場合や、他の薬では降圧を十分にできない場合などに限り用いられます。
高血圧の死亡リスク
高血圧治療が健康寿命を伸ばすのに、なぜ効果があるのか。以下の表を見ると、2007年の資料ですが、日本人の非感染性疾患及び外因による死亡者は、トップが喫煙で高血圧は2位です。
疾患では、高血圧による心血管病がダントツの1位。年間約10万人が高血圧で死亡しています。
高血圧は生活習慣の修正と薬物療法で改善できます。薬を飲まないよりも飲んだほうが確実に心血管病のリスクを減らせるのです。
出典: 高血圧治療ガイドライン2014 23P 日本高血圧学会発行
高血圧の予防に機能性食品
今は高血圧ではないけれど、将来の不安をなくしたい、予防したい場合は生活習慣を見直し、改善することが一番の方法です。最近では様々な機能性食品が市販されており、利用者も増加しています。食事だけでは不足する成分を手軽に摂れる、機能性食品を試してみる、という方法もあります。
飲めば高血圧にならないわけではありませんが、臨床試験で血圧が穏やかになる傾向が確認され、機能性が認められたトクホ、機能性表示食品などもあります。
健康志向の現代では、血圧ケアのために食事、生活習慣の改善にはげみ、さらにサプリメントを補助的に利用する人も増えています。気になる方は健康診断などで、相談してみても良いですね。
葉酸と血管の老化
最近妊活での摂取が推奨され話題となっている葉酸ですが、実は血管の若返りにも深くか関わっています。葉酸はホモシステインというアミノ酸の一種を、悪玉から無害なアミノ酸に戻す働きがあるのです。
ホモシステインが過剰になると血管壁を傷つけ、血管の細胞を壊したり、神経細胞を壊したりします。長い間には血管にコレステロールが付着して動脈硬化につながり脳卒中の要因にも。
神経細胞が少しずつ壊れるので認知症の恐れも。葉酸は食品からだけでは必要な推奨量を摂取するのは難しく、厚生労働省も葉酸サプリでの摂取を推奨しています。
十分な量の葉酸の摂取で血管の若返りを目指すことで、血圧の薬のお世話になるのを遅らせたり、減らしたりすることは期待できると思います。
*葉酸は栄養機能食品です。栄養機能表示は
- 葉酸は、赤血球の形成を助ける栄養素です。
- 葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素です。
血管年齢のチェックもしてみましょう。葉酸と血管の関係は下記の記事も是非読んでみてください。
降圧薬に頼る前に心がけたいこと
血圧が高めのうちに、機能性のあるサプリなどの利用も一つの選択肢ですが、あくまでも補助的に利用することが大事です。
肥満は病気になるリスクのすべての出発点、ともいえます。栄養バランスの良い食事を適切な量、適度な運動、喫煙や過度の飲酒は控えるなど、生活習慣の見直し、改善が基本です。
血圧が高めだと思ったら、降圧薬に頼らなくてはいけなくなる前に、まず、生活習慣を見直してみてください。
まとめ~血圧をコントロールする
高血圧の治療は、生活習慣の修正と降圧薬の併用となります。どちらも継続することが大事。血圧をコントロールすることを目指します。
生活習慣も、薬物療法も治療の目的、なぜその方法、その薬なのかをきちんと理解して行うことも重要です。
薬はきちんと飲む必要があります。溜めてしまってはいけません。貯めて良いのはお金や知恵などです(笑)。
参考: 高血圧治療ガイドライン・エッセンス 2014年5月更新
高血圧の分類や血圧に基づいた脳心血管リスク、高血圧治療など、日本高血圧学会発行の「高血圧治療ガイドライン」の内容を、日本心臓財団がコンパクトにまとめたものです。
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